2017年02月26日

No.63 敵対的TOB~次の動きは?~

現在、佐々木ベジ氏がソレキアに対して敵対的TOBを実施中ですので、しばらくはこのテーマを取り扱います。敵対的TOBの開始が2月3日(金)です。2月16日(木)にソレキアが質問権を行使し、2月23日(木)に佐々木ベジ氏が対質問回答報告書を提出しました。ここまでが実際に起きた事象です。では、ここからどういう動きになるでしょうか?

 当初私は、「おそらく大幅増配で対抗」と思っていました。というのも、一番手っ取り早く、ソレキアにとって最もコストがかからない方法だからです。MBOで対抗する場合、公開買付けをすることになりますから、公開買付代理人を選定する必要がありますし、手数料を支払わなくてはなりません。会社側が負担する訳ではありませんが、トータルでかかる手数料が多額になります。

ホワイトナイトによるカウンターTOBはおそらくないだろうと思っています。以下、ソレキアの株主構成を再掲します。富士通が大株主です。

 富士通はソレキアの取引先でもあるようです。ホワイトナイト候補企業ですね。でも、私の経験上、ホワイトナイトにはならないと考えます。理由としては、まず、時間がないこと、です。ホワイトナイトになるためには、社内で議論し、最終的には取締役会で決定する必要があると思いますが、そのための時間があまりにも短い。大手企業であればあるほど、有事においてホワイトナイトになることを決断しにくいと思います。また、あえて火中の栗を拾いに行くことはしないと思います。

 以前申し上げましたが、ソレキアによる留保の意見表明を見る限り、MBOで対抗しようとしているのではないかと思います。もちろん、断言はできません。あくまで推測です。ソレキアの第3四半期報告書を見ると、2016年3月末時点で現預金を34億円、投資有価証券を2億9,000万円保有しています。有利子負債は短期借入金11億円、長期借入金5,000万円です。ネットキャッシュは25億3,700万円です。

 ソレキアの発行済株式総数は1,016,961株で株価は2,773円、時価総額は28億円です。仮に3,800円でカウンターTOBをかけたとしても、必要となる資金は38億円です。経営陣が株式を持っていますし、安定株主にはMBOに応募せず継続して株式を保有してもらうことをお願いすれば、必要となる資金はもっと少なくなります。

 では、佐々木ベジ氏は引き下がるでしょうか?2,800円でTOBをかけていますので、仮に3,800円でカウンターTOBがかかり、佐々木ベジ氏が応じれば儲けることができます。ちなみに、佐々木ベジ氏らの保有株は58,600株で取得資金は1億5,400万円です。1株当たりの取得単価は2,638円ですから、1株あたり1,162円の利益、つまり、総額で6,800万円儲かることになります。応じるでしょうか?

 あくまで推測ですが、3,800円では応じない気がします。なぜなら、今回の敵対的TOBにかかったコストがあるからです。公開買付代理人に支払う手数料があります。また、公表されてはいませんが、弁護士やFAを雇っている可能性は高いと思いますので、それらアドバイザーに支払う手数料もあるかもしれません。敵対的TOBですから、通常よりも手数料がかかっているかもしれません。少なく見積もっても、1億円くらいの手数料が発生している可能性があります。そうすると、3,800円では割に合いません。

 では、4,800円でカウンターTOBがかかったらどうでしょうか?4,800円-2,638円=2,162円、総額で1億2,600万円程度儲かりそうです。佐々木ベジ氏がアドバイザーに支払った手数料が1億円程度だとすれば、2,600万円くらいの利益が発生しそうです。4,800円だったら応募するでしょうか?どうでしょう・・・本件は「敵対的TOB」です。「敵対的買収者」「乗っ取り」と非難されるリスクを覚悟した上で実行しました。数千万円程度の利益をあげられるからと言って、4,800円で応じるでしょうか?

 そもそも、ソレキアのBPSは6,208円です。4,800円であれば、佐々木ベジ氏が提示したTOB価格である2,800円を2,000円も上回ります。しかし、BPSに比べたら相当低いです。佐々木ベジ氏は「解散価値よりも相当低い価格でMBOをしようなどと、経営陣は株主から不当に利益を搾取するつもりか!」と批判しないでしょうか?

 批判だけですむでしょうか?佐々木ベジ氏もTOB価格を引き上げるという行動に出てくるかもしれません。そうなるとTOB合戦です。最終的にはどちらが上の価格を提示できるかという体力勝負になります。佐々木ベジ氏の資産がどれくらいあるのか見当がつきませんので、どの程度まで価格が引き上げられるのかはわかりません。

 仮に佐々木ベジ氏の資金力が相当あり、経営陣が「これ以上はTOB価格を引き上げられない」と判断した場合どうなるでしょうか?TOB価格を引き上げずに、大幅増配という選択肢もまだ残っています。現在のソレキアの予想配当は50円です。これを、例えば20倍の1,000円に引き上げたらどうなるでしょうか?株価は配当だけで決まるものではありませんが、けっこう高騰する可能性があります。株価が高騰し、TOB価格を上回れば、防衛成功です。ただし、「なぜMBOをしようとしたんだ?」と批判されるリスクはあります。また、TOB合戦になってしまった場合、以前にも申し上げましたが、MBOで対抗するなら価格は一発勝負であるべきです。なぜなら経営陣は会社の内部事情を把握しているのであり、TOB価格の引き上げ合戦になれば「そもそも最初に提示したTOB価格が安かったということか?株主から不当に安く株式を経営陣が買い取ろうとしたということか?」と非難される可能性があるからです。

 「配当を20倍にするなんてあり得るの?」というご指摘があるかもしれません。

 2003年12月、スティールパートナーズがソトーという会社に敵対的TOBを仕掛けました。ソトーはMBOで対抗しましたが、スティールパートナーズはTOB価格を引き上げ、TOB合戦になりました。最終的に、ソトーはTOB価格を引き上げず、増配で対抗しました。ちなみに、従来の予想年間配当金は13円でしたが、それを200円に引き上げました。

 一方、スティールパートナーズはソトー以外にユシロ化学工業という会社にもまったくの同時期に敵対的TOBを仕掛けました。2社同時です。ちなみに、公開買付期間も公開買付価格も同じです。これら2社への敵対的TOBが日本における敵対的TOBの始まりとなったケースですね。ユシロ化学工業は当初から大幅増配で対抗しています。ユシロ化学工業の従来の予想年間配当は11円でしたが、それを200円にしました。

 今回のケースは、佐々木ベジさんがフィナンシャル・バイヤーだったら?という前提です。ストラテジック・バイヤーだったら、増配による対抗は難しいです。

 企業防衛においては、常日頃からどういう準備をしているか、敵対的TOBが起きたときに常日頃の準備に基づいていかに対応していくかが重要になります。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

もちろんアドバイザーに5,000億円支払ったわけじゃないですが、でもかなりの額を支払っていると思いますよ。

続きを読む

AZ-COM丸和ホールディングス(以下、丸和)によるC&Fロジホールディングス(以下、C&F)に対する敵対的TOBですが、現時点における私の見方については以下のコラムでまとめています。

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ