2016年12月02日

No.28 パナソニックの買収防衛策についてなど2コラム

■パナソニックの買収防衛策について

 今まで何度か申し上げましたが、買収防衛策を導入する場合、株主総会に議案として上程している企業が多いです。買収防衛策はそもそも、会社法上の株主総会議案ではありません。最も法的安定性の高い導入方法は、定款において買収防衛策を導入できる旨の条文を設定し、その上で買収防衛策を株主総会に諮るという方法です。定款変更+買収防衛策導入という方法を取っている会社もけっこうあります。しかし、冷静に考えると、定款変更できるだけの票読みができる会社=安定株主比率が高い会社と捉えれば、買収防衛策は必要ない、という見方もできます。まあ、過半数取得されることだけを念頭において買収防衛策を導入する訳ではありません。20%レベルで投資ファンドなどに株式を取得されるとけっこうやっかいなので、買収防衛策を事前に入れておこうという判断かもしれません。

 定款変更して導入する方が法的安定性が高いのに、なぜみなさん定款変更して導入しないのか?簡単ですね。そこまでの票読みができないから、そこまでの安定株主がいないから、ですね。そのため、株主総会議案にはならないけど、いわばアンケート的に、宣言的決議という方法で株主総会に議案として諮り、株主の承認を得て買収防衛策を導入しているということです。では、買収防衛策の導入に関して、他に株主の意思確認をする方法はないか?パナソニックは、買収防衛策そのものを株主総会に諮ってはいませんが、取締役選任議案に「各候補者は、平成28年4月28日開催の取締役会において決議された『当社株式の大規模な買付行為に関する対応方針ESV(Enhancement of Shareholder Value)プラン』に賛同しております。」と付しています。買収防衛策導入に賛成している取締役を選任するかどうかによって間接的に買収防衛策を承認してもらう、という方法です。

 この場合、ISSは買収防衛策を株主総会に諮っていないとして経営トップの選任議案に反対推奨することがあります。2016年6月株主総会におけるパナソニックの長栄会長、松下副会長、津賀社長の賛成率は、各々、65.48%、79.15%、66.69%でした。もちろん、株主が反対票を投じたのは買収防衛策だけが理由ではないかもしれません。ちなみに、パナソニックの株主構成は以下のとおりです。

  法人株主比率は6.96%です。ここには記載しませんが、上位株主には日本生命2.81%、パナソニック従業員持株会1.76%、住友生命保険1.52%がいますので、外部から見た安定株主比率は13.05%です。パナソニックの時価総額を考えると、これくらいの数値です。ただ、パナソニックは外国人株主比率が高い一方で、個人株主比率も高いです。ISSの意見に左右されない、白票を投じてくれる可能性が高い個人株主がそこそこいるので、ISSが仮に経営トップの選任議案に反対推奨しても、経営トップが否決されるような事態にはならないのです。

■買収防衛策を更新するときに気を付けるべきこと

 買収防衛策を導入している会社はだいたい3年で更新しています。というのも、議決権行使助言会社のISSが、買収防衛策の有効期限は最長で3年間であること、という基準を出しているからです。

 皆さん、3年の更新期限を迎えると、「さて、さらに3年間更新しよう」と考えるか、「廃止している企業が多いから、うちも廃止しようか」と考えます。私の意見は常日頃から申し上げているとおり、更新すべし!です。

 ただ、更新する会社は「今までと同じ内容でよいのだろうか」という悩みにぶつかります。わりと、マイナーチェンジをしている会社が多いからです。

買収防衛策とは、「当社株式を20%以上取得する場合は、事前に株式取得の目的や内容に関する情報を提供してください。提供された情報を当社が検証します。場合によっては追加で情報提供を要請します。その上で、取締役会や独立委員会が株式取得を認めるかどうか協議します。場合によっては買収防衛策を発動することがあります」というのが主な内容です。

 機関投資家は基本的に買収防衛策に対してはネガティブです。理由は、経営陣の保身につながるから、です。株式市場やマスコミからは批判されるでしょうが、使い方によっては保身に用いることも可能です。

 特に機関投資家が危惧するのは「むやみやたらに時間を稼ごうとするのではないか」という点です。買収防衛策で時間を稼ぐポイントは2つです。1つ目は「買収者から提供される情報が不十分である」として追加で何度も情報提供を要請することです。2つ目は買収提案の検討期間を長く確保することです。機関投資家も「めったなことでは買収防衛策を発動することはないだろう」と認識していると思いますが、「たぶん時間稼ぎに使うだろう」と考えていると思います。そのため反対します。

 であれば、情報提供を要請する内容や期限、買収提案を検討する期限を区切ってしまえばよいではないか、という発想になります。そのため、最近の買収防衛策を見ると、情報提供の要請期限を30日に区切ったり、買収提案の検討期限を延長しないことを明言していたりする内容に修正しているケースをよく見ます。

 外国人株主比率が高くて「こういう風に機関投資家が納得する形にしないと賛成してもらえない」からなのでしょう。でも、本当にそれでよいのでしょうか?以前も申し上げましたが、買収防衛策は「時間と情報を確保するためのもの」ではありますが、一方で「買収者との交渉ツール」でもあります。買収価格などの条件を引き上げるために買収防衛策を使う。そのような観点に立った場合、自らが交渉ツールである買収防衛策に制限を加えることはいかがなものか?交渉ツールだけど交渉期限を自ら区切っている?おかしな交渉ツールです。

 機関投資家には「買収防衛策という認識はしていない。買収者との交渉ツールである」と主張し、納得してもらいましょう。

 

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