2023年08月29日

No.1591 経営者は何を守りたいのか?

ニデックがTAKISAWAに対して敵対的TOBを仕掛けました。といってもTAKISWAは買収防衛策を導入していますから、今のところTOB提案をしているだけです。ニデックというストラテジックバイヤーがシナジーの発揮などを目的に、TAKISAWAの株主に対して「皆さんが持っている株式をニデックに2,600円で売ってくれませんか?過去1カ月の株価の約2倍です!」という提案をしました。

ニデックは一応TAKISAWAの買収防衛策ルールに則って提案はしたものの、ルールを完全に順守する訳ではありません。一方的に検討期間を60日と定め、9月14日にはTOBを開始するとしています。これ、買収防衛策のルール違反です。ではTAKISAWAはルール違反を理由に買収防衛策を発動できるでしょうか?

できます。ニデックが発行差止請求をするかもしれませんが、裁判所がTAKISAWAの判断を支持する可能性があります。どうなるかはわかりませんが、ルール違反として、ニデックがTOBを開始したらTAKISAWAが取締役会決議で買収防衛策を発動する可能性はあります。ただし、世間がそれを許すかどうかというのも大きいですね。もちろん世間が許さなくても裁判所が許してくれればOKなのですが、TAKISAWAはその世間のプレッシャーに耐えられますか?TAKISAWAよりもアドバイザーが耐えられるかです。見ようによっては、経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」に真っ向から歯向かっているような構図になります。

以前から申し上げている通り、日本の会社が導入している買収防衛策は買収防衛策ではありません。時間と情報を確保するためのルールです。これ、本当にそうなんですよ。発動することもできますが、基本的には時間と情報を確保することが目的です。なお証券会社などが「時間と情報しか確保できないから意味がない」と言っているようですが、それはそれで違います。時間と情報を確保することの重要性、ひいては買収防衛策のことがまったくわかっていない。情けない。

今買収提案をされていない会社がやるべきことは「敵対的買収が起きたらどうしますか?買収者に乗っ取られるのはイヤですか?なぜイヤなのですか?」を突き詰めて考えることです。つまり「何を守りたいのか?」をはっきりさせておくことなのです。なんでもいいんですよ。カッコつける必要はありません。

例えばですが、社長が「オレの立場を守りたい!」 これもOKです。本音をさらしましょう。ほかにも社長や役員が「こんな安い報酬しかもらっていないのに、突然買収されてクビになるのはイヤだ!住宅ローン、まだいっぱいあるねん!」でもOK。さあ、どんどん本音をさらしましょう!

①オレの立場を守りたい!

②まだ社長になって1年だぞ!やっていないことがたくさんある!

③ただでさえ報酬が安いのに、突然買収されてクビにされたら生活できん!この年で転職などできるか!子供はまだ高校生なんだよ!これからお金がかかるんだよ!

④あの買収者の傘下なんて絶対にイヤだ!あの社長のことが大嫌い!

⑤あの会社は取引先に無理難題ばかり押し付ける!取引先に迷惑がかかる!

⑥重複する部門や工場がスクラップされる!

⑦従業員がリストラされるに違いない!

⑧従業員の給料が下げられるかも!冷や飯を食わされる!

⑨傘下にされたら、プロパー社員が社長や役員になる可能性がなくなる!

⑩安い価格で買収されるべきではない!株主価値を守るべきだ!

さて、いろいろと皆さんが守りたいものや本音、本心が出てくると思いますが、では、これらの守りたいものをどうやったら守ることができるでしょうか?

買収防衛策で守ることができますか?安定株主比率が高くないという前提です。

買収防衛策じゃあ守れませんよ。買収防衛策は時間と情報を確保するためのルールです。保身には使えません。そもそも安定株主比率が低いという前提ですから、買収防衛策を導入することもできません。有事型であっても発動を株主が賛成してくれません。なお、唯一、買収防衛策で守ることができるのがあるんです。それは⑩です。

株主は「日本の経営者は買収防衛策を時間稼ぎに利用するつもりだ!」と考えて反対していることが多いと思いますが、買収防衛策は本当は株主にとって必要な施策なのです。機関投資家も本音ではわかっていますよ。

で、実際には買収防衛策で守ることができるものって少ないんですよ。さて皆さん。みなさんが本音で出した守りたいものは実は買収防衛策だけでは守り切れないのですよ。ただし、買収防衛策はそれでも必要な施策です。それほど時間と情報を確保することは重要なのです。突然TOBにしないことが重要なのです。

では①~⑨はどうやって守ればよいのか?これ、平時のうちからきちんと経営者は議論し、整理しておく必要があります。

・そもそも守るべきものなのか、守ってはいけないものじゃないのか

・経営者が守るべきものなのか?防衛行動をとる主体を考え直す必要はないか?

・守るのではなく今のうちに整備していくことではないのか?

・今の世の中、企業防衛という行動を取ってはいけないのか?

・どういう防衛行動ならいいのか?それは有事にできるのか?

・本当に平時にやるべきことは何なのか?

などなどです。これを徹底的に議論し整理しましょう。そうすれば今何をやらなくてはならないのか見えてきます。

いざというときに備えて時間と情報を確保するための買収防衛策は必要であると私は考えていますが、それだけ十分とは言えません。何を守りたいのか?これを平時に突き詰めて考えておく必要があるのです。それをきちんとやっていない会社が買収されるのです。

 

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