2017年06月23日

No.113 最終回:日本で敵対的買収は成功する~佐々木ベジと皆さんだけは気付いたはず~

 最終回です。ただ、ソレキアの戦いはまだ終わっていませんし、むしろ、6月29日の株主総会がこれから続く長い戦いのスタートになるでしょう。私も久しぶりに株主総会に出席しようと思っています。さて、皆さんはもうお気付きになったと思いますが、日本企業に対して敵対的TOBを実施したら?はい、成功しますね。ソレキアの株主構成を見てみましょう。HPに掲載された2016/9中間期末のデータを基にしています。

 ソレキアの2016/9中間期末の発行済株式総数は1,016,961株です。自己株式が148,934株あるので、それを引いた868,027株を総議決権とします。その他の法人147,465株は通常安定株主としてカウントしますが、佐々木ベジ氏が会長をつとめるフリージア・マクロス保有分43,900株も含まれているので、それを引いた103,565株が安定株主の持分です。それに、ソレキア従業員持株会90,857株、小林義和・小林貞子・水元公仁・小林英之らの保有分105,385株、りそな銀行23,598株を加えた323,405株が外部から見た安定株主の持分です。総議決権で割ると、ソレキアの外部から見た安定株主比率は37.3%と算出されます(※以前のコラムで約42%と算出しましたが、フリージア・マクロス分を法人株主持分から除外しておりませんでした。お詫びして訂正いたします)。貴社と比べてみてどうでしょうか?

 私も、外部から見た安定株主比率が35%を超えているような場合、敵対的にTOBを仕掛けても、おそらく1/3程度しか集めることはできないと考えていました(ちなみに、王子製紙が敵対的TOBを仕掛ける直前の北越製紙の外部から見た安定株主比率はたしか約30%でした。)。ソレキアのケースは私のアドバイザーとしての経験上も非常に勉強になったケースです。「ソレキアくらいの安定株主比率があっても、45%も買えてしまうのか」という点は驚きです。これだと、ほとんどの日本企業は敵対的TOBを仕掛けられたら買われてしまいます。これまでは、友好的なTOBですら応募率は80%~90%程度と言われているから、敵対的TOBだと応募する人も少ないから40%以上集めることは困難だろうと考えていました。しかし、45%も買えてしまったという現実を見ると、どんな会社であっても敵対的TOBを仕掛ければ成功すると言ってしまっても過言ではありません。

 これに気付いたのが佐々木ベジやアクティビストファンドです。一方、日本の事業会社や海外企業はどうでしょうか?私のコラムを読んでいない方々は気付いていないと思います。ちなみに、ソレキアのケースはようやく把握した人もいるかもしれませんが、まだ知らないプロもいると思います。M&Aを専門とする弁護士や証券会社の人間ですら知りませんでしたし、それほど重要視していないと思います。甘いですね。でも知っている人は「佐々木ベジのようにやれば買えるということか?」と気付いてしまったかもしれません。また逆に、皆さんも「あの会社を買うのはムリだと思っていたが、腹さえ括れば買えるということか!」と気付いたということです。

 佐々木ベジ氏によるソレキアへの敵対的TOBの成功は、ほとんどのマスコミが取り上げていないある意味ちっぽけなケースかもしれません。しかし、日本の資本市場を取り巻く環境を一気に変えてしまうだけのパワーを持つケースです。私は長年にわたって企業のディフェンス・オフェンスを見てきましたが、このケースほどわかりやすいケースはありません。

ソレキアのケースを把握した皆さんはどうすべきなのでしょうか?私が「どうすべきか」などと皆さんに言うことではないかもしれません。今は株主総会を控えてお忙しい時期かと思いますが、株主総会が終われば、第1四半期決算の発表まで少しの間一段落するのではないでしょうか。今年の株主総会はソレキア以外にもいろんなケースが出てくることでしょう。リコーの役員賞与の賛成率は51%でした。本日株主総会を開催する川崎汽船の会長・社長の選任議案はどうなってしまうのでしょうか?今後の企業防衛や株主総会運営、株主構成などについて落ち着いて考えるタイミングではないかと思います。また、ディフェンスのことだけではなくオフェンスも、です。「攻めは最大の防御」とも言います。

ここで佐々木ベジさんへのブルームバーグのインタビュー記事の一部を抜粋します。

90年代には米化粧品メーカーのエイボン・プロダクツの日本法人に450億円で買収戦を仕掛けたものの撤退、その後自己破産も経験している。91年に経営難に陥った谷藤機械工業(現フリージア・マクロス)の再生に関わって以降、経営破綻企業を次々と買収し、佐々木氏が現在関与する企業数は55社に及ぶ。

佐々木氏は台湾の投資家と組み、日本での経営陣による自社買収(マネジメント・バイアウト、MBO)を支援するファンドの設立も進めている。台湾では日本企業への関心が高い上、日本の技術をアジアにも広めたいとの考えからだ。立ち上げ時のファンド規模は100億円程度を見込む。大企業の実質的なグループ会社や世襲社長の経営で、リスクテークの意識に欠ける日本企業を変えたいとの思いが強く、今回のソレキア買収は「1つのテストケースとしている面もある。だから、私は勝たなくてはいけない」と語った。

2017年4月25日の記事です。結果、佐々木ベジさんは勝ちました。有言実行ですね。今後は新たなターゲットを探すのでしょう。いや、もうアタマの中でターゲットは決まっているのでしょう。少なくともPBRが1倍を割れている企業は要注意ですし、1倍を超えているから安心しきってよい訳ではありません。1倍を割れる事態も想定されます。そもそも米国と比べて日本株は割安ですし、1倍を超えている状態はある意味当たり前です。買収者がどういう魅力を見出すかによって、1倍を超えていたとしても割安と考えるでしょう。

 日本企業は今のうちからどうしておくべきなのでしょうか?少なくとも「時代に逆行する買収防衛策は廃止」という考え方は、私は間違っていると考えます。買収を防衛するための策ではなく、自社に対して実行される買収提案に対して情報と時間を確保するための仕組み作りは必要です。なぜなら日本企業の経営者は、敵対的買収に対して慣れていないからです。また、日本企業の株主もしかりです。たかだか市場株価に30%のプレミアムをつけた買収提案がなされたからと言って、即座に買収提案に応じてしまうような株主はレベルが低いと言ってしまってよいでしょう。経営者、株主ともに敵対的買収に慣れることから始めないといけません。そのためには、やはり時間と情報を確保するための事前警告型ルールは必須と言えます。

 ソレキアのケースから学ぶべきことは数多くあります。安定株主に胡坐をかいてはいけない、安定株主という他人に依存した企業防衛体制は危ない、経験豊富で信頼できるアドバイザーを雇う必要がある、平時から企業防衛体制を準備しておく必要がある、などなどです。なぜ事前警告型ルールを導入しないのか?この問いに明確に回答できるでしょう

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ