2017年04月21日

No.82 富士通がTOB価格引き上げを断念

 

富士通

佐々木ベジ

TOB価格の変遷

 

3月17日   3,500円

 

3月29日   4,000円

 

4月5日    5,000円

 

4月21日5,000円のまま

2月3日    2,800円

 

3月21日   3,700円

 

3月31日   4,500円

 

4月12日   5,300円

買付株数の上限

なし(全株取得)

約48%

買付株数の下限

2/3集まらないと不成立

なし

TOB期間

3/17~5/12(35営業日)

2/3~4/28(60営業日)

上場廃止の有無

上場廃止

上場継続

買付に要する資金

37億3,378万円

19億5,091万円

公開買付代理人

SMBC日興証券

三田証券

富士通がTOB価格の引き上げを断念しました。以前、コラムで「資金力のある富士通が勝つだろうと思っている人が多いと思いますが、富士通は上場企業である以上、TOB価格の引き上げには限界があります。佐々木ベジ氏が勝てる余地があります」と申し上げました。それにしても5,000円で断念するとは思いませんでした。富士通やアドバイザーは、佐々木ベジ氏が5,000円以上にTOB価格を引き上げてこないだろうと読んでいたのでしょうか?だとしたら相当甘いです。甘すぎます。佐々木ベジ氏が最初に添付した残高証明以上の資金を投入しないと思っていたのでしょうか?だとしたら素人です。

 まだ勝敗は決まっていませんが、ソレキア・富士通は負けです。なぜなら、佐々木ベジ氏が提示しているTOB価格のほうが高いにも関わらず、ソレキアは「佐々木ベジに買われたら企業価値が毀損します!!富士通のTOBに応募してください!!!富士通は全株買ってくれます!」と言っているからです。まあ、佐々木ベジ氏のTOBには上限があるのでこの理屈も通じますが、すっきりしませんね。だって、価格の低いTOBに応募してくれとお願いしている訳ですから。

 考えられる防衛策は大幅増配なのですが、ソレキアの経営陣は「富士通TOBに応募してください!」と推奨してしまっています。富士通TOBへの応募推奨をしている状況において、防衛策として大幅増配は取りえないでしょう。

 株主はどう行動するでしょうか?佐々木ベジ氏のTOBは5,300円だけど、全部買ってもらえる訳ではない。富士通のTOBは5,000円だけど全部買ってもらえる、ただし、応募が2/3以上ないと成立しない。

 佐々木ベジ氏のTOBで1/3近く集まってしまえば、富士通のTOBは成立しない可能性が高くなる訳です。だとすると、佐々木ベジ氏のTOBに応募してしまうのではないでしょうか?ただし、佐々木ベジ氏のTOB結果を見た上で、富士通が成立の下限を2/3から1/2に引き下げてくる可能性はあります。佐々木ベジ氏がTOBで20%程度しか集まらなかったら、「よし!ベジ、1/3取れなかったから、うちのTOBの成立条件を緩めよう」と。

 今ソレキアが取っている防衛策はかなり危険な賭けではないでしょうか?佐々木ベジ氏のTOBに1/3集まらないことに賭けているというふうに見えます。

 なぜ大幅増配という防衛施策を取らないのか不思議です。このままだと佐々木ベジ氏のTOBに応募が集まってしまい、富士通のTOBが不成立になってしまう可能性があります。「佐々木ベジのTOBにはそんなに集まらないだろう?」って考えているのでしょうか。「だろう」は危険です。「集まるかもしれない」です。

 私だったら、まず、富士通によるホワイトナイト戦略には反対しました。こうなることは容易に想像できたからです。最初っから大幅増配を防衛手段として提案します。しかし、こうなってしまった以上、他にも取りうる戦略がありました。

それは、富士通とソレキアが佐々木ベジ氏にアタマを下げに行くことです。富士通に「佐々木さん、我々はTOB価格を次回5,700円に引き上げます。しかし、それ以上は引き上げられません。ついてはこれで手を打っていただきたい。ソレキアの1株当たり純資産である6,340円には届かないが、なるべくそれに近い値段にしましたので納得していただきたい。」と言っていただきます。

佐々木ベジ氏は何と言うでしょうか?そう簡単には納得してくれないかもしれません。であればソレキアに「意見表明で散々佐々木さんを非難して申し訳ありませんでした。ついては佐々木さんがこれ以上TOB価格を引き上げないと約束してくださるのであれば、次回の意見表明において、佐々木さんが主張しているPBR・ROEを意識した経営をすることは正しいと表明します。また、佐々木さんを非難したことについて公にお詫びします。」とアタマを下げてもらいます。これで佐々木ベジ氏に振り上げた拳を下してもらいます。そうすれば、富士通も形式的には負けたことにはならないですし、佐々木ベジ氏の顔も立ちます。ソレキアの顔が立ちませんが、それは納得してもらいます。敵対的TOBを仕掛けられたのだから、無傷でいることは不可能です。しかも、富士通を巻き込んでしまったのですから、それくらいは覚悟してもらわないとダメです。

今日のソレキアの株価終値は5,400円です。佐々木ベジ氏がTOB価格を5,300円に引き上げてから、株価が5,300円を下回った日はありません。少なくとも5,300円以上で買った人は佐々木ベジ氏のTOBに応募しそうです。来週月曜日のソレキア株価が5,000円を上回ったら・・・月曜日の株価次第で方向性がある程度見えてしまう可能性があります。

いずれにせよ久しぶりに起きた敵対的TOBです。しかも、ホワイトナイトが登場しました。さらに、激しいTOB価格の引き上げ合戦になったケースです。新聞などでは全く取り扱われていませんが、非常に参考になります。今回のケースは改めて分析した内容を皆様にお送りしたいと思います。いろんなインプリケーションがあります。特にフィナンシャルアドバイザーは非常に重要であるということ、感情的になってはいけないということがわかったケースです。

 なお、個人的には、富士通はTOB価格を5,700円くらいまでは引き上げてくるかなあと読んでいました。ちょっと残念です。もしかしたら5月12日に予定しているソレキアの決算があまりよくない内容なのかもしれません。

 

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