2017年03月07日

No.65 日本株、「金庫株」ズシリ など2コラム

■日本株、「金庫株」ズシリ

 本気で言っているのか、あおるために言っているのかわかりませんが、いまだに日経は金庫株の売出しリスクに言及しています。

 ご存知の方にとっては「当たり前」の話ですが、金庫株はいつでも簡単に売却できるものではありません。金庫株の処分は新株発行と同様の手続きが必要です。なお、記事で指摘している三井住友フィナンシャルグループの自己株式の売出しですが、これは、傘下の三井住友銀行が保有する親会社である三井住友フィナンシャルループ株式の売出しです。また、記事中にあるタカラトミーの自己株式の売出しは、タカラトミー自身が保有する自己株式の処分です。タカラトミーのほうはいわゆる公募増資と同じです。ですから、タカラトミーはプレスで資金調達の背景・目的を説明しています。

 記事は、三井住友とタカラトミーを同列のように扱っている印象を持ってしまいそうですが、正確には2社は異なる行為をしていると思います。

 記事では、「金庫株の保有が多い企業に対しては必ず使い道を聞く。成長につながらないとみれば投資を見送ることもある」と言っている投資家がいます。こういう法律がわかっていない投資家にはどうぞ投資を見送っていただきましょう。法律・制度を理解していない投資家に株式を持ってもらっても、相互に理解しあえません。これからは、投資家に自社を選んでもらうのではなく、自社が投資家を選ぶ時代です。

 金庫株の議論については、永久に理解しあえないのかもしれません。投資家・マスコミが必ず「金庫株がたくさんあるけど、どう使うんだ?」と聞いてくるからです。そこで皆さんが「金庫株の処分とは新株発行手続きを踏まなくてはならないから、皆さんが考えているような簡単な手続きではないですよ」と正論を主張しても、聞く耳を持たない投資家・マスコミもいるでしょう。

 本日の日経20面の記事は、「まだこんなこと言ってるのかよ」という程度の記事であり、「金庫株を消却して身軽になることが、日本株一段高の条件となる」と結んでいますが、「何言ってんだ?」です。まあ、消却すれば株価は一時的には上がるので、間違いとは言い切れませんが・・・なお、日東紡の株価上昇要因を金庫株の消却のみであるような記述をしていますが、日東紡は消却を公表した同日に自己株式の取得と増配、業績予想の上方修正(減収増益)も公表しています。日経の書き方はいただけません。消却という事実のみで日東紡の株価が上がった訳ではないのですから。

 金庫株議論ははっきり言って不毛です。いっそのこと自己株取得をしたら即消却してしまえばよいとも考えます。しかし、投資家との間で信頼関係を構築するには、きちんと議論することも必要です。堂々と正論を述べる。金庫株の使途は?と聞かれたら、「ないよ。なんで使徒が必要なの?株主還元として自己株取得をした段階で終了ですよ。単に金庫株として表示はされていますが・・・何か問題でも?」と。どうせいつか金庫株の売り出しをするんだろ!と言われたら、「自己株取得をした直後に金庫株の処分なんて、そんな整合性のつかない資本政策をするはずないでしょ!そりゃエクイティ性の資金が必要になったらするかもしれませんが、そういうときはきちんと資金使途を説明するにきまってるでしょ?あなた法律・制度をきちんと理解して質問してますか?」と聞き返してみましょう。  

ちゃんと制度・法律を理解している投資家であれば「そんなことはわかっている。でも貴社はいつか金庫株を放出しようと心の底では考えているでしょ?」と聞いてくるかもしれません。投資家が金庫株の使途を説明しろと言っているのは、実は「日本企業は安易にエクイティ調達をしていないか?資金使途の説明を読んでも具体性が欠けている。日本企業は簡単にエクイティ調達をし過ぎである」と考えているからかもしれません。

こういう対話ができれば、金庫株に関する議論が不毛ではなくなります。機関投資家が問題視しているのが、金庫株の活用ではなく安易なエクイティ調達姿勢であることがわかったからです。ここから企業と投資家がきちんと議論できるようになります。「あなたが問題視しているのは、安易なエクイティ調達ということですね。なるほど。当社は安易なエクイティ調達などしませんよ。うちの財務や投資スタンスから考えて、当面、コストの高いエクイティ調達をすることは考えていませんから。ただし、大型のM&Aや投資が発生する可能性がゼロとは言い切れませんから、絶対にエクイティ調達をしないと明言はできません。そこはご理解ください」と説明すれば、投資家も「なるほど。エクイティ調達のコストをちゃんとわかっている会社なんだな」と理解してくれるのではないでしょうか?

 なお、金庫株については証券会社などの金融機関にも問題・責任があると私は思っています。金融機関の担当者が「社長!金庫株の有効活用を考えましょう!」などと言っているからです。そんなもん、ありません。金庫株の活用とは、新株発行・M&Aでの利用です。つまり、財務戦略と経営戦略を考えましょう、と言っています。当たり前のことです。あまりにも金庫株の有効活用と言われるから、「何か考えなくては」と思ってしまった企業もいらっしゃるのではないかと思います。

■有事に備えて

 実際に買収提案がなされた場合、どういうアドバイザーが必要でしょうか?簡単に想像できるのは、弁護士・フィナンシャルアドバイザーなどでしょう。これら2者は必要不可欠であると思います。ソレキアの留保の意見表明を見ると、弁護士を雇ってはいるようですが、フィナンシャルアドバイザーを雇っているとは公表していません。いるかもしれませんが、現時点では公表していないだけなのでしょうか?TOB価格が高いか安いかを議論する場合、フィナンシャルアドバイザーは不可欠です。ソレキアがどういう専門家を雇っているのかはいずれわかるのでしょう。

なお、これら以外にも状況次第では必要になってくるアドバイザーがいます。例えば、メディアアドバイザーや調査会社などです。具体的な社名の紹介は控えますが、何社か一緒に仕事をしたことがあります。

 メディアアドバイザーは、名前のとおり、メディア対応に関するアドバイスをする会社です。記者会見に備えてマスコミ対応に関するアドバイスをしたり、実際にマスコミに記者会見に来てもらうようセッティングをしたりしてくれます。こういう風に書くと「なるほど。マスコミに流す情報やマスコミの論調をコントロールしてくれるのか!」と過度な期待をする方がいらっしゃいます。私も当初「どんなアドバイスをするんだろう?」と期待していましたが、あまり期待すると「え?こんなもんなの?」とがっかりしてしまうことがあります。マスコミを操り、会社にとってプラスな報道をしてもらうような戦略を実行するようなことはあまりありません(少なくとも私はそういうメディアアドバイザーに出会ったことはありません)。毎日の新聞報道をまとめる(と言っても記事のクリッピング程度)程度の会社もあります。広報部がしっかりと機能していらっしゃる会社の場合は雇う必要がないこともあります。ただし、広報機能自体をIR部が兼ねていたりする場合、有事は忙しいのでこういったメディアドバイザーを雇ったほうがよい場合もあります。

 調査会社とは、これも名前のとおり調査してくれる会社です。探偵みたいなもんでしょうか。違法な情報収集などをする会社ではありません。買収者のネガティブな情報を収集して、ネガティブキャンペーンに活用することを目的に調査してもらいます。けっこうな金額がかかりますが、私の経験上は、週刊誌で見たことのある情報程度しか収集していませんでした。雇ってもよいですが、これも過度な期待をすると「あれ?この程度の情報?」となってしまいます。

 これらのアドバイザーを平時から声をかける必要はありません。有事になったら売込みにきますので、フィナンシャルアドバイザーとともに面談します。1日に複数社面談し「ここにしとくか」といった感じで決めてしまいます。

 

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