2017年02月20日

No.60 質問をしたくても1回だけ&ソレキアとソフトブレーンの類似点

■質問をしたくても1回だけ

 コラムで取り上げていますが、佐々木ベジ氏がソレキアに対して敵対的TOBを実施しました。現在、ソレキアが留保の意見を表明し、質問権を行使しています。

 買収防衛策の廃止理由として多くの企業が金融商品取引法による大量取得行為にする規制の整備が浸透し、株主の皆が適切にするために必要な情報や時間を確保するという本プランの目的が一定程度保された」ことを挙げていますが、「判断するための必要な情報を確保」という部分が、今回ソレキアが行使した質問権に該当します。果たして本当に法制度が整備されたことで担保されたと言えるでしょうか?

 今回ソレキアが公表した質問に対して、佐々木ベジ氏は5営業日以内に回答する義務があります。回答できない内容に関しては理由を挙げた上で回答を拒否することもできます。質問権は1回のみです。

 佐々木ベジ氏は本当に十分な回答をするでしょうか?回答するかもしれないし、回答しないかもしれません。では十分な回答を得られなかった場合にソレキアはどう対処すればよいでしょうか?

 何もできません。正確には法律的にはこれ以上対処のしようがないということです。ソレキアが「回答内容が不十分である。法律的に佐々木ベジ氏に回答義務はないものの、我々は株主のために十分な回答を得られるまで追加質問を行う」と主張して追加質問をすることも可能です。が、佐々木ベジ氏に回答義務はありません。回答しない場合は、回答しないという姿勢を株主がどう評価するか、ということです。

 皆さんがソレキアの株主であったら、どう評価しますか?私だったら、回答内容が買付価格に関するものであれば聞いてみたいが、そもそも現在提示している買付価格が高いか安いかを考えてTOBに応募するかどうかを決める、です。※ただし、今回は100%買収するわけではなく、部分的な買収ですので、上場は継続されます。正確に申し上げると、上場後の経営方針も聞いてみたいところです。

 ソレキアから佐々木ベジ氏に対して「なぜ突然TOBを開始したのか?」という趣旨の質問をしています。株主にしてみれば、はっきり言ってどうでもいいこと、ではないでしょうか?もちろん経営陣にしてみれば、突然TOBを仕掛けてくる相手と信頼関係など構築できない、と考えて突然TOBを仕掛けてきた経緯を聞きたいのでしょう。でも、純粋な投資目的の株主からしてみれば、高い値段でTOBをかけてきたのであれば大歓迎ではないでしょうか。

 これが買収防衛策を廃止した企業がおっしゃっている「必要な情報や時間をある程度確保できるようになった」というTOB制度です。本当に必要な情報や時間を確保できるでしょうか?残念ながら難しいです。買収者は1回の質問に対応すればよいだけです。あとは株主がTOBに応募するかどうかを決めます。買収者が主導権を握って「買収交渉」が進んでいくということです。法律で担保されている情報収集と時間の確保には最初から限界が見えています。このような実例を説明しながら、現在の日本企業が導入している買収防衛策は、本当は株主にとって必要な施策であることを理解してもらうことが重要と考えます。

■ソフトブレーンとソレキアの類似点

 どちらも、創業者がまだ株主として存在していること、個人株主比率が高いこと、です。まず、ソフトブレーンの株主構成と大株主の状況を見てみましょう。買収が仕掛けられる前の2015年12月末の状況です。

 個人株主比率は73.97%です。その他の法人の比率は1%もありません。法人の安定株主はほとんどいないということです。大株主の宋文洲さんが創業者のようですので、実質的に安定株主は宋さんだけだったのかもしれません。外国人株主も約9%ですから、個人株主比率が非常に高い会社と言えます。

 ではソレキアの株主構成はどうなっているのでしょうか?2016年3月末の状況です。

 ソレキアも個人株主比率が73.52%と非常に高いです。その他の法人株主が14.61%います。ただし、フリージア・マクロス(佐々木ベジ氏の会社)が4.99%持っていますので、実質的には約10%が安定株主なのでしょう。また、従業員持株会8.75%、小林氏一族約8%、りそな銀行2.32%が安定株主とカウントできますから、外部から見た安定株主比率は約30%です。ソフトブレーンよりは高いと言えるでしょう。

 両社に共通した特徴は、オーナーがまだ株式をある程度持っていること、個人株主比率が高いこと、それに加えて時価総額がそれほど大きくないこと、ではないでしょうか。これは私の想像であり、データを取って調べた訳ではないのですが、個人株主比率の高い会社って、株価が割安に放置されている可能性があるように思います。外国人投資家はいわゆる機関投資家ですので、投資先企業の株価を分析した上で取得していると思います。ですから、株価が企業価値とそれほどかい離しないのかもしれません。しかし、個人株主は株価分析などしないと思います。ですから、個人株主比率が高い会社の株価は安く放置され、それに目をつけた買収者が買占めに動く・・・という流れではないかと思います。

 よく「うちの個人株主はうちの会社のOBが多いから大丈夫」とおっしゃる方がいます。私は、ちょっと疑問に思っています。不当に安く放置されていた会社の株価が買収者の登場によって倍に跳ね上がることがあります。そういう局面で、本当にOBとは言え株式を売却しないものでしょうか?敵対的TOBに応募するかどうかと言えば、少しハードルがあるように思いますが、TOBが仕掛けられると株価はTOB価格にサヤ寄せしていきます。敵対的TOBに応募しなくても、市場株価がほぼTOB価格に近い価格になれば、市場で売却してしまうおそれはないでしょうか?市場売却であればOBにとっては敵対的TOBへの応募よりはハードルが低いのではないでしょうか?

 また、個人株主比率が高い会社の出来高って、あまり多くないのではないでしょうか?個人株主というと、何となくデイトレーダーを想像してしまい、デイトレーダー=頻繁に売買を行う投資家、ですから、個人株主比率が高い会社は流動性も高そうというイメージを持ってしまいがちです。実際、出来高はあまり多くないのでしょう。売るに売れない株主がたくさんいるのかもしれません。そうすると一旦株価が跳ね上がったら、それこそ大挙して売りに出てくるかもしれません。

 持ち合い解消が進む中、多くの会社が受け皿として個人株主に期待しています。個人株主は議決権行使に関心が低く、行使したとしても白紙で投票してくれますから、準安定株主と位置付けることは可能です。しかし、ソフトブレーンのように買収者が現れると売ってしまうリスクがあります。ソレキアは現在TOBが進行中ですので、結果的にどうなるかはわかりません。

 株主構成は日々変化します。その変化を見ることができるのは、期末と中間期末のみです(四半期ごとに株主名簿を閉じている会社もあるとは思いますが)。3月決算の会社は来月が年度末です。外国人株主比率が高い会社は個人株主比率が高い会社をうらやましく思ったりします。しかし、個人株主比率が高すぎると、意外なリスクがあります。要は、外国人株主にしろ、個人株主にしろ、一方的に高すぎると何らかのリスクがあるということであり、バランスのよい株主構成が望ましいということではないでしょうか?

 どういうバランスがよいのでしょうか?これは非常に難しいです。私は最適株主構成と呼んでいます。答えがないようであるかもしれない問題です。

 

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