2017年10月23日

No.193 誰のための買収防衛策なのか

 日本で導入されている買収防衛策とは、買収提案がなされる場合において、買収提案の内容を精査するための情報と時間を確保するための方策です。では、誰が時間と情報を必要としているのでしょうか?

 ISSや機関投資家は「経営陣が必要としている」と考えています。それはなぜでしょうか?「買収防衛策」という名称にあるでしょう。買収を防衛するための策なのだから、当然、情報と時間の確保は経営陣のためである、と。過去、買収防衛策を導入している企業に対して、実際に買収提案がなされた際に、時間を確保し過ぎたことも影響しているのでしょう。「買収を絶対に拒絶したいから時間をかせいでいるんだ!」と思っているのでしょう。ただ、私は時間を確保し過ぎたとは全く思いませんけどね。

買収防衛策を導入している企業に対して行われた買収提案ですが、主なケースは、楽天によるTBSに対する買収提案と日本電産による東洋電機製造に対する買収提案です。楽天・TBSのケースは、2005年10月に楽天がTBS株式の15.46%を取得し、経営統合を申し入れ。楽天は持株比率を19.09%まで上昇させた。プロキシーファイトなどもしながら、2007年4月頃より買収防衛策のルールに則ったやり取りを実施。2008年12月の臨時株主総会でTBSは放送法上の認定放送持株会社への移行を決議(認定放送持株会社では、1つの株主は33%までしか保有できない)。2009年3月、楽天は保有するTBS株式の買い取り請求をTBSに要求したことを公表。ざっとこんな感じです。私の記憶もあいまいなので、ネットの情報を頼りにしています。情報提供のやり取りでけっこうな時間をかけましたね。まあ、でも当たり前です。

 TBSが長い時間をかけて情報を求めた理屈や心情は理解できますし、TBSクラスの会社が経営統合を決断するのであれば、このくらい長い時間をかけて検討するでしょう。ただし、株主は時間をかけ過ぎだ、と責めると思いますし、実際に批判したでしょう。

日本電産による東洋電機製造のケースは何度か取り上げましたが、2008年9月に日本電産が買収提案を実施。3か月ほど情報提供のやり取りをしましたが、同年12月に買収提案を撤回。たった3か月しか情報提供を要請していませんが、時間をかけ過ぎと批判されました。

TBSは確かに長い時間をかけたのかもしれない。けれども、経営統合するのであればその検討に2~3年の時間がかかるのは当然と言えば当然です。だから私は時間をかけ過ぎとは思えません。

ちょっと話はそれますが、楽天はなぜTBSの買収に失敗したのでしょうか?買収防衛策があったからだろ?いや、ちょっと違います。これ、意外と簡単です。それは「先に株を買ったから」です。細かい話は置いておきますが、まず、楽天はTBSと業務提携をしたい、ゆくゆくは経営統合をしたいと考えていたのなら、なぜTBSの株を先に15%買ったのでしょうか?TBSはどう考えるでしょうか?「業務提携の話をしたいと言っているのに、なぜうちの株を先に買うんだ?」と考えるのではないでしょうか?本当にその会社と業務提携をしたいのであれば、先に株を買ってはいけません。これ、絶対にダメです。本来相性がよいはずの会社であっても絶対に失敗します。株を先に買われた会社は頑なになります。そりゃそうなんですよ。だって、業務提携や経営統合という対等の交渉をすべき場面において、先に株を買うということは、交渉に圧力をかけるということです。そんなのは交渉ではなく、脅迫です。脅迫されていると相手が思った瞬間に信頼関係など醸成できるはずがありませんし、経営統合の話など進むわけがありません。楽天はどうすればよかったのでしょうか?友好的に進めたいのであれば、株を買わずに、じっくりと時間をかけてTBSと話をすべきだったのでしょう。楽天が「そんなに長い時間をかけたくない!」と思っていたら?突然敵対的TOBを実施すべきだったのです(当時のTBSに敵対的TOBを仕掛けて放送法上うまくできたのかは私も忘れました)。事前に15%の株を買って交渉?やり方が中途半端です。時間をかけたくないのなら、突然襲いかかるべきでした。

 買収防衛策とは誰のためのものでしょうか?一見、経営陣のためのように見えますが、実は従業員と株主のためのものであると私は考えています。ある会社と経営統合するとなった場合、不利な条件で統合した場合、もちろん経営陣の方にとっても不幸ではありますが、経営陣の方は高い報酬を得ていますから、イヤならやめればよいです(そんなにもらっていないという方もいらっしゃるとは思いますが、だからこそ私は役員報酬を大幅に引き上げるべきとコラムで申し上げています)。不利な条件になった場合に不幸になるのは従業員と株主です。そうならないために経営陣が相手方と交渉する必要があります。友好的な経営統合であれば、うまくいかない場合は破断にすればよいだけなのですが、上場している以上は敵対的TOBの対象になる場合があります。この場合は、情報と時間が確保できなくなってしまう可能性が高く、場合によっては従業員と株主が不幸になってしまうこともあります。そういう不幸な状況にならないようにするための方策が買収防衛策ではないだろうかと考えます。だから、どの上場企業も備えておくべき方策なのではないでしょうか。

 それとISSや機関投資家はTBSや東洋電機製造に対して「時間をかけ過ぎだ!」と非難しますが、非難の方向が本当は間違っているのです。買収提案をされたのだから、真摯に株主を中心としたステークホルダーのために経営陣が検討するのは当たり前ですし、時間がかかります。非難をする方向は買収者の方です。「さっさとTOBを仕掛けんかい!」と非難する方が正しいと思います。

 

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