2016年10月12日

No.9 大戸屋と出光興産の違い~どちらもお家騒動と言われますが~など3コラム

■大戸屋と出光興産の違い~どちらもお家騒動と言われますが~

 どちらも「お家騒動」として報道されています。大戸屋のほうは、創業家が現在の役員人事に反対しており、出光興産のほうは出光興産と昭和シェルの経営統合に反対しています。どちらも創業家が一定割合の株式を保有しており、経営に関する重要な影響力を持っています。

 しかし、両者には明確な違いがあります。大戸屋のほうは、創業家が約18%の株式を保有していますが、出光興産のほうは創業家で33.92%の株式を保有しています。これが大きな違いです。

大戸屋に関する新聞報道を見ると、日経では「強すぎる創業家とサラリーマン経営者との認識ギャップがあらわれた。明確なサクセションプラン(後継者選抜・育成計画)が用意されなかったことが禍根を残した」とあります。私は、今回の問題はそこではない、と考えます。大戸屋の場合、創業家は「強すぎ」ではないんです。株式を18%しか持っていないことが問題なのです。大戸屋の創業家が33.4%持っていたら、社長は絶対に創業家の言うことを聞いていたはずです。大戸屋の株主総会における議決権行使率は60%以下です。ということは、発行済株式総数の1/3を創業家が持っていれば、実質的に過半数を持っているのと同じことです。サラリーマン経営陣は、創業家の言うことに従わなければクビになります。

一方、出光興産はどうでしょうか?今頃、出光興産の経営陣は必死に説得しようとしていると思います。出光創業家は発行済株式総数の1/3超を持っていますので、株主総会における拒否権を確保しています。つまり、出光興産が昭和シェルと経営統合するためには、株主総会で特別決議を取る必要があります。出光創業家が反対する限り、特別決議は可決できません。出光経営陣は創業家を説得する必要があるのです。

大戸屋のほうも、もちろん、創業家は18%しか持っていませんが、もし、株主総会で特別決議が必要な議案を提出しなければならない場合、創業家に納得してもらわないと可決できないと思います。先ほど申し上げた議決権行使率との兼ね合いです。しかし、役員選任議案のような普通決議の議案だと、18%程度の持分であれば乗り切ることができます。特に、大戸屋のように個人株主比率が非常に高い会社は、ISSやグラスルイスの助言は関係ありませんし、個人株主は基本的には白票を投じてくれる場合が多いからです。

■金庫株の活用?

少し前ですが、日本経済新聞で「ニッポンの株主2016」という連載がありました。その中で「金庫株の活用方法 課題に」という記事がありました。

よく言われますよね。「金庫株はどう活用するんだ?」って。機関投資家とか、もしくは、社長からとか。

悩まないでください。活用方法なんてありませんから。あ、そりゃあ、金庫株がたまたまあれば新株じゃなくて金庫株を使う場面はありますよ。

私が言いたいのは、金庫株の「活用方法」について考えるのはちょっと違うということです。はあ?って思うかもしれませんが、考え方が間違っています。

まず考えていただきたいのは、金庫株ってなんでしょうか?金庫に株があるんですか?ないですよね。自己株取得をした結果、償却しないから金庫株として計上しているだけ、ですよね。自己株取得した結果です。つまり、株主還元として自己株取得した、ということで終わりなんです。

でも投資家は、金庫株って思ってしまっているので、どう活用するんだ?と迫ってくる。経営者も「どう活用しようか?」と考えてしまう。んで、事務局が振り回されてしまう。証券会社に「金庫株の活用方法を提案してくれ」と依頼をして、証券会社の担当者が大真面目に資料を作って提案してしまう・・・

金庫株の活用って、一応書くと、M&Aの対価、金庫株を処分して資金調達が主なものです(ほかにもあります。ストックオプションに充当とか・・)。

これでおわかりかと思いますが、「金庫株の活用」とは「M&A」および「資金調達」の大きく2つです。「金庫株の活用方法を考えること」とは、「M&Aという経営戦略を考えること」および「資金調達という財務戦略を考えること」です。

投資家は経営者に対して、経営者は事務局に対して、また、事務局は証券会社に対して、「経営戦略と財務戦略を考えろ!」と言っているわけです。

金庫株をもっていることの見えないコストって実はあるんです。このように投資家から面倒くさいことを言われて耐えなきゃいけないコストですかね。

いっそ、全部消却しちゃえばいいと思うのですが。

■買収防衛策を導入していると狙われ安い?

たまに言われることがあります。「買収防衛策って、自社に買収提案する場合のルールを決めて公表するんでしょ?買収するならこのルールに則ってくださいって。それって買収してくれって言ってるような気がしない?」と。

言わんとすることはわからなくもないのですが、買収防衛策を入れたからと言って、狙われやすくなることはありません。

むしろ、面倒くさいです。だって、いろいろとルールに則って情報提供しなくてはいけませんし、時間もかかりますし。まったく同じ会社があったとして、片方は買収防衛策を入れている、片方は入れていない、となったら、当然、入れていないほうの会社を買いに行くと思います。

なぜ、「買収防衛策を入れたら狙われやすくなる」と思ってしまうのか。たぶん、その会社さん、弱みがあるんでしょうね。弱みがあるから「買収防衛策を入れることによって、何か弱みがあるんだろう、と投資家に勘ぐられるのではないか」ということを恐れているのではないかと。

でも、買収防衛策を導入する会社さんのほとんどが、何かしらの弱みがあるんです。そもそも、弱みがない会社などありませんし。

ちなみに、買収防衛策って、万能ではないです。所詮、情報と時間を確保することが目的であり、完全に買収を阻止することは非常に困難です。

ただ、使いようによっては買収防衛策はうまいこと機能することもあります。

 

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