2017年11月28日

No.217 東芝の増資について考えてみる

 やっぱり上場廃止にすべきだったのではないかと考えます。東芝は11月19日、6,000億円の増資を決議したと発表しました。第三者割当てによる方法で、引受先は海外約60社の投資家です。増資の公表を受け、11月20日の株価は一時、前週末比で14円(4.8%)安の278円まで下落しました。一方、11月21日の株価は前日比11円(4.0%)高の286円まで上昇しました。上場廃止リスクの後退でヘッジファンドなど短期的な投資家から利益を確定するための買い戻しが入ったと報じられています。

 11月20日の日経に「東芝、増資が呼び込む「物言う株主」」という記事がありました。今回の東芝の増資は公募増資ではなく第三者割当です。現在の東芝は債務超過ですし、財務諸表は限定付適正意見ですし、内部統制に関する不備も指摘されていた状況です。そりゃ、公募増資はムリです。そのため、海外の特定の機関投資家に新株を割り当てる第三者割当増資の方法をとり、ゴールドマン・サックスが買い手として集めたヘッジファンドを中心とする海外60社に12月5日の払い込みで割り当てるそうです。東芝が公表したプレスリリースに引受先や第三者割当を選択した理由などが明示されています。

http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20171119_2.pdf

 日経によると「引受先リストには日本市場に投資する米国、欧州、アジア、オーストラリアの有力ヘッジファンドがそろい踏みだ。伝統的な株式ファンドに加え、金融政策や政治動向を先読みして動くグローバルマクロファンド、コンピューターの数理分析を駆使するクオンツファンドやCTA(商品投資顧問)、経営不振企業への投資に特化したディストレストファンドも顔を出す。中でも数が多いのが、株主総会での議決権行使などを通じて経営改善を働きかける「アクティビスト(物言う株主)ファンド」だ。」とあります。代表格が旧村上ファンド出身者らが設立したシンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントだそうで、今回の増資の最大の引受先となり、増資後は東芝株の約11%を握る筆頭株主になる模様です。他にも、ソニーセブン&アイ・ホールディングスに経営改善を突きつけた米サード・ポイント、KKRによる日立国際電気株のTOBに反対した米エリオット、西武ホールディングスへの経営改善要求で知られる米サーベラスなども登場しています。

 東芝の株価は増資公表により下落したものの、その下落率は増資による希薄化率を下回っています。そりゃそうでしょうね。一般的に増資は株価の上値を抑えてしまったりと、下落要因になりやすいものですが、東芝は増資することで債務超過を解消できますし、上場廃止を回避できる可能性が高くなります。一時的に下がったとしても、希薄化率を超えるものではないと予想できるでしょうし、むしろ株価の上昇要因にすらなると考えるでしょう。

 そんなのプロの投資家にしてみたら当たり前ですよね。しかも今回の第三者割当増資の価格ですが、「本新株式の払込金額(262.8円)は、本第三者割当増資に係る取締役会決議日(11月19日)の直前取引日である11月17日の東京証券取引所における当社普通株式の終値の90.00%に相当する金額であり、当該払込金額は、11月17日までの1か月の終値の単純平均値(318.7円)に対し、17.54%のディスカウント、11月17日までの3か月の終値の単純平均値(295.4円)に対し、11.04%のディスカウントとなっております」と東芝のプレスにあります。価格の決め方は日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」に準拠していますが、市場価格よりも約10%ディスカウントで海外投資家は東芝株を手にすることができるということです。皆さんのところにこの話が来たらどうしますか?たぶん「今の東芝の状態やリスクを考えても、短期的には儲かる可能性が高いな」と考えるのではないでしょうか。

 なお、これらの投資家の保有方針ですが、東芝のプレスによると「本新株式について、当社と各割当予定先との間で、継続保有及び預託に関する取り決めはありません。なお、本新株式に関する割当予定先の保有方針は、純投資であると聞いております。当社は、全ての割当予定先から、各割当予定先が本新株式に係る割当予定日から2年以内に本新株式の全部又は一部を譲渡した場合には、その内容を当社に対し書面により報告すること、当社が当該報告内容を東京証券取引所に報告すること、並びに当該報告内容が公衆の縦覧に供されることに同意することにつき、確約書を取得する予定です」とあります。

 今回の引受先は、東芝に事後報告しさえすれば、いつでも売却できます。12月中に売却する投資家もいるんじゃないですかね?ほとんどリスクなく、10%以上のリターンを得ることが可能かもしれません。で、その株を買うのは誰なんでしょうか?市場を通じて個人投資家が買ったとしたら?

 できるのかどうかは第三者割当増資の実務を知らないので何とも言えないのですが、少なくとも今回の引受先に対して、1~2年くらいのロックアップ期間を設けるべきではないでしょうか?引き受けた後、速攻で売却すれば10%以上儲かります。私ならそうしたいですね。なぜなら、東芝にはまだまだ健在化していないリスクがたくさんあると思われるからです。特設注意市場銘柄からは外れたものの、本当に内部統制の不備が解消されたのか疑問だからです。いつ株価が暴落するかわかりませんから。

 でも投資家はそういうリスクがあることも考慮して株式を引き受けるのだから、売却して儲かったとしても非難することはできないのでは?というご意見もあろうかと思います。また、投資家が売却した株を個人投資家が市場で買って大損したとしても、それは個人投資家の自己責任では?というご意見もあろうかと思います。当然です。自己責任です。

 しかし、です。本当に東芝は上場に値する会社なのでしょうか?ついこの間まで粉飾決算や内部統制の不備でもめていた会社が、もう第三者割当増資による資金調達をします。業務提携目的の事業会社に対する第三者割当ではなく、いつでも売却する可能性が高い海外の投資家が引受先です。そして第三者割当で発行された株式は、一旦は海外の投資家が引き受けるものの、それらは市場売却を通じて個人投資家などに流れるでしょう。東証が上場についてお墨付きを与えた会社に、また大きな損失や不祥事が発生したらどうなるでしょうか?株価がまた大暴落するリスクもあります。公募増資じゃなくて第三者割当だからいいんだ!ってちょっと乱暴すぎませんかね。つい最近まで上場廃止すべきかどうかを検討されていた会社ですよ。本当に内部統制の不備が解消されたかどうかもわからない会社ですよ。業務提携を目的とした事業会社であれば即座に売却する可能性は相当低いからよいのではないかと思いますが(オリンパスによるソニーに対する第三者割当など)、今回の割当先は即座に売却する可能性がある海外の投資家です。

 第三者割当増資をするにしても、上場廃止にした上ですべきだったのではないでしょうか?そうすれば海外の投資家も即座に売却できません。まあ、そんなことしたら今の東芝に金を出す人などいないのでしょうし、上場廃止したら増資も必要ないのかもしれません。

投資家保護の観点から、今回の東芝の第三者割当増資に関して私はかなり否定的です。投資における自己責任は、あくまで健全な会社であることが前提でしょうし、公募増資ではなく、リスクを理解するプロである海外投資家が引受先なのだから第三者割当であれば問題ないという考え方は乱暴ではないかと思います。増資後は市場を通じて誰にでも売却することができるのですから。

 外資系と海外投資家によって日本の個人投資家が食い物にされているような気がしてなりません。そもそも、このような苦境に陥っている東芝を使って金儲けをしようという魂胆が気に食わん!です。まあ、こーでもしないと金が集まらんのでしょうね・・・。でも、ある程度の期間のロックアップを付けずにいつでも売却可能な状態でないと増資を引き受ける投資家がいないということは、今回増資を引き受けた投資家は短期で売却するということではないでしょうか?

やっぱり、上場廃止にすべきだったのではないでしょうか?

 

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