2018年03月14日

No.289 正確に分析しないと会社の方向性を見誤る

昨日のコラムで触れたファナックのケースについて、ちょっと考えてみたいと思います。 「ガバナンス改革で変身したのがファナックだ。議決権行使を巡って株主の対話が活発になるのを見越し、15年4月、対話の窓口となるSR(シェアホルダー・リレーションズ)部を新設した。4年ぶりに投資家向け説明会も開き、大胆な株主還元策を発表。それまで市場との対話に後ろ向きとされていた同社のひょう変ぶりが話題を呼んだ。」とありました。

 実際ファナックはIRやSR活動を自社で行うのではなく、業者に外注しました。正確にはファナックは「変身した」のではなく「お化粧した」が正しいと思います。ファナックのIRやSR活動に対する本音は何ら変わっていないでしょう。IRやSR活動について、必要だとお考えになる会社はたくさんあると思います。でもこの記事で重要な点は、IRやSR活動の重要性の議論ではなく、ファナックは変身していないということなのです。この記事を字面だけ読んだら本質は理解できません。誤解します。「IRやSR活動に後ろ向きだったファナックが変身したのか。うちもIRやSR活動のことを真剣に考えないといかんなあ」と考えてはダメだということです。そもそもIRやSR活動をやらないことは悪なのでしょうか?後ろ向きといった消極的な姿勢というより、ファナックは「必要ない」と考えているのではないでしょうか?「だってちゃんと決算短信や有価証券報告書を提出しているよね?株主総会もちゃんとやっているよ。多額のコストをかけてまでやる必要あります?そんなお金があったら投資にまわしますよ」と考えているとしたら?それはそれでちゃんとした経営姿勢と評価できるのではないでしょうか?ファナックは何も変身していないのです。世の中がうるさいから、怒られない程度にやっておこう、やっているとアピールしておこう、と考えたのではないでしょうか?だからこの記事を誤解してはいけないと思うのです。ガバナンス担当の専門部署を置く?既存の法務部や総務部ではダメでしょうか?ESGの専門部署を置く?広報部ではダメでしょうか?新聞記事は正確に読み解かないと、会社経営の方向性を見誤ることにもつながりかねません。これと同じ構図が買収防衛策廃止に関する記事です。

いまどきの買収防衛策 「株主重視」へ企業シフト 2017/12/3

上場企業の買収防衛策が多様化してきた。防衛策は経営陣の支配力維持に使われかねないとして株主からは不評。廃止する企業が多いが、その一方で仕組みを変えて維持する企業や、敵対的買収に備えて新規導入する企業もある。単純な導入では経営リスクを抱え込みかねないため、各社とも株主を重視した防衛策を模索し始めている。~中略~買収防衛策の廃止が増えたのは、株主から反発の声が強まりつつあるためだ。議決権行使助言会社、米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は「買収防衛策はあくまで一時的な手段で、長期の継続は経営者の自己保身と解釈されかねない」と指摘。「再導入した場合も含めた合計導入期間を3年以内に限るべきだ」と主張している。こうした声が強まるなか、パナソニックは16年12月に買収防衛策の廃止を決めた。「外部の環境変化を注視し、防衛策の影響を慎重に検討した結果」だと説明する。17年5月に廃止を決めた丸井グループは「国内外の株主との対話を踏まえ、企業価値の向上を図ることが株主の利益向上に資する」と判断した。大量の株式取得に対しては「株主が適切に判断するために十分な情報の提供を求め、取締役会の意見を開示し、検討のための時間確保など適切な措置を講じる」とした。~以下略~

 買収防衛策の廃止が増えたのは「株主からの反発が強まりつつあるため」とありますが、そもそも株主は以前から買収防衛策には反対しています。他の記事では出ていることもありますが、海外の投資家に加えて国内の投資家も反対するようになってきたことが大きいでしょう。パナソニックは「外部の環境変化を注視し、防衛策の影響を慎重に検討した結果」廃止するそうです。丸井は「国内外の株主との対話を踏まえて、企業価値の向上を図ることが株主の利益向上に資する」と判断して廃止したそうです。

 ホントですか?ホントは「安定株主比率が低く、外国人株主比率が高いため、買収防衛策導入議案が否決される可能性が高まった」ではないでしょうか?廃止した会社は「TOBルールが改正されて買収防衛策で求めている時間と情報の確保が法律で担保されたから」ということを理由にしています。違うでしょ?否決されるリスクが高まったからでしょ?これを誤解して「やっぱり買収防衛策なんて時代錯誤なのかなあ。CGコードが制定されたことが影響しているらしいなあ。うちも廃止するか?」と考えてはいけません。誤解ですから。でも中には継続できる株主構成なのに、間違った情報をもとに廃止してしまった会社もあることでしょう。

 また、丸井は買収防衛策を廃止したけど「株主が適切に判断するために十分な情報の提供を求め、取締役会の意見を開示し、検討のための時間確保など適切な措置を講じる」と言っています。いえ、できません。買収防衛策というルールがあったから時間と情報の確保を要請できたのです。これも間違った情報です。

 このように、今回のファナックの記事にせよ、買収防衛策廃止に関する記事にせよ、間違っていることがよくあります。間違った情報をもとに経営判断をしてしまうと、後でとんでもないことになりかねません。

 

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4月23日(金)時点での買収防衛策の導入・廃止状況は以下のとおりです。私が気になっているのは、旧村上ファンドに株式を取得されているヨロズはどうするのか、ということです。

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