2016年11月15日

No.19 年に一度の企業価値検討委員会など3コラム

■年に一度の企業価値検討委員会

 年に一度は自社の企業価値・株主価値の検証、買収防衛策の必要性や想定バイヤーの検討などを行っている企業があります。私もいくつかのお客様に分析資料を提供したことがありますし、ミーティングに参加しディスカッションしました。

 ただ、事前に担当者の方からは「買収防衛策の必要性については引き続きの検討課題、としてくれませんか?買収防衛策は必要だ、と断言されると、経営陣から、じゃあすぐ導入しろと言われてしまうので」と方向性を打診されます。

 わかります。買収防衛策って、「本当は必要だと思っているんだけど、今さら導入すると目立つし。タイミングを逃したとは経営陣には言えないし。でも、いらない、とは言い切れない。だって、投資ファンドに株式を取得されるリスクはゼロじゃないし。じゃあ、引き続き検討課題としておこう」ということですね。

 でも、そろそろ検討課題から「いつでも導入できるようプレスリリースの文案は作っておきましょう」にレベルを移行したほうがよいと思います。

 買収防衛策を導入するには、弁護士にプレスリリースの文案を作ってもらう必要があります。それほど時間はかかりません。自社で作っても構いません。ただ、東証の担当者から「どちらの弁護士事務所、アドバイザーに見てもらいましたか?」と聞かれることがあります。導入には東証への事前相談が必要です。これがだいたいプレスリリース公表の3週間前。まあ、1か月くらい前には事前相談する企業が多いです。

 と、だいたい買収防衛策を導入するまでに1か月~1か月半くらいを見ておく必要があります。もうおわかりかと思いますが、買収者が現れてからプレスを作っていると、それだけ時間がもったいないということです。事前にプレスだけは作っておけば、いざというときに早めの対応ができます。

 なぜ買収防衛策の検討レベルを上げておいたほうがよいか?やっぱり、川崎汽船じゃないでしょうか?経営陣の皆さんの目には「えらい買われとるな。大丈夫かいな?」とうつっているかもしれません。「うちにはああいう株主はよってこないんか?よってきたらどうするんや?」と。

 いざ、というときの準備は平時にしておく必要があります。「うちは買収防衛策はいらない」と一度は判断した企業の皆さん。もう一度、というか、継続的に検討しておく必要があると思います。買収防衛の検討=企業価値向上策の検討です。買収防衛策は一度検討して入れないと決めたから必要ない、ではないと思うのです。株式市場の主人公やストーリーは常に変化します。

 1年に1度か2度は関係部署で「本当に買収防衛策って必要ないんだっけ?」と議論しておくことをおすすめします。

■買収防衛策は株主総会にかけるべきか?

 私は昔、「買収防衛策は株主総会にかけなくてはならないのですか?」と質問されたとき、「会社法上、株主総会の議案にはならないので義務ではありません。ただ、株主総会に議案としてかけている会社が多いです」と回答していました。また、「念のため総会にかけておいたほうが無難でしょう」ともアドバイスしました。

後悔しています。

なぜ、「株主総会の議案にならないものです。かける必要はありません。かける必要はありませんが、買収防衛策導入を決めた経営陣の役員選任議案に反対票を投じられるリスクはあります。覚悟してください」とアドバイスしなかったのかを・・・

まあ、そんなアドバイスをするアドバイザーはいなかったでしょうし、今後もいないでしょう。ただ、私はそう思っています。

買収防衛策は、買収防衛を目的にしているわけではありません。企業価値・株主価値向上のための買収提案かどうかを経営陣が見極めるため、また、株主が見極めるための時間と情報を確保するものです。なぜ株主総会にはかる必要があるのか?経営陣が経営判断で導入すればよいのです。それに反対するような株主は役員選任議案に反対してもらえばよいのです。なぜ株主のためになる施策の導入に反対するのか?もしくは反対推奨するのか?

ただ、ISSなどが反対推奨すると言っている中で、私だけが「そんなのおかしい!」と言っても、誰も聞いてくれませんので、戦略的に株主総会にかけるという方法はあり得ます。

でも、外国人株主比率が高い企業の皆さん。買収防衛策を株主総会にかけたら、否決されますよ。でも、買収防衛策の導入を取締役会で決めれば、買収防衛策を導入することはできます。ただ、社長の選任議案に反対推奨されます。

でも、本当に社長の選任議案が否決されると思いますか?買収防衛策を株主総会にかけなかったから、という理由だけで社長の選任に反対する株主はいるとは思いますが、たくさんはいないと思います。

それに、取締役会で導入するちゃんとした理由を適切に発信していけば、外国人株主は納得しれくれると思います。ISSは何を言おうがムリなので無視しますが。

※なお、2018年6月時点では、買収防衛策を総会にかけずに導入した場合、経営トップの選任議案に反対するというスタンスの機関投資が多くなっていることについてはご留意ください。

■ひっそりと持分を増やしていたエフィッシモさん

 昨日まで1週間ほど不在にしており、大量保有報告書の提出状況などをチェックできていない状況でした。

見てみると、エフィッシモが川崎汽船の株式を買い増していました。保有割合は37.74%から38.82%まで上昇していました。最近の60日間の売買動向は以下のとおりです。変更報告書に掲載されている内容です。10月は買っていないのですね。

 日本郵船、商船三井、川崎汽船がコンテナ船事業を統合すると発表したのが10月31日(月)の午前11:00です。10月31日の川崎汽船の出来高は71,196,000株です。

エフィッシモは31日は取得していないようです。31日の川崎汽船の株価はかなりぶれました。上表のとおり、コンテナ船事業の統合発表後に取得したのは11月1日、2日、4日です。11月3日は祝日でしたので、統合発表後は毎日買っているということですね。

7日以降に取得しているかどうかはわかりませんが、統合発表前に比べて出来高は増えていますので、またさらに買い増している可能性はあります。取得割合が40%を超えるのも、もしかしたらそう遠くない日かもしれません。今のところ、新聞報道などでエフィッシモが川崎汽船株式を買い増したことはあまり報道されていないようですが、40%を超えてくると、実質的に過半数を取られたと報道がなされるかもしれません。

海運業界に関しては、また一波乱起こる可能性があるかもしれません。

 

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3Dという投資家がサッポロ株を取得し、経営改善を要求しています。彼らが要求しているのは以下です。なお3Dは東芝にも投資していた投資家です。

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