2017年10月03日

No.180 アサツーDK、ベインがTOB

 アサツーディ・ケイ(ADK)は筆頭株主の英WPPとの資本提携の解消を発表。米投資ファンドのベインキャピタルがADKへのTOBを実施し非上場にします。10月3日(火)の日経を読むと少し違和感を感じます。「WPPとパートナーとしてやっていけるのか」「経営スタイルや価値観の相違」「ADKは14年以降、合意の上での提携解消を目指してきたが、日本での足がかりを失いたくないWPPは首を縦に振らなかった」 どうやら、WPPとケンカ別れするということでしょうか?では、まずADKの株主構成を見てみます。

 今回は安定株主比率を計算することが目的ではありません。WPPはADK株式の24.5%を保有しています。ベインのTOBの成立条件は下限50.1%以上と設定しています。WPPがTOBに応募するのかはまだわからないようですが、応募しなくても他の株主が応募すればTOBは成立するかもしれません。ADKに関しては、私は以前からチェックしていましたので「気になる銘柄リスト」に入れて株価を見ていました。あ、株を持っているという意味ではありませんよ。ADKって、毎年、社長選任議案の賛成率が低いため、何かあるかもしれないと思って見ていました。今年の臨時報告書を以下、抜粋します。

 社長選任議案の賛成率は59%です。反対個数が144,233個となっています。WPPが持っている議決権個数は103,310個です。反対個数から考えて、WPPは社長選任議案に反対していたのでしょうね。ちなみに、英国のシルチェスターという投資家もADK株式を約17%保有しています。WPPという仲が悪くなってしまった提携先とうるさ型のアクティビストに株を持たれて、さぞADKは大変だったことでしょう。

 さてWPPはどう出るでしょうか?WPPの想定される行動は以下のとおりです。

  • TOBに応募する。
  • カウンターTOBを仕掛ける。
    • 全株TOB
    • 上限を50.1%としたTOB
  • 市場買付けによりADK株式を買い増す。

「もういいや」ということであれば①を選択するでしょう。まあ、無理やり買いに行っても人が資産の事業かもしれませんし、うまくいきっこないと考えれば①ですね。そもそも取得簿価も低いでしょうから十分利益を確保できるでしょう(単なる想像です)。しかし、日本での足がかりを失いたくないという思いが強ければ、②(ア)を選択するかもしれません。当然ですが、ADKは反対するでしょう。しかし、今TOBをかけているのはベインキャピタルというフィナンシャル・バイヤーです。WPPはストラテジック・バイヤーです。シナジー効果を加味すれば、フィナンシャル・バイヤーよりも高い値段を提示することが理屈上可能です。フィナンシャル・バイヤーは基本的には対象会社のスタンドアローンの価値をベースにTOB価格を算出せざるを得ません(ベインの傘下企業とシナジーを発揮させるというのなら話は別です)。価格の上限はWPPの方が上でしょう。それに加えて、WPPはADK株式をすでに24%も持っています。ベインとは発射台が異なります。また、日本での足がかりを失いたくはないが、そんなに金をかけたくないと考えれば、ADK株式を部分的に買い増し、ベインのTOB阻止に向けて動くかもしれません。ベインよりもTOB価格を上に設定し、上限50.1%でTOBをかければ阻止できる可能性があります。③のように、市場で買いつけて妨害することだってできます。市場買付けの場合は、値段がどれくらいになってしまうかわからないので、難しい面がありますが。

以上の選択肢はWPPが主体的に取り得る選択肢です。他にも外部要因があります。最近あったケースは日立国際電気のケースですね。KKRがTOBを実施する予定でしたが、アクティビストであるエリオットが日立国際電気株式を取得しました。直近では7.11%保有しています。ベインのTOB価格は安すぎる!と考えたファンドが動き出す可能性はあります。また、ファンドが「WPPが買うかもしれない」という思惑のもとで取得するかもしれません。ADKの株価ですが、10月3日(火)の終値は3,800円と前日比+639円でした。PBR1.47倍、PER28.44倍です。TOB価格3,660円を上回っています。ちなみに電通は株価4,940円、PBR1.46倍、PER16.41倍、博報堂DYは株価1,493円、PBR1.83倍、PER21.18倍です。果たしてベインのTOB価格は十分な値段と言えるでしょうか?十分な値段と株主や投資家が考えてくれるでしょうか?それが本件におけるポイントです。

もしWPPが本格的にADKを傘下におさめようとして出張ってきたら、広告業界にも何らかの影響が出るのでしょうか?だとすると、WPPの行動を阻止したいと考える人だっているかもしれません。阻止するために、市場買付けで取得してベインに応募してやれ!という行動をとることなども想定できます。「そんなことまでやるかね?」 いやいや、やった会社ありますよ。王子製紙が北越製紙に敵対的TOBを仕掛けたとき、同業である日本製紙は北越製紙の株式を市場で取得して王子製紙のTOBを妨害しましたから。印刷会社の業界団体も反対表明していましたし。有事においては、法律違反さえしなければ何でも仕掛けてくると思っておいたほうがよいのです。

「だったら鈴木君!ソレキアのときみたいに、今度はADKの株を買うの?」 うーん、どうでしょうか・・・。そもそもベインのTOBは友好的ですし、カウンターTOBを仕掛けるかどうかはWPPの事業戦略に詳しくないとわかりません。それに株価も今のところTOB価格を上回っています。TOB価格3,660円を下回れば・・・。いずれにしろ、本件は引き続き要チェックです。

 

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