2018年07月23日

No.387 金庫株の活用は?と聞かれたら・・・

堂々と「ないです」と答えてみてはいかがでしょうか?正確には「将来的にM&Aや資金調達をする場合に、金庫株があれば使います」ですかね。2018年7月6日(金)の日経15面に「企業の1割「自社が筆頭」 償却やM&A活用少なく」という記事がありました。https://www.nikkei.com/article/DGKKZO32591850U8A700C1DTA000/

金庫株の活用は?という質問を決算説明会などでしてくるアナリストは少なくなっているとは思いますが、もし、皆さんが質問された場合、どう回答していらっしゃるでしょうか?おそらく「将来的なM&Aへの活用などを含めて中長期的な観点から使途を検討している」などと回答していないでしょうか?

 そろそろ止めませんか?上場企業のCFOや経理財務に属する方々からすれば、「金庫株の活用と言われても、自己株取得した時点で終わっている話だし、自己株取得の結果として金庫株が表示されているにすぎないし」ではないでしょうか?金庫株の活用=M&Aの対価、処分による資金調達が主な使途でしょう。当コラムで何度か指摘していると思いますが、金庫株の活用を考えることはM&Aという経営戦略を考えることと資金調達という財務戦略を考えることです。「金庫株の活用は?」などと質問するアナリストや記者がいたら、「それって当社の経営戦略と財務戦略を答えろと質問していますか?であれば、当社の中期経営計画をご覧ください。現時点で言えることはそれまでです。そこからさらに踏み込んだM&A戦略と資金調達計画についてはお答えできません」と答えてみてはどうでしょうか?そして「皆さん、金庫株の活用について質問されますけど、答えようがないでしょう?だって自社株買いの結果が金庫株として計上されているだけですから。消却しようがしまいが同じですよ。ちなみに、皆さん金庫株の再放出について気にされているようですが、再放出するには新株発行と同じ手続きが必要ですからね。まさかとは思いますが、保有する金庫株を当社が市場で売却できるとか思っていませんよね?」と加えてみましょう。意外と「市場で自社株買いしたのだから、金庫株を市場で売却できる」と思っているアナリストや記者がいるかもしれません。

 この記事にはいくつかおもしろいことが書いてあります。NTTドコモやKDDIなどは、発行済み株式に占める金庫株の比率が5%を超えた分を消却するルールを定める」 これって、単に5%を超えて大量保有報告書を出すのが面倒くさいからじゃないでしょうか?その程度の意味しかないと思います。また「ゴールドマン・サックス証券の鈴木広美ストラテジストは「現預金などの手元資金と同様、有効な使い道がないのであれば消却して株主に還元すべきだ」と指摘している」とあります。私、この方のおっしゃっている意味がまったく理解できないのです。まず「有効な使い道」ですが、言わずもがなです。金庫株の使途は大きくM&Aの対価か処分による資金調達です。そのような使途がない上場企業などありません。M&Aとエクイティ調達を絶対にしないと決めている変わった上場企業があれば別ですが・・・。そして「消却して株主に還元すべきだ」・・・これ理解不能です。もしこの意見に深い意味があるのであれば教えていただきたい。自社株買いをした時点で株主還元は終了です。消却までが還元だという意見、考え方はおかしいです。確かに、消却すれば株価が上がることはあります。でも、よくよく見ていると、けっこうすぐに下がったりしていません?だって効果がないですもん。本来、自社株買いをした時点で、EPSなどの指標が修正されるべきなのでしょうが、情報ベンダー各社はあまり修正していないようです。まあ、アナリストであればEPSを修正して業績予想や目標株価などを変更すべきでしょう。

 そして「経済産業省によると、1998年~2016年に買収目的のTOBで対価に自社株を活用した割合は米国で5割を超え英国は8割を占めたが、国内はゼロだった」です。いやいやいやいや。これヒドイでしょ?そもそも株式を対価としたTOBは日本でもできますが、税制が手当てされておらず、現在、税制改正が決まった状況です。そのように税制が手当てされていない状況で株式対価のTOBを実施する日本企業などいないでしょうし、税制が手当てされていない日本と手当てされている欧米を比較するのはナンセンスです。

 金庫株に関する質問があったら、いかにその質問者が仕組みを理解していないか徹底的に追求したほうがよいと思います。「金庫株の処分は、会社法上、新株発行と同様の手続きが必要であるということを理解したうえでのご質問でしょうか?」と。

 

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