2017年05月26日

No.95 第1話:第一の失敗~安定株主に胡坐をかいて安心していたこと~

 ソレキアへの佐々木ベジ氏のTOBが5月23日に終了しました。TOBの結果、佐々木ベジ氏によるソレキア株式の持分は議決権ベースで32.9%になりました。これにフリージア・マクロスが以前から保有している分を加えると、39.64%になります。約40%の議決権を確保しました。ソレキアは、創業した小林一族の会社ではなく、佐々木ベジ氏の会社になったと言っても過言ではありません。

 ソレキアはなぜこのような事態に陥ってしまったのでしょうか?これはソレキアだけに起きうる問題なのでしょうか?そこでまずはソレキアの株主構成を復習してみたいと思います。2016年3月期末の株主構成と大株主の状況は以下のとおりです。

 ソレキアの外部から見た安定株主比率は何%でしょうか?ここでのポイントは「外部から見た」です。内部で把握している本当の安定株主比率ではなく、外から見たときにどう見えるか?が重要です。いくら見えないところに安定株主がいたとしても、外部から見て低ければ「お!この会社の安定株主比率は低いぞ!買えるかもしれない!」と思われてしまいます。ですので、よく「うちの会社の個人株主は元従業員が多いから、実は安定株主比率はそこそこ高いんだよ」とおっしゃる方がいますが、実は強みにはなりにくいんです。ソレキアの外部から見た安定株主は、法人株主145,500株、従業員持株会88,000株、小林一族・水元氏104,000株、りそな銀行23,000株です。合計は360,500株です、ソレキアの総議決権は847,200株なので、安定株主比率は42.5%です。どうでしょうか?相当高いですよね?以前は発行済みベースで簡易に安定株主比率を計算していたので30数%と算出していましたが、議決権ベースできちんと計算するとかなり高いことがわかります。貴社よりも高いのではないでしょうか。にもかかわらず議決権ベースで約40%も取得されてしまいました。

 おそらくソレキアは「うちは安定株主比率が高いから買収されることなどあり得ない」と考えていたのでしょう。また、実際の安定株主比率は何%なのでしょうか?富士通TOBへの応募株数なども勘案して推測してみましょう。

ソレキアの発行済株式総数

1,016,961株

自己株式

148,700株

単元未満株式

21,061株

完全議決権株式

847,200

富士通保有株式

23,558株

ソレキア経営陣・創業家

108,997株

富士通TOBへの応募株数

357,765株

ソレキアの安定株主(推測)

490,320

 値段の安い富士通TOBに応募した人はすべてソレキアの安定株主と仮定して算出すると490,320株、つまり57.8%がソレキア内部で算出している安定株主と推測できます。相当高いです。ソレキアが、フリージア・マクロスに株式を取得されても特段何の対策も取らなかったのは、「うちは安定株主比率が高い」と考えていたからでしょう。ここがまさに落とし穴だったのです。

 外部から見た安定株主比率と実際の安定株主比率に相当かい離があります。外部から見た安定株主比率をもとに、買収者は買収するかどうかを決断します。佐々木ベジ氏は「42.5%は結構高いけれど、TOBをかければ1/3くらいは集められるだろう」と考えたのでしょう。ソレキアの場合、個人株主比率が相当高いので結構集められると見なすでしょう。

 ソレキアは「うちの会社が買収されることはない」と考えていたのだと思います。そりゃそうです。実際に日本企業を買収するのはしんどいです。何が言いたいかというと、買収するのはしんどいのです。買収とは「過半数を取得する」という意味です。日本企業はある程度の安定株主がいるので、過半数を取得することはかなり厳しいです。ですが、1/3を取得するのはそんなに難しいことではありません。現に実際の安定株主比率が50%以上もあるソレキアの総議決権の40%近くも佐々木ベジ氏は取得したのですから。

 過半数を取られた訳ではないのだからあわてなくてもよい、と割り切ることも可能です。しかし、40%も取られてしまったらどうでしょうか?貴社ならどう考えますか?「過半数取られた訳じゃないから大丈夫」と割り切れますか?難しいでしょう。怖いですよ。特別決議の必要な議案に対する拒否権は握られた訳ですから。それにソレキアはTOB合戦の最中に散々佐々木ベジ氏をけなしましたから、「40%も取られてしまった。これから何をされるんだろうか?」と普通の人なら不安になります。

 何よりも安定株主比率が高い会社は「いざ有事になったら?」ということを勉強していないと思います。勉強する機会を提供されないと言ってもよいと思います。例えば証券会社の担当者が「CFOの●●さん、今度、敵対的買収に関する勉強会を貴社にご提供しようと思っているのですが、いかがでしょうか?」と言ってきたとしても、おそらくCFOの●●さんは「いいよ、うちの会社はあまり敵対的買収とかに興味ないんだよねえ。だって創業家も健在だし、安定株主比率も高いし。」と断ります。ここで勉強する機会を失いました。この証券会社の担当者は二度と勉強会の開催を提案しないでしょう。ソレキアの証券会社担当者が勉強会の開催を提案していたかどうかはわかりませんが・・・

 安定株主対策や敵対的買収対策などは、基本的にCFOの担当であるとは思いますが、当然、CEOだって勉強はしておくべきです。「ワシは事業部の出身だから、そういう話はCFOにまかせておる」という考えのCEOもいらっしゃるでしょうが、敵対的買収や安定株主の話は少しだけでも勉強しておく方がよいと思います。何も「敵対的TOB防衛マニュアル」などの書籍を読むべきだと申し上げている訳ではありません。年に何度かは専門家の話を聞いておくべきだと思います。TOBルールなどを勉強する必要はありません。そんなのは専門家が知っておけばよい話です。例えばソレキアのケースを説明させ「うちの会社に同じことが起きたらどうするか?」を考え、専門家とディスカッションしておく必要があるということです。その答えが「うちのCFOとこの専門家にまかせておけば大丈夫」でも構わないのです。大切なことは「うちの有事の体制にぬかりはない」と確認することです。「●●証券が主幹事だから大丈夫だろ?」ではありません。貴社を守ってくれるのは「●●証券」という看板ではありません。●●証券の専門家がきちんと役に立つ人材なのかどうかを確認する必要があります。有事は看板では守れません。

 ソレキアの第一の失敗は安定株主比率が高いから安心していたことにあります。だから勉強しなかったのでしょう。貴社の安定株主比率はいかがですか?ソレキアよりも低い会社が多いのではないでしょうか。安定株主比率だけを見ても、ソレキアのケースが「他人事ではない」ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

 本日は最後に一つ宣伝を。10年前に敵対的買収が日本で起き、買収防衛策を導入する企業が急増しましたが、最近では買収防衛策を廃止する企業が増えています。おそらく相談を受けた証券会社がまともなアドバイスをしていないのだろうと私は考えています。また、ソレキアの佐々木ベジ氏への対応を見ても、結局は大失敗に終わりました。少なくともソレキアの主幹事には経験がありません。

大手証券会社に敵対的買収の対応に関する経験を有している人はいないと思っておいた方がよいです(笑)

 

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