2016年12月26日

No.39 貴社はどこに位置付けられますか?~時価総額と安定株主比率~

 以下の図は、縦軸が時価総額、横軸が安定株主比率です。貴社は①~④のどこに位置付けられるでしょうか?

①の企業

安定株主比率が低く、時価総額が大きい企業です。時価総額が大きい企業は一般的に安定株主比率が低いです。今までであれば、投資ファンドに狙われることはありませんでした。時価総額が仮に1兆円だとすると、30%買うのに3,000億円必要です。なかなか1社に3,000億円投資するアクティビストファンドはいなかったでしょう。

でも、エフィッシモの投資先を見ますと、例えば第一生命やリコーなど時価総額が大きい企業が存在します。第一生命の時価総額は約2兆3,500億円です。エフィッシモは直近で9.03%保有していますので、時価ベースで約2,100億円です。かなり大きいですね。リコーの時価総額は7,500億円です。エフィッシモは12.14%保有し、大量保有報告書によると取得資金の合計は1,048億円です。これも大きいですね。「うちの会社は①だろう」と経営陣が思ったとしても、アクティビストファンドにとっては③かもしれません。

①の企業については株主提案のリスクがあることも忘れてはいけません。当然、①だけの企業に関するリスクではありませんが、①の企業は時価総額が大きいため「うちがアクティビストファンドに狙われることはない」と考えてしまいがちです。アクティビストファンドに相当程度の株式を買われるリスクは低いかもしれませんが、株主提案権は「6ヶ月以上引き続き会社の総株主の議決権の100分の1以上を保有する、または300個以上の議決権を保有する株主の権利」です。1%もしくは300個以上の議決権は容易に取得可能です。ちなみに、時価総額7兆円以上ある日本たばこ産業(JT)は、かつてThe Children’s Investment Fund(TCI)に増配や自己株取得に関して株主提案をされました。ちなみに、JTは上の図だと②に位置付けられます。財務大臣が33.3%保有していますので、安定株主比率は高いです。皆さん、JTほど安定株主がいますか?外国人株主比率が30%を超えていませんか?

安定株主比率が低く、相当程度の外国人株主がいる場合、TCIのような外国人投資家が株主提案をしてきたらどうなるでしょうか?ISSはどういう推奨をするでしょうか?ISSの推奨次第では、本来、多種多様であるはずの外国人株主が同じ議決権行使をしてくるリスクがあります。

②の企業

珍しい企業です。本来は時価総額が大きいので安定株主比率は低くなるのですが、政府や創業者が相当程度の株式をまだ持っているので安定株主比率が高いです。でも、これからどうなっていくのでしょうか?図で示した企業については、まだまだオーナーが健在ですから、すぐさま何らかのリスクが生じる訳ではありません。しかし、いずれは自社の位置付けが②から①に移行していくと認識していただく必要はあると思います。また、創業者がご健在である企業は、よく創業者が「高い値段で買うというなら買えばよい。私より経営できるという自信があるなら」とおっしゃいます。これ、創業者がご健在の場合はよいのですが、次の経営陣が困るときがあります。実は安定株主は創業者とその一族しかいません。創業者一族が持っているときはよいのですが、株式の分散化が進んでしまうと、思いもよらず買われてしまうことがあります。ですので、次代の経営陣は安定株主について「うちには関係のない話」とお考えにならないほうがよいと考えます。特に創業者という安定株主がいたときは、株主提案や敵対的買収への対応など検討したことがない会社が多く、創業者からプレッシャーを与えられてはいますが、意外と株式市場からのプレッシャーを感じていない可能性があります。

③の企業

危険ですね。時価総額が低く、かつ、安定株主比率も低い企業です。わかりやすい例ですと、本コラムで言及したソフトブレーンのケースです。2016年11月23日にお送りしたIBコンサルティングコラムNo.23にまとめています。ソフトブレーンの時価総額は100億円程度です。株主構成は、創業者が13%程度持っていましたが、ほとんどが個人株主でした。フュージョンパートナーという会社が1週間程度で市場で一気に株を取得し、最終的には45.57%取得し子会社にしました。珍しいケースですが、時価総額が小さく安定株主比率も低いと、一気に買われます。「敵対的買収です!」と反論する時間すらありません。

なお、図では企業の例示を控えていますが、控えた理由は、「貴社の時価総額は小さいです」とは申し上げにくいというのもありますが、かつてはアクティビストファンドに相当程度の株式を買われなかったであろう時価総額の企業が、今ではアクティビストファンドのターゲットになっているからです。

川崎汽船は従前から申し上げているとおり、すでに38.34%の株式をエフィッシモが保有しており、取得資金の合計は863億円です。川崎汽船の時価総額は約2,500億円です。この時価総額は大きいのか、小さいのか?一昔前であれば、「貴社の時価総額は数千億円レベルですから、経営に重要な影響を与えるレベルの株式をアクティビストファンドに買われることはないでしょう」と申し上げていたかもしれません。

アクティビストファンドのターゲットになる日本企業が明らかに変化しています。①で述べた通り、第一生命やリコーの株式を取得しています。かつては、時価総額数千億円であれば、③には位置付けず①に位置付けました。時価総額が大きく、安定株主比率が低い企業です。しかし、今では数千億円レベルであれば③に位置付けられるかもしれません。③の企業についてはあらゆるリスクがあると考えておいた方がよいです。

さきほど申し上げた株主提案のリスクもあります。①の企業と同じです。また、①の企業よりも時価総額が小さいですから、買収されるリスクがあります。市場で相当程度の株式を取得されるリスクが③の企業にはあります。まさに川崎汽船状態になってしまうリスクです。かつては③の企業の中でもより時価総額の小さい企業だけのリスクでしたが、今では③の中でも時価総額が上位に位置する会社が対象になっています。

 私は「真剣に買収防衛策の導入を検討する必要がある」と考えています。③の企業だけではなく、①の企業についても真剣に検討した方がよいと考えています。パナソニックが買収防衛策を廃止しました。世の中の流れは「買収防衛策は経営者の保身」「買収防衛策は時代錯誤」となっているかもしれません。今買収防衛策を導入することは世の中の流れに反することであり、勇気が必要かもしれません。

 「なんで今さら?」と世間からは思われるでしょう。しかし、貴社の一言で世間の流れは変わります。少なくとも上場企業の経営者は「確かにそうだよな。うちもやっぱり買収防衛策を導入すべきか」と思うはずです。

④の企業

今のところ心配はありませんが、エフィッシモのように資本上位会社が存在し安定株主比率が高いと想定される企業を投資対象にする投資ファンドもいますので、過度の楽観視は危険です。エフィッシモは2016年11月22日にハピネット(コード7552)の大量保有報告書を提出しました。保有割合は5.87%です。ハピネットの時価総額は約300億円です。ちなみにハピネットの株主構成を見ますと、バンダイナムコHDが24.4%保有しています。資本上位会社が存在する企業を狙った投資と言えます。④に位置付けられる企業については、自社の安定株主の「中身」を分析してみる必要があります。

「うちは安定株主比率が40%もあるから大丈夫!」

本当にそうでしょうか?40%の安定株主の中身はどうなっていますか?その株主の皆さんは、これから売却する可能性はありませんか?

なぜ安定株主比率が高いのに、アクティビストファンドは狙うのか?1つの理由として、安定株主比率が高い会社はプレッシャーに弱い、とアクティビストファンドが考えている可能性があります。安定株主比率が高い会社の株主総会って、短時間で終わりませんか?株主総会で株主からきわどい質問をされること、ほとんどなくないですか?資本上位会社や安定株主がいるから、株主総会議案がひっくり返されるリスクなんて考えたことなくないですか?株主提案されても安定株主がいるから大丈夫と思っていませんか?

 残念ながらこれからの時代、安定株主神話は崩れていきます。年末に不吉なことを申し上げてすみません。しかし、事実です。3メガバンクは持ち合い解消を進めています。次は事業会社による持ち合い解消か?と言われています。私は、持ち合いはすべて解消し、効率的な経営をするということが理想的であると思っています。しかし、現実的には、なるべく事業会社による持ち合い解消は控えた方がよいと思いますし、どうしてもやらなくてはならないのであれば、自社の安定株主比率に悪影響をおよぼさない相手先の株式した方がよいと考えます。つまり、売るならまずは片持ちの相手先の株式です。

 数年先の自社の株主構成を考えてみてはどうでしょうか?数年後に自社の安定株主比率は何%になっていると思いますか?買収防衛策やその他の経営施策、財務施策を考えておくべき時期にきています。

なお、④に位置付けられる企業をグループ内に有しているという企業も、この際、「この会社にアクティビストファンドが登場したら、うちにどういう影響があるんだ?」と考えてみるのもよいかもしれません。

最後に

 我が社の本業は、「買収防衛策導入のアドバイス」ではありません。もちろん、それも仕事の一つです。企業防衛のアドバイスをすることもあれば、逆に敵対的買収のアドバイスもします。我が社の仕事は、資本市場が発するメッセージを敏感に察知し、それを顧客に正しく伝え、顧客の企業価値・株主価値向上に役立つこと、です。ときに資本市場はまちがった反応を示すことがあります。単純にメッセージを伝えるのではなく、あくまで「メッセージを敏感に察知し、どういう行動をとるべきかを正しく伝えること」が仕事です。

ですので、今年は買収防衛策の導入の是非に関していろいろとまとめました。廃止する企業が増えていることやアクティビストファンドの活動が活発化しているためです。メッセージを伝えるだけであれば「マーケットは廃止しろと言っていますし、廃止している企業が多いです」とお伝えします。しかし、本当に廃止してよいのかどうかは、企業ごとに異なります。もっと言うと、「持ち合い解消が進み、アクティビストファンドの動きが活発化し、事業会社による敵対的買収がこれから本格化するかもしれないのに、なぜ今買収防衛策を廃止するのですか?」です。正しい行動・必要な行動をアドバイスするために情報を分析しアドバイスをご提供します。

コラムをお送りしている企業の皆様の中には、「やっぱり買収防衛策って必要なんじゃないか?」「少なくとも、即座に買収防衛策を導入しないものの、検討しておいた方がいいんじゃないか?」「廃止しようと思っていたけど、やっぱり継続だな」とお考えの方もいらっしゃると思います。

以下、買収防衛策を導入・継続した場合に想定される資本市場やマスコミ、株主の反応をまとめます。いわば「想定Q」です。もちろん、我が社は「想定Q&A」を用意できますので、いつでもご相談ください。この質問に答えられれば、買収防衛策を正々堂々と導入・継続すべきと考えます。

 

想定されるマーケットやマスコミ、株主の反応

 

①買収防衛策を廃止している会社が増えているが、なぜ今さら買収防衛策を導入(継続)するのか

②買収防衛の王道は時価総額の拡大である。買収防衛策を導入するのではなく、自社株買いや増配をして株価を上げるべきだ

③このご時世で社外取締役は買収防衛策の導入に賛成しているのか。社外取締役の考えを述べてほしい

④貴社が想定する買収者は?想定買収者と経営統合することが貴社にとっての企業価値向上策であり、買収防衛策ではないか

⑤貴社は何を守りたいと考えて買収防衛策を導入するのか。買収防衛策によって守ることが可能になるのか

⑥貴社は買収防衛策を発動することがあると考えているのか

⑦貴社の安定株主比率は高いが、それでも買収防衛策を必要とする理由はなにか

⑧買収防衛策を導入するのなら、持ち合い解消をもっと進めるべきだ。持ち合い解消した資金で設備投資やM&Aを推進し企業価値を高めるべきだ

⑨安定株主比率が高い状況で買収防衛策を導入するのではなく、株主が分散化している状況で株主に導入の是非を確認すべきである

⑩現在の取締役の構成で買収防衛策を適切に運用できるのか。独立性の高い社外取締役を増員すべきである

⑪買収防衛策をいつまで導入し続けるのか

 

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