2022年10月13日

No.1408 京セラ稲盛さんの記事~会社は株主のものか?~

京セラの稲盛さんの記事です。2015年11月5日の記事なので、かなり古いですが。

京セラ稲盛氏:社員を路頭に迷わせるな、わがままな株主にはNOを

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2015-11-05/--igljs7ve

これ、以前私は以下の記事でも書きましたが、株主が過度な還元を要求する場合、経営者は毅然とした態度で対応する必要があると申し上げました。

https://ib-consulting.jp/newspaper/4504/

ただ、この記事ではオアシスのセス・フィッシャーさんのコメントも掲載されています。

オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者(CIO)は、ブルームバーグの取材に対し「われわれは株主であって『わがままな』株主ではない」とし、「経営陣が株主から会社を守る義務があるという考え方は、まさしくアベノミクスで変えようとしている行動原理だ」と稲盛氏の考え方に不快感を示した。

そうなんですよ。私も「一部の強欲な株主には毅然とした態度で接するべき」と申し上げていますが、普通の株主にまで「わがまま言うな!」という態度で接しろとは申し上げていません。株主は重要なステークホルダーです。適切な還元をすべきです。私は「経営者はあらゆるステークホルダーを公平に扱い、適切な利益配分をすべき役割をになっている」と考えています。株主に対する配分はもちろん重要である一方、従業員などに対する配分も重要です。ですから、セントラル硝子のように500億円もの株主還元をいっきにすべきではないとも考えています。

会社は誰のものなのか?私が尊敬する方は以下です。

会社はだれのものか 岩井克人著

岩井先生が以下のようにわかりやすく説明してらっしゃいます。

http://www.asahi.com/shimbun/sympo/091023/speech02.html

私は「そもそも会社はものではないから、所有者の議論をしても無意味ではないか。会社の構成要員は株主、役員、従業員、取引先、金融機関、地域社会、国などなど。ステークホルダーそれぞれが貢献をして成り立っているのが会社。一部のステークホルダーのものではない」という立場です。

会社は株主のものであるという立場の方は、株主が役員の選解任権を持っていたり、解散権を持っていたりするからそうおっしゃっているのかもしれません。でもこれおかしいんです。株主は確かに役員の選解任権を持っていますが、では、ある優秀な役員・経営者が「私、もう疲れたから役員をやめます」と言ってきた場合、株主が「まかりならん。会社は株主のものだ。会社の一部である役員も株主のものだ。だからやめることは認めない。株主のためにもっと働け!」って言ったら、通じます?通じませんよね?

では解散権は?株主が「もうこの会社はなくなってしまってよい。解散じゃ!」と言ってきたら?役員が「ダメー!役員も従業員も困るから解散はダメー!」って言ったら、通じます?通じません。なぜなら株主が会社を解散しようと考えるのは「この会社、もう儲からん」と考えたときだからです。ですからさきほどの役員の話でも、優秀な役員であれば「やめないでくれ」と株主は言うでしょうが、優秀ではない役員だったら?「どうぞやめてください」となります。

つまり何が言いたいかというと、「株価がPBR1倍を割っている会社は、会社は株主のものであると言われても仕方がない」ということです。PBR1倍を割っている会社の株を100%買い、清算してしまえば、理論的には株主が儲かります(話はそう単純ではないことは理解しています)。株価がPBR1倍を割っている状態にしてしまうということは、会社を「切り売り可能なモノ」と見なされてしまうということです。PBR6倍を超えているユニクロはモノではありません。100%買って解散したって損するだけですから、株主が解散しようなどと言うはずがありません。成長する会社はモノとは見なされないのです。生き物だからですよ。

昔、あるお客様が「うちもけっこう現金を持っている会社。でもなぜ手元現預金が必要かを投資家に対して時間をかけて説明した。リーマンショックもあり、投資家はようやく納得してくれた。投資家と対話することが大切だ」というお話をしてくださいました。正しいです。しかし皆さん、この話を聞いて「よし。ちゃんと説明すればわかってくれるんだな!」などと安易に捉えてはいけませんよ。この会社は単に手元現預金を積み増しているのではありません。業績はめちゃくちゃいいし、収益性も段違いに高く、株価は絶好調です。やるべきことをやっているから投資家が納得してくれるんですよ。PBR1倍割れの会社がいくら説明しても「必要なことはわかったから、株価にちゃんと反映してくれよ」となります。

従業員を守るため、会社を中長期的に存続させていくためには手元現預金を積み増しておきたいでしょう。私も小さいながらも会社の経営者ですので、気持ちはわかります。でもそれって「会社や従業員のために、株主はガマンしてくれ」って言っているのと同義なんですよ。会社を存続させることは株主も大切だと思っているはずです。でもだからと言って、いつまでも低株価、低株主還元のままガマンしろと言われても、そりゃ通じませんよ。

従業員に強いているムリを株主にまで強要して通じるわけがありません。従業員は経営者に文句を言いませんが、株主は文句を言います。株価がPBR1倍を割ってしまっている会社は、株主に「会社は株主のものだ」と言われても仕方がないのです。きつい言い方をしますが、バリュー投資家・アクティビスト投資家は割安株をモノと見なして投資しているんです。だって会社の資産価値より株価が安いんですから、割安な投資物件ですよ。

会社を物件と見なされたくないなら、せめてPBR1倍割れを回避しなくてはなりません。

ちなみに稲盛さんが以下のように「株主より従業員が一番だ」とおっしゃるのには理由があります。

稲盛氏が創業した京セラの社是は、会社経営の目的を「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことだとうたっている。会社法では株主が会社の所有者だと規定されているが、稲盛氏は「株主より従業員が一番だ」と断言する。「社員を大事にし、喜んで働いてくれれば会社の業績は上がる。それは株主にとってもいいことで、決して利害が対立することではない」と考えるからだ。

そりゃ稲盛さんは「株主が一番だ」とは言えないんですよ。なぜなら稲盛さんは京セラの創業者、オーナー経営者だからです。株主=稲盛さんであり、株主が一番=オレが一番、と言っていることになってしまいます。そりゃいくらなんでも言えませんよ(笑) 以下のように言い換えたらわかりやすいですよ。

稲盛氏は「ワシより従業員が一番だ」と断言する。「社員を大事にし、喜んで働いてくれればワシの会社の業績は上がる。それはワシにとっていいことで、決して利害が対立することではない」と考えるからだ。

ところで「会社法では株主が会社の所有者と規定されている」って書いてありますけど、会社法の何条に書いてあるんでしたっけ?どなたか教えてください。

 

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