2023年03月11日

No.1494 私が買収防衛策を導入すべきと考える理由①

長くなったので、2回に分けますね。残りは明日公開します(たぶん。できなかったらすみません)。

まず買収防衛策と呼ばれている事前警告型ルールですが、実際には買収防衛策ではありません。事前警告型ルール(平時型買収防衛策)とは、当社の株式を20%以上取得する場合(買収提案)は、買収の目的、買収条件などの詳細な情報の提供と買収提案に応じるかどうかを検討するための時間の提供を要請するルールです。ルールに従った場合は原則として買収防衛策を発動しませんが、著しく企業価値を毀損するような提案の場合は発動することがあります。基本的に平時型買収防衛策は情報と時間を求めており、発動を主目的にはしていません。現に平時型買収防衛策導入企業が買収防衛策を発動したケースはありません。日邦産業がフリージア・マクロスに対して発動しましたが、これはルールに従わずにTOBを強行したから=ルール違反をしたから発動しました。

なお、買収提案がなされてから導入される買収防衛策(有事型買収防衛策)は買収防衛策の発動を主目的にしています。ただし、取締役会のみで発動を決議することはなく(したケースもありますが、裁判所が認めませんでした)、株主総会を開催して発動してよいかどうかを確認した上で発動しています。

ではなぜ情報と時間を確保することが主目的である平時型買収防衛策が買収防衛策と呼ばれているのでしょうか?

それは東証が「買収防衛策のプレスのタイトルに(買収防衛策)と記載しろ」と指導しているからです。上場会社が好きこのんで自ら積極的に買収防衛策と記載しているわけではないのです。なお、会社によってはTD-NETにアップするプレスのタイトルには(買収防衛策)と記載しているものの、株主総会議案にする際には(買収防衛策)と記載していないケースもあります。私もお客様に対して「議案のタイトルには記載しないでください」とアドバイスしています。

私は平時型買収防衛策を買収防衛策とは考えていないので、全上場会社が導入すべきと考えていますが、現実的には不可能です。なぜなら安定株主比率が低い会社は平時型買収防衛策を株主総会にかけると否決される可能性が高い時代だからです。

「今はもう買収防衛策などを導入する時代ではない!」「投資家はみんな否定的だ」とおっしゃる方がいますが、違いますね。投資家が平時型買収防衛策に否定的なのは今に始まったことではなく、平時型買収防衛策の導入が始まった2006年頃から否定的でした。

時価総額の大きな会社もかつては導入していましたが、皆さん廃止し始めました。なぜかと言うと、投資家は平時型買収防衛策を導入し始めたころから否定的であり、海外機関投資家は反対していたものの、国内機関投資家は賛成してくれていました。想像ですが、国内機関投資家って、だいたい銀行や証券会社などの系列である場合が多く、メインバンク・主幹事証券となっている会社の平時型買収防衛策議案には反対しにくかったのでしょう。

それが2015年頃からでしょうかねえ。国内機関投資家も反対するようになってきたのです。そうなってくると時価総額が大きく、安定株主比率の低い会社は持ちません。国内機関投資家にまで反対されると、株主総会で議案が否決される可能性が高まります。よく「買収防衛策が時代遅れとわかったから廃止する会社が増えた」「コーポレートガバナンス重視の時代になったことがわかったから廃止した」とおっしゃる方がいますが、違います。みなさん本音では買収防衛策を必要としていますが、株主総会で議案が否決されるなどあってはならないと考えているので、現実的な否決リスクをおそれて廃止するようになったのです。なお、これは私の想像ではありません。実際に廃止した会社と議論していますから事実です。

なお、現在でも時価総額が大きくても継続している会社はありますが、口をそろえておっしゃるのは「私たちが導入しているのは買収防衛策ではないから導入しているんだ」ということです。そうなんです。もちろん「絶対に買収されてなるものか!買収防衛策で守り切ってやるぞ!」と考えている会社もいるでしょうけど、エクセレントカンパニーはそう考えていません。買収防衛策ではなく、時間と情報を確保するためのルールであり、すべてのステークホルダーにとって必要なルールではないですか?と考えています。

そしてこれらの会社は機関投資家に何度も何度も買収防衛策じゃないんだと説明していますが、聞く耳を持ってくれません。まあこれも仕方がないです。機関投資家も買収防衛策ではないことをわかってはいます。そりゃそうです。あのルールを読んで買収防衛策だと考える機関投資家などいません。現にブラックロックなどは条件を満たせば今でも賛成してくれますし、国内機関投資家でも条件を満たせば賛成するケースはあります。ただ、中には買収防衛策アレルギーが強い人もおり、特に機関投資家に資金を提供している海外の出資者などには多いようで、仮に買収防衛策に賛成した場合、その理由をきちんと説明できないから反対しているケースもあるようです。

平時型買収防衛策に対して逆風が吹き荒れている時代ではありますが、私が買収防衛策を全上場会社は正々堂々と導入しましょうと言っているのは以上のような理由です。買収防衛策などではないし、いざ買収提案がなされたときに時間と情報が必要ないと考えるステークホルダーなどいないでしょう、ということです。

ただし、全上場会社が導入することは現実的にはムリです。既述のとおり時価総額の大きい会社は安定株主比率が低く、株主総会で議案が否決される可能性が高いからです。ですから、上場会社は置かれている状況によって企業防衛のスタイルが変わってきます。

次回はそのお話をまとめます。

 

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