2024年03月14日

No.1713 ブラザーに水面下で買収提案されていたのにMBO?

ブラザーが公表したプレスリリースを読んで思ったのですが、どうやらブラザーが水面下でローランドDGに買収提案をしていたにも関わらずローランドDGが突如MBOの実施を公表したのでブラザーが「うちの提案をちゃんと検討したんか?」と(怒って?)敵対的TOBって感じですね。なんでローランドDGはブラザーの提案に対してMBOで対抗できると思ったんですか?TOB価格は当初ブラザーのほうが安いけど、MBOを知ったら上げてくるに決まってるじゃないですか。それくらいわかるでしょ?ブラザがー敵対的TOBまではしてこないと思ったの?だとしたらド素人のアドバイスじゃないですか・・・。

ブラザーって感情的にならない、シビアな会社だと思いますよ。だって海外売上多い会社でしょ?ブラザーってある意味、海外の会社だよ。かつてスティールパートナーズというアクティビストに狙われて痛い目を見た会社だから敵対的TOBは洗濯しないと思いましたか?そんなわけないじゃない。時代も経営者も当時と変わってますよ。

いやー、ホントにホントにMBOで勝てると思ったの?ホントはホントは別の秘策があるんでしょ???ここから何か出てくるんでしょ?と思いたくなりますし、そうじゃないんだとしたら「はあ?ホントにMBOで勝てると思ったの???」って話ですよ・・・。そうならないことを期待しています。

まさかとは思いますが、MBO側がTOB価格を引き上げるわけじゃないですよね?だとしたら内部情報を知っているにもかかわらず、当初安い価格で株主から株を買い取ろうとしたということになりますよ。ブラザーが出てこなかったらラッキー、出てきたらTOB価格を引き上げよう、だとしたら悪質です。株価は10:48時点で5,410円とブラザーTOB価格を上回っていますが・・・。

では、まずブラザーの敵対的TOB実施の前提条件ですが、以下の通り①~④があげられています。興味深いことに、ローランドDGがブラザーのTOBに賛同表明をすること、ってのは条件にはなっていなんですね。ようはローランドDGが反対していようがTOBを実施するということです。ゴリゴリの敵対的TOBです。

第一生命がベネフィットワンに当初敵対的TOBを仕掛けた際、実施の条件としてベネワンらの賛同をあげていましたよね?もちろんあれはスキーム上、ベネワンらの賛同がないとできないんですけど。今回ブラザーはローランドDGの賛同を条件にしていません。なんかこのあたり、ブラザーの複雑な心境を表しているように思えてしまいます。もちろんニデックがTAKISAWAに対して敵対的TOBを実施した際も賛同を条件にはしていなかったので、特段特殊ではないかもしれませんが。

ではブラザーとMBOの比較を再掲します。

2019年12月頃からブラザーとローランドDGは製品の共同開発プロジェクトを開始、2022年2月10日付書面にてブラザーはローランドDGに対して戦略的提携の強化に関する提案を行い、それに対してローランドDGは2022年4月20日付の書面にて、具体的な内容の説明を要請したそうです。

では、ブラザーとローランドDG、双方の主張を時系列で記載します。太字にした「B主張」がブラザーのプレスでの記載、「DG主張」がローランドDGのプレスでの記載です。見落としや誤解などあるかもしれませんので、詳しくは両社のプレスリリースをご確認ください。

ブラザープレス

https://download.brother.com/pub/jp/news/2024/20240313-001.pdf

ローランドDGプレス

https://ir.rolanddg.com/ja/ir/news/auto_20240209532621/main/0/link/RDG20240209_MBO_JP.pdf

 

B主張:2023年9月1日付でブラザーがローランドDGに対して1株当たり4,800円にてTOBを実施して完全子会社化したいと提案

DG主張:タイヨウ以外の事業会社A社から買収提案を受領

DG主張:2023年9月8日、ローランドDGがLAとしてアンダーソン毛利を選任

DG主張:2023年9月20日、ローランドDGがFAとして野村證券を選任

DG主張:2023年9月下旬、外部パートナーとの協業による非公開化を含めた検討を開始

B主張:2023年9月29日付でローランドDGがブラザーに書面にて質問

DG主張:2023年9月29日、野村證券を通じてPEファンド2社にヒアリング

DG主張:2023年10月2日、ローランドDGがタイヨウに初期的な検討を依頼。10月初旬からタイヨウとPE2社に対して入札を実施。中旬~下旬に面談。

B主張:2023年10月17日付でブラザーが書面により回答

DG主張:2023年10月23日付でローランドDGとタイヨウが秘密保持誓約書を締結

DG主張:2023年11月2日、10月4日から開始した初期的な検討が終了し、タイヨウがローランドDGに企業価値向上に向けたパートナーシップに関する提案書を提出

DG主張:2023年11月2日、タイヨウがローランドDG田部社長に出資検討を依頼

DG主張:2023年11月6日、ローランドDGのFAである野村證券からタイヨウがDDに進めるとの連絡を受領 ※タイヨウを含めた2社をDDプロセスに招聘

B主張:ローランドDGがディスシナジー発生の可能性を払拭できないとのことであったため~2023年11月上旬から2024年1月下旬の間、懸念の払拭のためブラザーがローランドDGに情報提供を実施

DG主張:2023年11月中旬~12月中旬、タイヨウによるDD、経営陣との面談を実施

DG主張:2023年12月20日、タイヨウを含めた2社が最終提案書を提出。TOB価格5,035円を提案

DG主張:2023年12月21日、ローランドDGがタイヨウに12月下旬から2024年2月上旬の期間で協議を進めると連絡

DG主張:2024年1月16日、ローランドDGがタイヨウにTOB価格引き上げを要請

DG主張:2024年1月19日、タイヨウがローランドにTOB価格の引き上げはしないと回答

B主張:2024年1月23日付で対象者との間で秘密保持契約を締結した上で、ブラザーの機密情報の提供も実施

B主張:2024年2月2日、ローランドDGよりブラザー提案に関して検討を中止する旨の通知

DG主張:2024年2月2日、アライアンス候補Aに対して、ディスシナジーの懸念が払しょくできないため提案検討を中止すると伝達

B主張:2024年2月6日付でローランドDGに対して、TOB価格を1株当たり4,850円と増額することなどを内容とする「修正意向表明書」を提出

DG主張:2024年2月6日、アライアンス候補Aより修正意向表明書を受領。検討したがディスシナジーの発生が払しょくできないことに変わりはなかった

DG主張:2024年2月9日、ローランドDGがタイヨウに提案応諾を回答。MBO公表

B主張:2024年2月9日、ローランドDGらの公表を受けて、MBOを実施することを認識 ※ブラザーはローランドDGからブラザー以外の第三者との入札プロセスが進んでいることを知らされておらず、ローランドDGからデュー・ディリジェンスのプロセスに招聘されたこともなかった。

 

うーん、これどうなの・・・。アライアンス候補A、つまり事業会社であり、タイヨウというフィナンシャルバイヤーよりも上のTOB価格を提示できるであろうストラテジックバイヤーであるブラザー工業に水面下で買収提案をされている中、タイヨウとのMBOに踏み切ったということですね。・・・暴挙です。

なんでMBOなんてしたの?このタイミングで。そもそもブラザーという事業会社の買収提案はシナジー効果を加味したうえで買収価格を決められますが、フィナンシャルバイヤーによる買収価格はローランドDGスタンドアローンで決めます。だからシナジー効果を加味できるブラザーにMBOでは「理屈上」対抗できません。

もしかしてローランドDGは「ブラザーの買収提案にどう対抗すればいいんだ?!そうだ!MBOしかない!」って考えました?「ブラザーは敵対的TOBまではしないだろう。だって古き良き名古屋の会社だし。ブラザーもかつてスティールパートナーズというアクティビストに狙われて大変な目にあっているから、敵対的まではしないでしょ?」と思いました?

ブッブー!不正解です。今回の対応の正解は・・・・・・

これ以上はさすがに有料コラムとさせていただきます。

しかしもしホントにMBOで勝てると思って実行したのだとしたら甘すぎるし、ブラザーに対する見通しもそう。見る目がなさすぎる。ブラザーって敵対的TOBを実施しても何ら不思議な会社ではないですよ。以下で記載の通り、小池会長や佐々木社長、石黒副社長は海外畑です。というかブラザーの売上って海外がメインでしょ?そしてブラザーはミシン、プリンタ、工作機械と業態をどんどん変えてきた会社です。時代に応じて敵対的TOBだってそりゃ選択するでしょうよ。

https://ib-consulting.jp/column/5083/

さて、ではローランドDGに対抗する術はもうないのでしょうか?当然ですが、あります。それにローランドDGが気づくことはまずないと思いますが、あるんです。私の仕事はローランドDGを批判することではなく、万事休すのローランドDGを助ける術を考えることです。

こればっかりは顧問契約先のみとさせていただきます。

 

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