2020年12月18日

No.976 (無料公開)アクティビストは必要悪?

日経ビジネスに以下の記事が掲載されています。今日は別のコラムにしようと思っていたのですが、急遽、この記事を取り上げます。たくさんの方に見ていただきたいし、ご意見をいただきたいので無料公開します。

アクティビストは「必要悪」 企業経営に改善の余地

私はアクティビストを必要悪ではなく、悪だと思っています。なぜ必要悪ではなく悪と考えるのか理由を説明します。

日本企業の経営が完璧であればアクティビストはいらない。しかしガバナンス、経営戦略で不十分な会社が少なくない。株価純資産倍率(PBR)も解散価値である1倍を割っている会社が多く、資産効率が悪く、設備投資や賃上げ、株主還元にも及び腰な企業が少なくない。物言う株主の介入によってそうした企業の経営が活性化するならば、その存在は「必要悪」ではないか。日本の株式市場を良くするためにもアクティビストは役立つ。これが筆者の見方だ。

企業経営が完璧であることはあり得ないし、ステークホルダーによって企業経営の見え方は違います。株主にとってはマイナスにみえる経営であっても、従業員や取引先から見れば完璧と見えることもあります。株主還元を削減しまくって従業員の給料を上げたり、取引先への支払額を上げたりすれば、株主以外のステークホルダーにとって経営は完璧でしょう。ここで書かれている視点はあくまで株主の視点です。経営者は株式市場を良くするためだけに経営しているわけではありません。経営者の仕事はステークホルダーの利害関係を調整し、適切な利益配分をすることです。会社にさまざまなステークホルダーが存在する以上、完璧な経営というのは絵空事です。

ただアクティビストが増えているとはいえ、依然として日本企業は外部の株主発の改革案をすんなり受け入れることには抵抗感がある。かつてサイレント株主と批判された国内機関投資家の賛成を取り付けられないケースもまだ多い。またアクティビストによる株主提案の中には極端な増配や自社株買いを求めるなど、これは絶対通らないという無理筋の提案もあり、玉石混交なのは否めない。提案数は増加傾向だが総会で可決したものはほとんどないのが現状だ。

日本企業は「外部の案だから」「株主発の案だから」という理由で改革案を受け入れることに抵抗感があるのではなく、素人の発想でとてもじゃないけど受け入れられるレベルの改革案ではないと考えているのではないでしょうか?極端な増配や自社株買いについては、財務レバレッジの考え方の相違ですから経営者は「考え方の相違」で片づけられるし、株主の意見として耳を傾けるでしょうし、傾けるべきです。なぜなら極端ではあっても株主は自分たちの取り分についての意見を言っているのですから。しかし本業に関する改革案となると「いや、それは筋違いな提案だよ。そんな改革案は現実的ではないよ」と考えるし、内容次第では耳すら傾けないでしょう。時間がもったいないですから。ま、言うは易く行うは難し、です。

著名投資家ダニエル・ローブ氏率いる米国大手アクティビストのサード・ポイントは、1月に投資家向け書簡の中でソニーに対して半導体部門のスピンオフ、金融子会社など上場株の保有見直しを要求した。ソニーは拒否したが、ソニー株が高値を付けた際に一部を売却したとみられる。

サード・ポイントとソニーの因縁は深い。13年にソニー株を保有していると公表し、映画などのエンターテインメント事業を分離して株式上場するよう要求した。この際、ソニーは要求を拒否し、サード・ポイントはソニー株をいったん売却。19年にサード・ポイントはソニー株に再投資し、「ストロンガー・ソニー」なる専用ウェブサイトを開いて、書簡を公開した。
サード・ポイントはソニーに対して半導体部門のスピンオフ、金融子会社など上場株の保有見直しを要求指定ましたが、ソニーは拒否しました。ソニーは逆にソニーフィナンシャルを完全子会社化しましたよね。でもサード・ポイントは「ソニー株が高値を付けた際に一部を売却」したのです。結局、サード・ポイントは自身の要求する案がソニーに受け入れられなくても、株価が上昇し高値を付けたらソニー株を売却したのです。こう書くと、サード・ポイントは要求が受け入れられないからあきらめて売却したんだ!とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、だとしたら何度も何度もソニーをターゲットにして株を買わないでしょ?

自身の要求する経営改革案というのは、何のための改革案なのでしょうか?株価のためですよね?株価が上がれば彼らは要求する改革案を会社が実行しようがしまいが、どうでもいいのですよ。彼らは会社の中長期的な成長を願って会社にモノを言っているのではありません。株価なのです。株価だけなのです。対して経営者は違います。もちろん株価のことも意識しなくてはなりませんが、経営者はさまざまなステークホルダーの利益を最大化するためにいろいろな経営戦略、財務戦略を考える必要があるのです。サード・ポイントの言うことをやれば即座に株価は上がるかもしれないが、研究開発力は弱まるし、成長力も弱まる、従業員も養えなくなる、長い目で見たら短期的な株価効果しかなく、そんなことをやったら会社がつぶれてしまう。株価のことしか考えないアクティビストとは違うのです。

これが私が「アクティビストは必要悪ではなく悪」と考える理由です。株価を上げるためだけに、やれ●●事業を売却しろだの、やれリストラしろだの、会社の中長期的な成長を考えていません。そしてもう1つ。この記事の冒頭部分で「物言う株主の介入によってそうした企業の経営が活性化するならば、その存在は「必要悪」ではないか。日本の株式市場を良くするためにもアクティビストは役立つ。」とあります。アクティビストの介入によって経営が活性化するとか経営者が緊張感をもって経営するとか指摘する方がいらっしゃいますが、本当にそうなのか?と思います。

アクティビストから現経営陣を否決させるためのプロキシーファイトがなされたり、解任の株主提案がなされたりすることがあります。これをされた経営者はどう思うのでしょうか?例えばですが、皆さんが仕事をしているとき上司から「なんだお前の作った資料は!なんでオレの言うとおりにやらないんだ!そんな仕事をしているようならクビだ!」って言われたらどうでしょうかね?こんなことを上司に言われた皆さんは「職場が活性化していいなあ!」「緊張感を持って業務にあたることができるぞ!」って思うでしょうか?絶対に思わないはずです。アクティビストのこのような解任提案を私は「パワハラ」と認識しています(笑) 

なお私は株主がモノ言うことを否定しているわけではありません。株主はモノを言うべきです。しかし言い方には気を付ける必要があります。経営陣は株主の皆さんのためにもがんばってくれています。必要なら株主提案もすべきでしょうが、解任の提案はいただけませんねえ。せめて株主還元に関する提案にすべきでは?自身の取り分を増やしてくれと提案するのはまっとうな行為です。従業員だって自分自身の査定に関して交渉することだってあるでしょ?取引先だって「取引価格を上げてください」と交渉するでしょ?株主だって自分の取り分を上げてくれと経営陣に交渉するのは当たり前です。しかし、だからと言って「オレの言うことを聞けないのなら解任の株主提案するぞ!」って言ったらパワハラですよ(笑) まあ度を超えて株主利益を軽視する経営者なら解任提案してもよいとは思いますが。従業員だって度を超えた対応をされたらストライキしますからね。

ま、この記事の言いたいこともよくわかるのですが、性格上、反対のことを言わないと気がすまないもので・・・。すみません。

普通の機関投資家こそ経営陣にたくさんモノを言えばよいと思います。そういうまともな機関投資家は「解任じゃ!」とか言わない上品な方々ですから。経営陣と株主はけっして敵対するのではなく、仲良くやっていきましょう!そっちのほうが健全です。

経営陣を疲弊させ本業に集中させないようなことをするアクティビストなんて百害あって一利なしです。

 

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