2017年01月11日

No.45 東芝の役員選任議案は否決されるリスクがあるか?など3コラム

■東芝の役員選任議案は否決されるリスクがあるか?

 本日の日経に「東芝再建へ」「資本増強は不可避」という記事がありました。

原子力発電事業の巨額損失問題に揺れる東芝ですが、今年の株主総会で経営トップの選任議案が否決される可能性はあるでしょうか?

たぶん、ないです。可能性としてはかなり低いと思われます。賛成率が相当低くなるとは思いますが。なぜ否決されないか?2016年株主総会における経営トップの賛成率は87%でした。2015年は94&でした。

 東芝は歴史的に個人株主比率が高い企業です。以下、2016/3期末の東芝の株主構成です。個人株主比率は非常に高いです。株価が安くなったことも影響している可能性はあります。

 ちなみに、震災直後の2011年6月の東京電力の株主総会においては、最も賛成率の低い候補者で約81%でした。否決されていません。以下、2011/3期末の東京電力の株主構成です。東京電力も個人株主比率が高い企業です。

 金融機関の持ち合い解消が進み、安定株主比率が全般的に低下しています。今後、持ち合い解消の流れが事業会社にもおよぶ可能性があります。そうなってしまうと、本当に株主総会運営が大変になります。一方的に外国人株主比率が高くなってしまうと、状況次第では役員選任議案が否決されます。

 あまり大声では申し上げられませんが、持ち合い解消を止められない場合は、新たな持ち合いをお勧めします。と言っても、意味のない持ち合い先ではいけません。株主に説明可能な先であるべきです(教科書的には)。それが難しい場合、個人投資家に持ってもらうことをお勧めします。個人株主は株価が上がれば売却しますが、下がればまた買います。それに、株主総会の議決権行使は行使しないか白紙で行使してくれます。

 ちょっと話はそれますが、資本増強が不可欠と報道される東芝ですが、東芝は保有株式を売却する可能性があると思います。資本増強するのであれば、持ち合い株式は売却すべきだ!という声があがる可能性があります。

持ち合い先が苦境に陥った場合、自社の株式を売却するかもしれないというリスクが発生しますので留意が必要です。

■ユーシンに対する株主提案

 本日の日経15面に「ジャパンディスプレイ株一部売却 エフィッシモ」という記事がありました。エフィッシモはジャパンディスプレイ株式の大量保有報告書を2016年7月4日に提出しました。保有割合は5.44%でした。2016年12月21日に変更報告書を提出しており、保有割合は5.89%に上昇していました。昨日1月10日に提出した変更報告書によると、保有割合は4.85%に低下しました。ジャパンディスプレイの株価推移は以下のとおりです。

 エフィッシモが大量保有報告書を提出したのが7月4日ですから、平均取得コストは200円前後なのでしょうか?大量保有報告書からは不明です。ジャパンディスプレイの株式はそれほど長期では保有しなかったようですね。200円前後で取得したとしたら、本日の終値は334円ですので、けっこう儲かったんでしょうねえ。

 ところで、日経ではジャパンディスプレイのみ取り上げていますが、昨日エフィッシモが提出した大量保有・変更報告書はTASAKIとユーシンもあります。TASAKIは12月7日にお送りしたコラムで触れています(「エフィッシモによる大量保有~TASAKIよりも第一生命に注目~」)。保有割合は5.29%から6.27%に上昇しました。

 ユーシンという会社ですが、今回、大量保有報告書が初めて提出されました。5.00%です。この会社に関しては、大量保有報告書が提出されたことよりも、エフィッシモが株主提案をしたことが注目ポイントです。大量保有報告書の添付資料として「田邊耕二氏の取締役報酬額に関する株主提案権行使について」が掲載されています。

エフィッシモの主張は「業績が長期低迷を続けているにも関わらず、その責任を最も負うべき田邊氏に極めて多額の取締役報酬を支払い続けており、現状において、貴社取締役会が取締役報酬の適切な決定を行うことは期待できません。」というものです。ちなみに、ユーシンは田邊社長兼会長が辞任し新たに岡部専務が昇格したと昨日発表しました。役員報酬の上限も30億円から5億円以内にするそうです。エフィッシモの株主提案は「第116 期事業年度の田邊氏の取締役報酬額を2 億円以内とする。」ですから、田邊氏が辞任するためエフィッシモの提案自体はもう意味がないかもしれません。

 もし仮にユーシンが社長を交代しなかった場合、株主提案はどうなっていたでしょうか?以下、ユーシンの株主構成と上位株主です。

2016年3月末時点でロイヤルバンクオブカナダが筆頭株主です。エフィッシモがわりと以前から取得していたのですね。すでにお伝えしていますが、ロイヤルバンクオブカナダはエフィッシモがよく使っているカストディアンです。

法人株主比率が高いですし、田邊氏も個人でけっこうもっていますので、おそらく株主提案は可決されなかったでしょう。日本企業に対して株主提案をしても可決されることはまずありません。そもそも株主提案をした時点で、提案株主サイドは負けです。水面下で会社を説得できなかったということですから。それに加えて安定株主比率がそこそこ高いから、株主提案は可決されなかったでしょう。では、エフィッシモが株主提案を可決させるために取り得る方法はあったのでしょうか。

あるとしたら、エフィッシモがユーシンの株主である上場企業の株式も取得しプレッシャーをかけることです。「ユーシンに対して株主提案をしています。ぜひ賛同してください。貴社にとってもメリットがあるはずです。ちなみに当ファンドは貴社株式も保有しています。貴社が自社の株主の利益に資さない議決権行使をする場合、来年の株主総会で貴社経営陣を支持しませんし、場合によっては役員選任に関する株主提案もします。また、貴社がユーシン株式を保有する意義が本当にあるのかどうか精査します。会計帳簿や取締役会議事録の閲覧謄写請求もする可能性があります。」といった書簡を送りつけることでしょうか。

 仮に投資ファンドからこのような書簡を送りつけられたからと言って、安定株主である上場企業が「投資ファンドから書簡が来たので株主提案に賛同します」という行動を取るとは考えにくいです。ただし、上場企業の安定株主比率は一般的に低下しており、外国人株主比率が上昇しています。安定株主の株主構成が不安定であり、外国人株主から「持ち合い株式を売却すべき」という指摘がなされるリスクがある状況です。もしかしたら、現に解消しろと指摘されている状況かもしれません。投資ファンドの「持ち合い反対!」という声をきっかけに、外国人株主が持ち合いや安易な議決権行使に役員選任議案を通じて「NO」を突き付けてくるかもしれません。

場合によっては安定株主が「もう貴社の株式を保有できません」と言ってくる可能性もあります。また、特定の上場企業が大株主である場合、一気に安定株主比率が低下してしまうリスクがあります。投資ファンドの投じる一石により、思わぬ影響を被ってしまいます。

「投資ファンドのターゲットになっていないから安心」ではないということです。

 

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