2017年12月18日

No.231 ご存知ですか?買収防衛策って発動できませんよ!

 けっこう誤解している方が多いので、あらためてコラムにしてみます。「いざとなれば、買収防衛策を発動すればいいんだろ?」とお考えの方、いらっしゃいませんか?これこそが買収防衛策に対する大きな誤解です。買収防衛策って基本的には発動できないと考えていただいた方がよいです。

 「買収防衛策って発動するとどうなるの?」 では、貴社株式を10%保有しているアクティビスト・ファンドが貴社の全株式を買収するという提案をしてきた、という前提で考えてみましょう。買収防衛策のルールを順守し、情報提供もしてきました。しかし貴社としては、「こんなアクティビストに会社を食い物にされてなるものか!買収防衛策の発動だ!」と考えて、発動したとしましょう。買収防衛策の発動とは、新株予約権の発行のことです(ざっくり言ってます)。買収者だけが行使できない新株予約権を株主に付与します。そして株主に新株が割り当てられることで、買収者の持分が希釈化されます。当然ですが、買収者は新株予約権の発行に対して、裁判所に発行差止請求をします。さて、裁判所はどういう判断をするでしょうか?

 買収防衛策の発動に関する判例は、ただ一つです。ブルドックソースによるスティールパートナーズに対する発動ですね。あまりにも有名なケースです。世界で一例しかありません。この裁判では、ブルドックソースが勝ちました。買収防衛策の発動が認められた、ということです。裁判所は何をもって発動してもよし、と考えたのでしょうか?ざっくり言うと「買収防衛策の発動に関して、株主総会の特別決議を取ったこと」及び「買収者に経済的損害が発生しないこと」の2つを評価しました。だからスティールパートナーズによる差止請求を認めず、買収防衛策の発動が認められました。ブルドックソースは、事前警告型の買収防衛策を導入していませんでしたが、スティールパートナーズによるTOB期間中にたまたま株主総会がありました。そのため、有事導入型の買収防衛策発動を株主総会にかけることができたのです。そして、スティールパートナーズに対しては、新株予約権を付与するものの、新株は割り当てず、その代わりに現金を付与する、という仕組みにしました。つまり、一般株主には新株を付与することで、スティールパートナーズの持株比率は希釈化されるものの、希釈化される分については現金で補ってあげます、というものです。だから「持株比率は低下するけど、その分を現金で補てんしてあげるのだから、経済的損害は発生しませんよね」ということです。

 ブルドックソースの判例から、株主総会特別決議を取り、かつ、買収者に経済的損害を与えなければ、買収防衛策を発動することも可能、と考えられます。しかし、この2つを満たすのはけっこうハードルが高いです(株主総会普通決議じゃダメ?という意見もあるかもしれませんが、それはわかりません。ただ、厳しいような気がします)。買収防衛策の継続議案が60%程度の会社であれば、発動時に株主総会を開催しても、特別決議を取ることは難しいと思います。また、買収者に対して経済的損害が発生しないよう現金を付与する場合、おそらくマスコミや資本市場からは大バッシングを受けます。「買収者に金を払って追い出すのか?」と。ブルドックソースのときもそういう批判がありました。

 「まっとうな事業会社であれば発動は難しいかもしれないけど、かつてのスティールパートナーズみたいなアクティビストだったら世の中も認めてくれるんじゃないの?」という意見があるかもしれません。どうでしょうねえ。ブルドックソースの差止請求の際、東京高裁はスティールパートナーズのことを「濫用的買収者」と断じました。ただ、最高裁ではスティールパートナーズが濫用的買収者かどうかは確か触れていないはずです。今の世の中、アクティビスト・ファンドだからと言って「濫用的買収者」とは言い切れないのではないでしょうか?ましてや、世の中は、コーポレートガバナンス・コードなどのおかげで、株主至上主義です。

 また、買収防衛策を導入しているからと言って、有事に必ず株主総会を開催できる訳ではありません。そんなときは特別委員会などの勧告に基づいて買収防衛策を発動することになりますが、株主総会で決議をとっていない発動に対して裁判所がどう判断するかはわかりません。非常に難しいです。

 事前警告型ルールとは、あくまで時間と情報を確保するための術に過ぎないのです。「いざとなれば買収防衛策を発動すればいいさ」などという考えは非常に甘いです。ブルドックソースの発動がどれだけ大変だったかをよく覚えています。

 

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