2023年09月25日

No.1606 TAKISAWAの経営判断について

先日、ニデックの敵対的TOB提案に対して賛同を表明したTAKISAWAの社長が以下の通り日経の取材に答えています。おもしろいのでコラムにします。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC226VU0S3A920C2000000/

TAKISAWA(旧滝沢鉄工所)の原田一八社長は「買収を阻止しても先はなかった」と受け入れの理由を語った。「上場している以上、買収対象になるのは仕方がない」とし、「経済産業省の指針に沿って対応したら、賛同するしか答えはなかった」と振り返った。

買収を阻止しても先はなかったとお考えになるのだったら、もっと早くに「当社には先がある!」とお考えになる方に社長の座を譲っていたら結果はだいぶ違っていたのではないでしょうか?原田氏は2012年4月にTAKISAWAの社長に就任しています。もう11年もTAKISAWAの社長をやっているんですよ。いつから「当社に先はない」と思っていたのでしょうか?そう思った時点で「TAKISAWAの先を作る!」と考える方に社長の座を譲るべきだったのでは?11年も社長をやってたら「もういいか」と考えて賛同表明しますわな。今後ニデックにクビにされても「まあ11年もやったし」と思えますよね。一方でそう思えない人も出てくるかもしれません。

上場している以上、買収対象になるのは仕方がありません。ただ経済産業省の指針に沿って対応したら賛同するしかないなんてことはありません。TAKISAWAが自信をもって「ニデックが提示したTOB価格は安い。我々が新たに策定した中長期の経営戦略を実行していくことで、●年後にはTOB価格を大きく超える株価を実現してみせる」と株主に訴えて納得してもらえばよかっただけです。それを2022年に提案されてから考える時間は十分すぎるほどありましたよ。

で「買収を阻止しても先はない」とTAKISAWAの全員が考えているんですか?社長以外の役員は少なくとも、自社には先がないと思っていたわけですが、従業員の皆さんはどうだったのでしょうか?先があると考えて営業をしたり、製品開発をしたりしていた従業員もたくさんいたでしょうね。その従業員は先がないと考えていた上司と仕事をしていたわけですね。不幸極まりない。

記事にもありますが、以下のプレスリリースP18~19に記載の通り、ニデックはTAKISAWAに2022年1月に買収提案をしています。

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS03883/ed8ec79c/5a1b/4858/9ff9/5b0b6ad3265a/140120230913553646.pdf

当時TAKISAWAは、ニデックの提案が第三者割当増資をすることでの子会社化であったことなどを理由に謝絶したそうです。しかし日経の記事によると、

原田社長は22年の提案時に敵対的TOBの可能性を尋ねており、「『今のところ考えていない』という返事だったので、いずれ来るなと覚悟していた」とニデックの動きに驚きはなかったという。

だそうです。2022年当時、買収提案をされたけど断った、しかし社長はニデックに「敵対的にでもやるつもりか?」と聞いたら、それは今のところ考えていないと言われた。これ、本当に「いずれ来るな」と覚悟していたんですか?「よかった~。敵対的まではやらないのかあ」とほっとしたのでは?だって、そもそも先がないと考えているのだとしたら、2022年の提案時に「第三者割当増資じゃなくてプレミアム付けたTOBなら応じる」と答えるべきだったのでは?

で、2022年に買収提案されて謝絶した後、TAKISAWAさんは何をしていたんでしょうかね?株価上げるためにがんばりましたか?

以下の記事にこう書いてあります。

ニデック永守重信氏、2倍のTOB価格「最初に決めた」 TAKISAWA買収巡り

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF07A4R0X00C23A9000000/

「ホワイトナイト(友好的買収者)が現れることも考えていた。ただ、価格競争をするつもりはなかった。ニデックが決めた以上のTOB価格になったら、すぐ降りていた。私は進むのも速いが逃げるのも速い」

ほら、永守さんは「ニデックが決めた以上のTOB価格になったら、すぐ降りていた」と言っています。ニデックが決めた以上の価格がどれくらいかはわかりませんが、少なくともTAKISAWAの経営陣ががんばってBPR1倍以上の株価=2,777円以上を実現していたら、永守さんは仕掛けなかった可能性があります。

「持ち合い株への批判も厳しくなっており買い手もなかなか見つからず、MBOをしても収益性が上がるとも思えなかった」と代替案にはならず、自社の株価を高めることも「短期的な方策があるわけでもなかった」という。

まず持ち合いですが、批判は厳しいです。ただし話はたくさんあります。そういう努力をしましたか?これは投資家サイドには受け入れられない話ですが、現実として持ち合いの話はあるんです。TAKISAWAの時価総額は100億円程度であり、よからぬ買収者に会社を食い物にされるリスクが十分にある規模です。いろんな意味でTAKISAWAは企業防衛対応をしておく必要のあった会社なのですが、やってない。そして株価も「短期的な方策があるわけでもない」とさじを投げている。そもそもニデックの再提案が短期で行われるかどうかもわかっていなかったのですから、なんとか株価を上げるための努力をすべきだったのですよ。

「安定株主は3割で、TOBに反対表明すれば不成立に追い込むこともできたかもしれない」とも考えた。

どうやって?今回、ニデックとそのアドバイザーであるTMIは当然想定していたでしょう。TOBの下限を設定していたから、反対さえすれば下限を超える応募はないだろうなーんて甘いこと考えていませんか?そんな簡単な方法で会社を守り切れるわけがないでしょう。あまいんですよ。

意見表明を見て思ったことでもあるのですが、このTAKISAWAという会社からは覚悟が伝わってこないんですよ。会社を身売りすると決めたのだったら、せめて最後は価格交渉をして永守さんをギャフンと言わせてやればいいものを、それもしない。しない理由は意見表明の中に書いてありますが、「FAが算定して株式価値のレンジの上限を優に超過している」「TOB価格はBPS2,777円を下回っているが、純資産は理論的な清算価値ではないし、企業価値算定において純資産を重視するのは合理的じゃない」と言っています。これ、TAKISAWAが言うことじゃなくて、交渉の過程でニデックが言うことでしょ?

価格交渉、しとらんでしょ?なんでしないの?売ると決めたなら1円でも高くしなさいよ。敵対的TOBで買収する以上、より高い価格じゃないと賛同せんぞ!せめてPBS2,777円を超える価格にせよ!こんな安い価格で賛同表明だせるかよ、恥ずかしいわ!くらい言いなさいよ。捨てるモン、ないでしょうが。あ、あるのか・・・。あるんでしょうね。

TAKISAWAが実際のところどういう思考回路を経てこういう決断をしたのかわからないし、実際には少し保身めいたところもあるように私は見ていますが、しかし今回のインタビュー記事の内容は、今後のニデック永守さんといろいろな交渉をする上で悪材料でしょうね。

これを読んだ永守さんはどう思いますかね?たぶんですが「なんと情けない経営者やのう。これからのTAKISAWAのガバナンス体制の交渉はラクなもんになりそうやな」と思ったことでしょう。永守さんはTAKISAWAの社長に「社長!あんたはTAKISAWAを5年後にどういう会社にしたいんや?日経のインタビュー、読んだで。先がないと言っておったな。あんたが社長をやる以上、あんたはTAKISAWAに先がないと思いながら経営をするわけやな。そらあかんで。社員の士気にかかわる。あんた、あの考え方を改めて5年後のTAKISAWAをどうすべきか真剣に考えた結果を次回の会合で教えてくれ。その内容次第ではほかの人に社長をやってもらうからな」と言いそうですね。

永守さんは大変厳しい方だそうです。反対意見も言いにくい雰囲気がありますね。でも自社のことを「先がない」と言ってしまうような経営者に対してはすごく厳しい見方をするんじゃないでしょうか?自分がやってもうまくいかせる自信はある、でもニデックと一緒にやった方がさらに大きくなる、だから賛同した、って言うのならわかります。

あと、買収防衛策を使ってもっと交渉すべきだったと思いますよ。賛同はするけど、条件がある、と。例えば価格もそうですし、上場廃止もそう。せめて上場廃止は●年だけ待ってくれ、とか。いろいろと買収防衛策を使って交渉できるんですよ。

とりあえずわかったことは、TAKISAWAは2022年にニデックから買収提案された後、なーんにも対策を取らなかったのだろうな、ということです。もちろんTAKISAWAなりに何らかの対策をしていたかもしれませんが、私にはTAKISAWAが「どうかニデックが二度と買収提案してきませんように!」とお祈りしていただけではないかと見えます。

敵対的TOBの世界に神様は存在しません。でも、やるべきことをやった会社にはたまに神風が吹くことがあります。そしてやるべきことは時代の変化に伴い変わってきます。昔よりも高度な判断が求められています。

以下、有名ですが、永守さんの流儀です。敵対的買収やアクティビスト対策も同じです。すぐやる、必ずやる、出来るまでやる。会社を守るための情熱、熱意、執念です。

「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」日本電産“永守流”の根付かせ方

https://diamond.jp/articles/-/216641

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ