2024年02月16日

No.1689 平時に何をすればいいんだ?~これ、営業コラムです~

ツイッターでも書きましたが、以下の記事を見て「もったいないなあ」と感じました。平時のトレーニング不足が原因だと思いますよ。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF1593F0V10C24A2000000/

京阪神ビルディングの南浩一会長は、8日に京都市内で開かれた関西財界セミナーで「過去にアクティビストの洗礼を受けたが、企業の目的は利益の最大化しかないという(アクティビストの)思想と、我々の考えはかみ合わない部分がある」と話していた。

過去、村上ファンドの設立メンバーである丸木さんの投資会社に大量保有報告書を提出され、敵対的TOBまで仕掛けられた京阪神ビルディングの南会長の発言です。これ、もったいないんですよ。何がもったいないかと言うと、南会長の本意はこういうことではないのです。

「企業の目的は利益の最大化しかないというアクティビストの思想と、我々の考えはかみ合わない部分がある」 いや、これ、企業=株式会社の目的は利益の最大化、株主利益=純利益の最大化ですよ。って言うとおそらく「違う!株主利益だけじゃない!従業員や取引先、地域社会の利益も重要だ!」とおっしゃるでしょう。ええ、重要ですよ。

ただしそれは「株主利益=純利益を最大化するために重要だ」ということです。株主利益だけを最大化するために、従業員の給料を下げ、取引先の仕入れ価格を叩きまくり、環境を無視した経営をしたらどうなりますか?従業員や取引先は会社から離れていき、地域社会や国・世論は環境を無視した経営をする会社を批判します。そうすると、株主利益=純利益がどんどん減っていきます。

何のために従業員の給料を上げ、取引先を重視し、環境に配慮した経営をしているのか?すべて会社の利益を最大化するためでしょう?経営者の皆さんに課された使命はなんですか?環境に配慮した経営をすることですか?ガバナンスを改善することですか?いいえ、違います。みなさんの使命は「かせぐこと」ですよ。異論、ありませんよね?

企業の目的は利益の最大化しかない、という発言は当たり前のことですし、仮にアクティビストがそういう思想なら経営者は受け入れる必要があります。しかし京阪神ビルディングの南会長が言いたいのはそういうことではないでしょう?南会長が本当に言いたいことはこういうことです。

『過去にアクティビストの洗礼を受けたが、企業の目的は「株価」の最大化しかないという(アクティビストの)思想と、我々の考えはかみ合わない部分がある』

南会長!会長がおっしゃりたかったのはこういうことではないでしょうか?例えばですが、アクティビストが「株価のために不要な従業員を削減せよ」「株価のために仕入先を叩け!」「地域社会への貢献など株価には関係がない」と言ったらどうです?一時的な利益拡大により株価が上がるかもしれませんし、それによってアクティビストが売り抜けるかもしれません。でも翌期以降の会社の利益はどうなりますか?

これがアクティビストと経営者の違いです。って言うと「いや、中長期的に株式を保有しているアクティビストもいるぞ!全員が全員、短期で売り抜けるわけじゃない!」っておっしゃる方がいるでしょう?違いますよ。

アクティビストは中長期的に株式を保有して企業価値を向上させることを目的にしているのではなく、思ったほど株価が上がらないから持ち続けた結果、保有期間が長くなっただけでしょ?そういうの、なんていうか知ってます?塩漬けって言うんですよ。

前置きが長くなってすみません。京阪神ビルディングの南会長が言いたかったことはおそらくこういうことなんですよ。でも言葉のチョイスを間違ったから、2回目の大量保有報告書を提出したストラテジックキャピタルの丸木さんはおそらく「南会長、企業の最大の目的は株主利益の最大化ですよ!まだわかっていないのですか!」とおっしゃるでしょう。

そして南会長がどうしてこういう発言をしてしまったかと言うと、平時に適切なトレーニングをしていないからではないかと想像します。アクティビストとのやり取りはある意味戦争です。ちょっとした言葉の選択ミスが命取りになることだってあります。※逆もありますよ。時代の流れを読まずに「オレは日本の経営者を教育するために来日したぜ!」といったアクティビストが袋叩きにあったこともあります。

そういうミスをしないよう、日ごろからこまかい言葉遣いなども含めたトレーニングが必要なんです。じゃあどういうトレーニングなのか?と言うと、日々世の中で起きていることを正確に読み、理解し、腹に落とし、自分の言葉でしゃべれるようにすることです。

記者:南会長、ストラテジックキャピタルが貴社の大量保有報告書をまた提出しましたが、これについてコメントをいただけますか?

南会長:大量保有報告書の提出については認識しておりますが、個別の株主様に関するコメントを控えさせていただきます。

記者:先日関西財界セミナーで「アクティビストの思想と貴社の考えはかみ合わない」とおっしゃっていましたが、これについて株主利益の軽視だという声も上がっていますが。

南会長:ちょっと補足させていただきますが、決して会社の利益の最大化を否定したわけでもなければ、個別の株主・投資家を批判したわけではありません。一般論として、いわゆるアクティビスト株主のあまりにも株価一辺倒の主張に対しての警鐘という意味合いでの発言でした。株式会社の最大の目的は利益、つまり株主利益の最大化であることは間違いありませんが、今の時代、株主利益と株価がごちゃ混ぜになっていないでしょうか?アクティビスト株主が株価を重視する姿勢であることは彼らのミッションを考えると当たり前のことですが、それと経営や会社の利益などをあまりにリンクさせすぎてしまうと、従業員や取引先、地域社会といった他のステークホルダーの利益がないがしろにされてしまうリスクがあるのです。当然、経営者は株価を重視しなくてはならないし、企業価値をあいまいに定義してはいけません。過去、我々も含めて株価や株主利益を重視しなかった経営をした時代が日本であったのは事実です。それはあらためなくてはならない。しかしだからと言って、株価だけを重視した経営をするわけにはいかないし、そうした経営をすると必ずどこかで落とし穴にはまります。我々はそういったことにならないよう、すべてのステークホルダーに対して公平な分配をし、すべてのステークホルダーが満足をする経営を実践した結果、最終利益である株主利益を最大化することにつとめていきたいし、それがひいては株価向上につながるようにしていきたいと思っています。なお、決してアクティビストの存在を否定するわけではないことをご理解いただきたい。

こんな感じでどうでしょう?ちょっと目くらまし的ないいまわしもありますが、揚げ足を取られるような内容ではないし、アクティビストに批判されることもないと思います。

これ、平時からトレーニングして、細かい言葉の違い、ニュアンスの違いなどを議論して、十分に理解し、腹落ちさせ、自分の言葉でしゃべれるようにトレーニングしておかないと、絶対に有事になったら対応できないんですよ。

もちろん有事になったら想定Q&Aを準備しますよ。でも原稿を読むだけですよね?原稿を読んでいたら「ご自身の言葉でしゃべっていただけますか?」というヤジが飛んできますよ。

本来、メディア対応というのは有事になってからするもんではないのです。これこそが平時に対応しておくべきことなんですよ。

例えば、以下のケースについての考え方を議論し、自分の言葉でしゃべれるようにするトレーニングが一番役に立ちます。当社ではつねに提供しています。当然ですが、アドバイザー自身がこの質問に対して即答できないとダメです。

■損保の政策投資株売却が加速化するようだが、貴社の安定株主比率が低下する可能性についてどう考えるか?そもそも安定株主などは存在しないほうが緊張感を持った経営をすることができると思うがどうか?

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB15A2P0V10C24A2000000/

■トヨタグループが持ち合い解消をするそうだが、これに対しての感想を聞かせてほしい。貴社はまだ持ち合いをやっているのか?今後の方針も教えてほしい。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD068N50W3A201C2000000/

■日本企業に対するアクティビストの攻勢が強まっているが、これについての意見を聞きたい。ちなみに貴社の株価はPBR1倍を下回っているが、今後どう対応してくのか?改善策もまだ公表されていないが。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB014DD0R00C24A2000000/

■これからの時代、株主との絆が大切になってくると思うのだが、今後の貴社のIR戦略はどのようなものになるのか?

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK0247E0S4A200C2000000/

さて皆さんならどう答えますか?私の答えはコラムでまとめます(申し訳ないのですが、これは顧問契約先のみの特別コラムです)

うちの営業をするつもりだったのですが、えらく長いコラムになってしまったので、次にします。

 

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