2017年05月12日

No.88 買収防衛策を廃止した会社はもし佐々木ベジが株主にいたとしても廃止したか? など2コラム

■買収提案を頑なに拒否し続けると~アクゾ・ノーベルのケース~

 株主に訴えられるかもしれません。2017年5月11日の日経7面に「オランダの塗料大手会長 米ファンドが解任模索 買収提案拒否に反発」という記事がありました。

記事は、

「物言う株主」として知られる米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントは9日、同社が主要株主であるオランダの塗料大手アクゾ・ノーベルの会長の去就を問う臨時株主総会の招集を命じるよう蘭裁判所に嘆願書を提出した。同業2位の米PPGインダストリーズから受けた買収提案に対し、建設的な話し合いなしに拒否を続けていることが「企業統治義務の遂行」に反すると主張している。アクゾは今年3月、PPGから買収提案を持ちかけられたが拒否。その後、PPGが2度にわたり条件を見直したが拒否を続けている。直近の提示額は負債の引き受けを含め269億ユーロ(約3兆3000億円)で、欧州での雇用維持や統合が当局の承認を得られなかった際の違約金など、アクゾ側が示した懸念への対応も盛り込んでいた。エリオットと他のアクゾ主要株主は、これまでアクゾ経営陣にPPGと交渉の席につくよう求めてきた。だが、PPGが8日公表した文書によると、アクゾのアントニー・ブルグマンズ会長らが4日、直近の買収提案についてPPG経営陣と会見した際、いきなり「我々には交渉する意思も権限もない」と明言したという。エリオットは「アクゾ・ノーベル(の経営陣)はPPGとの建設的な話し合いを強く支持する株主の意思を意図的に無視している」と法廷への嘆願に踏み切った。欧米メディアの報道によると、オランダの法律では、一定数の所有比率を満たす株主は、裁判所に対して企業に株主総会の開催を命じるよう求められる。

という内容です。建設的な話し合いをしないと、当然ですが株主は怒ります。怒るだけならいいのですが、最悪、訴えられます。この記事を読むと「ソレキアの対応って本当に大丈夫かいな?」と思ってしまいます。「佐々木ベジがイヤだから値段は安いけど富士通のTOBに応募してください」と経営陣は主張しています。細かい話をすれば、佐々木ベジさんのTOBは上限が付いているのでまだとおる主張ではありますが、ただあまりに感情的な主張も見受けられます。敵対的TOBが実施された際に、あまり感情的な対応をしないほうがよいのは、こういう風に株主から訴えられてしまうリスクもあるからです。

 ソレキアの場合、外国人株主がほとんどいませんから訴えられることはありませんでしたが、皆さんの株主構成はどうなっていますか?株主の意向を無視し続けると、こういうことが起きてしまう可能性があります。

 以前から申し上げているとおり、買収防衛策も使いようによっては危険な場合があります。まともな提案に対してやり過ぎるとこういうリスクが待っているということです。ですので、買収防衛策を導入しただけでは不十分であり、普段から使い方をよく研究しておく必要があります。避難訓練が一番重要です。ちなみにエリオット・マネジメントとはこういう投資家です。他にも検索するといろいろな記事があります。(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-10-06/OELM0W6S972G01

■買収防衛策を廃止した会社はもし佐々木ベジが株主にいたとしても廃止したか?

 ぜーーーーったいに廃止しないでしょう。佐々木ベジをエフィッシモに置き換えても同じです。

なぜでしょうか?敵対的TOBを実施する可能性や経営に重大な影響を与えるレベルの株式を買い増す可能性のある人たちが株主になっている状態で、買収防衛策を廃止するはずがありません。会社が主幹事証券などに対して「世の中は廃止する流れだけど、うちはどうしたらいいかな?」と相談した時に、主幹事証券が「佐々木ベジやエフィッシモが株主にいますけど大丈夫でしょう。世の中の動きにならって廃止しましょう」なんてアドバイスするはずがありません。会社も廃止しようなどと考えないでしょう。

ではなぜ廃止する企業が増えているのでしょうか?理由は簡単です。今現在、佐々木ベジやエフィッシモが株主にいないからです。また、佐々木ベジが実施した敵対的TOBのケースを知らないから、エフィッシモの動きをおさえていないからです。佐々木ベジが敵対的TOBを実施したり、エフィッシモが買収防衛策を廃止した川崎汽船の株式を約38%も買い増したりしている中で、これらのケースを知っていたら廃止するはずがありません。

 廃止している企業が増えている中で、新規導入している企業もあります。レコフM&Aデータベースの調査によると、2016年5月以降、エスケー化研、大井電気、マルシェ、インターアクション、ファースト住建の5社が新規に導入したそうです。まだ調べていませんが、何かあったのでしょう。例えば誰かに株式を買われたか、安定株主が売ったか・・・何か経営権に影響をおよぼすようなイベントがあると、だいたい買収防衛策を導入します。これらの会社はまだよいのです。「何かあるかもしれないから買収防衛策を導入しておこう」と新たに導入できた会社だからです。廃止してしまった会社はしんどいです。明日佐々木ベジが大量保有報告書を提出したら?「え゛・・・買収防衛策、入れられない」となってしまいます。

 約10年前、日本のほとんどの会社が「うちの会社は買収防衛策を導入しなくてよいのか?」と検討していました。「敵対的TOB防衛マニュアルを整備しておこう!」と証券会社や信託銀行と契約しました。10年経って「もう廃止してもいいんじゃないか?」と検討しています。なぜか?

コーポレートガバナンスコードでしょう。でも、コーポレートガバナンスと買収防衛策は関係があるようで実はあまり関係がありません。日本の買収防衛策は実は買収を防衛するための手段にはなりませんので、経営者の規律がゆるむことなど本来は考えられません。いわゆる有識者の方々が「買収防衛策があると経営者の規律が緩む!」と言っているだけですので。その方々は買収防衛策がどう機能するのか、買収防衛策をどうやって使えばよいのかを知りません。ましてや買収防衛策の発動に関与したことなどないはずです。簡単に言うと、買収防衛策を知らない人たちです。設計したこともなければ、運用したこともないのですから。むしろ買収防衛策を導入している会社のほうが、コーポレートガバナンスに対する問題意識を強く持っています。

買収防衛策導入にはISSや機関投資家が反対しますから、どうしても「社外取締役を増やした方がよいのではないか?」「中期経営計画ではROEの目標値を公表したほうがよいのではないか?」と株主の立場で議論します。買収防衛策の検討はコーポレートガバナンスの議論・充実に繋がっています。

 これから新しい買収防衛策を作ろうと思います。基本的な仕組みは今ある買収防衛策と同じですが、外国人株主比率が高い会社であっても導入しやすい仕組み、公表方法を考えます。「この仕組みならむしろ導入してもらった方がありがたい」と外国人株主に理解してもらえるものを作ろうと思います。買収防衛策を廃止した会社もあらためて導入できるものにします。最近、買収防衛策を廃止する会社が増えていることに対してやや不安を感じています。本当に日本の会社が今買収防衛策を廃止することにメリットがあると考えているとしたら、大きな間違いですし、日本の会社がアクティビストファンドに翻弄されるのは見ていて楽しいものではありません。また、買収防衛策を廃止してしまった会社はコーポレートガバナンスコードに振り回された気がします。

 まともな買収提案であれば対象となった会社は真摯に検討し、場合によっては受け入れなくてはなりません。しかし、日本で起きた敵対的TOBでまともなものがあったでしょうか?ほとんどありません。「本当は買う気がないですよね?」「ホワイトナイトが出てきたら売り抜けるつもりでTOBを仕掛けていますよね?」という提案がほとんどだと思います。更に言うと「総会屋が看板変えただけですよね?」という買収者だっていると思います(誰か特定の方を想定している訳ではありません)。

まともじゃない買収提案に対していかに対応するか?本格的な敵対的TOBが起きるまでは、まともではない提案が起きます。きちんとした防衛体制を構築すべきと考えます。特に株価が一時的に下がってしまった場合など、まともじゃない買収者に目をつけられてしまいます。

 

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最近、国内外の機関投資家は買収防衛策に反対する傾向が強いです。ただ、私は買収防衛策には基本的に賛成したほうがよいと考えています。

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