2017年08月08日

No.146 上場企業の経営は100年先を読む

浅田次郎の「蒼穹の昴」という小説をご存知でしょうか?私は好きです。代の中国を舞台とした歴史小説です。登場人物の一人に李鴻章がいます。香港の永久租借を要求するイギリスのサー・クロード・マクドナルドが李鴻章に租借調印を迫る場面で、李鴻章が「わが国には非常に便利な表現がある。完全を百とすると、百に届かぬ一歩は九十九だ。すなわち九十九という数字は、わが国では永遠を意味する。数字の〔九九〕と〔久久〕は同じ音を持つ。これを提示すれば私は領土を奪われた責任を回避でき、君らも祖国に帰って議会から責められることもないだろう。」とほぼ永久にイギリスに香港を渡したかのように説明し、イギリス側も納得し調印をします。実は李鴻章は「100年後に、ここにいる誰もがいなくなっていても、人々は綿々と生き続けている。99年後に、我らの子孫は香港を再び手にする事が出来るだろう。イギリスのすべての、技術、産業、文化を受けて、西洋の恩恵で潤った香港を、そっくりそのまま中国人の手に戻せる。」と考えていました。

 これが政治家なのでしょう。企業経営において100年先を見ることはあまりないのかもしれませんが、中には100年先を見ている経営者もいらっしゃるはずです。少なくとも皆さん、10年先・20年先は見ていらっしゃるのではないでしょうか。現経営陣がいなくなっても従業員は残っているでしょうし、工場などの設備や本社も残っているでしょう。

 一方、アクティビスト・ファンドはどうでしょうか?ターゲット企業の10年先を見ているでしょうか?見ていないですね。絶対に。10年先のことなんて見る必要のない立場ですから。彼らが見ているのは机上の財務数値のみです。10年先を見て経営に対してもの言うのであれば、絶対に大幅な増配や自社株買いばかりを求めたりはしないはずです。

 アクティビスト・ファンドの運営者は、企業経営者に対しておそらく「あなたたちもファンドと同じように企業を経営すればいいじゃないか!なぜそんなに内部留保にこだわるんだ?理解できん!」と思っていることでしょう。

 李鴻章は99年先の国の利益を考えたうえで香港租借に調印したのでしょう。その時点では損かもしれませんが、99年先には莫大な利益を産む可能性があると考えたのでしょう。アクティビスト・ファンドは「▲▲部門は赤字を垂れ流している。売却すべきだ!●●部門に経営資源を特化すべきだ!」と主張します。果たして本当に正しいのでしょうか?赤字部門を継続する意義をアクティビスト・ファンドにきちんと説明し、納得してもらえなかった経営者が悪いという見方がある一方で、経営のすべてをファンドに説明することは不可能な場面だってありますし、説明しても専門知識のないファンドには理解できない場合だってあります。もっと言うと、赤字部門を継続させることは、経営者のカンであったりすることもあります。赤字かもしれないが、いつか特大のホームランを放つ事業かもしれません。そういう特性の事業はいくらでもあるはずです。経営者はそれを認識しているから売却しないのでしょう。

本来、ファンドにとって重要なことは、財務を見る目を養うことではなく、経営者という人を見る目を養うことです。今の世の中、「説明責任!」「説明がなっていない!」と批判する人が多いですが、きちんと会社と経営者を見る目を持たなければなりませんし、会社の事業内容を理解できるだけの専門性も持ち合わせるべきでしょう。

 こういう話をしても、アクティビスト・ファンドとは分かり合えないことでしょう。また、最近の世論はアクティビスト・ファンドに対して理解があります。「村上ファンドが言っていることはもっともだ!」と。合理的に考えれば、確かにもっともなこともあります。ただ冷静に考えると、非常識な提案もありますが、それを非常識であるとはマスコミは報道しません。ですので、事業会社にとっては不利な状況であると言えます。安定株主が少ない企業であれば、いざ株主提案をされてしまうと、世論は株主提案を後押しするため、最悪、株主構成次第では株主提案が可決されてしまいます。

であれば、やっぱり平時からアクティビスト・ファンド対策は十分に練っておく必要があるということなのでしょう。少なくとも「多少の」意義のある先との持ち合いは再検討すべきと考えます。一般的には非難される安定株主対策ですが、長い目で見れば長期的に貴社を見てくれている株主に報いる施策なのかもしれません。

 

 

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