2022年03月31日

No.1281 (無料公開)買収防衛策を導入しないことも経営者の保身なんです~まとめ~

買収防衛策を導入しないことこそ経営者の保身だと言うことを連載してきましたが、今日で最後です。まず以下のコラムをご覧ください。長いので冒頭だけでもいいです。

No.552 買収防衛策を導入しないのは無責任だ!!!(無料公開)

デサントは買収防衛策や効果的な対抗策を打つことができませんでした。当時私も申し上げたのですが、デサントは買収防衛策を導入して対抗すべきだったのではないでしょうか?今になってわかってきたこともあるのですが、昨今の有事型の発動事例、特にSBIによる新生銀行への敵対的TOB時に有事型で新生銀行は対抗しましたが、議決権行使助言会社が発動に賛成推奨しました。同様に部分的買収であった伊藤忠商事の敵対的TOBに対してデサントが買収防衛策で対抗したらどうなっていたかわかりませんよ。

完全に守り切ることはできなかったかもしれませんが、上記のようにプロパー役員がさみしく会社を去る事態は避けられたかもしれません。買収防衛策は完全に会社を守るためのツールではなく、買収者との条件交渉に使うツールです。プロパー役員を守るというと保身のように聞こえますが、ある程度の現経営体制を守る=一定期間の会社の独立性を守るために使うというやり方もあります。交渉で得た一定期間の独立性によって、デサントを経営し企業価値を向上させていくのはやはりデサント出身者じゃないとダメだ、ということを伊藤忠にわかってもらえば、その後の独立性も勝ち取れたかもしれないのですから。

※例えばデサントが伊藤忠に「10年間はデサントの独立性を認めてほしい。現社長の私は退任するが、今後10年間はデサント出身者を社長にしてほしい。会長職と過半数の役員は伊藤忠が握ってくれてかまわない。その条件を呑んでくれるのであれば買収防衛策の発動は取り下げてTOBに賛同表明を出す」といった条件交渉です。

買収防衛策とは決して発動をして買収提案の実現を阻害するための施策ではありません。買収防衛策とは買収提案の詳細な情報を得て、本当に買収提案に応じてよいかどうかを検討するための時間を確保するための施策です。買収条件を詳細に確認することで、本当にそのTOB価格に応じてよいのか、そもそもそのTOB価格はどういう計画に基づいて算出されたものなのか、それは一部のステークホルダーの利益を毀損することによって形成されたTOB価格ではないのか、を確認するのです。

TOB価格は高いものの、どうやらこの価格は将来的な従業員のリストラがベースになっているのではないかという場合、従業員だけが将来的に不利益を被る買収提案ということになります。この場合、いくらTOB価格が高くても、経営者は従業員の雇用を守るために買収者と闘わなくてはなりません。しかし手元になんの武器もないと戦えません。その武器が平時型買収防衛策なのです。

※有事型買収防衛策だと時間が限られ、買収防衛策の発動実務で手いっぱいでしょうから、条件交渉をする余裕もないはずです。それに比べて平時型は確保できる時間にルール上は限りがありません。

しかし平時型買収防衛策に対する誤解に基づいた批判がたくさんあります。誤解に基づいた批判どころか、悪意のあるものまで見られます。こういった状況を踏まえると、おそらく私がコラムで申し上げてることについては「頭では理解している。でも買収防衛策導入には踏み切れない」と考えている経営者も多いのではないでしょうか?

私は「それこそが保身である」と言っています。平時型は買収防衛策などではない、情報と時間を確保するための施策、有事型はとんでもないフィーがかかる、有事型は投資家フレンドリーな策ではない、ちゃんと平時型を入れておかないといざというときに戦えない、平時型は株価に何の影響も与えない、と論理だてて説明し、経営者は頭では理解するものの「どうしても踏み切れない」と考えるでしょう。なぜなら「買収防衛策は経営者の保身だ」「買収防衛策を廃止する会社が増える中で導入するなんて時代錯誤だ!時代に逆行している!」「保身の経営者だ!」と言われることをおそれています。

買収防衛策は誰のためのものですか?経営者のためでもあり、役員のためでもあり、株主のためでもあります。しかし私は「買収防衛策は皆さんにとってかわいい部下のため、会社のために尽くしてくれているすべての従業員のための施策だ」と考えています。例えば貴社に対して同業が敵対的買収を仕掛けてきたとしましょう。皆さんは「あそこの会社と組めば画期的なシナジーのある経営施策を実行できる」「革新的な技術が生まれる」と考えますか?考えないでしょ?そんな革新的なことが生まれる買収なんて、世の中にそうそうありません。たいがいが「買収後のリストラを通じた利益拡大」でしょうね。そのために犠牲になるのは、両社に共通する人員の整理です。買収されりゃあ、余計な人員は削減されるのが当たり前です。本社機能に属する人員なんて、まっさきに削減されるでしょう。※ここでいう削減とは、明確に「リストラ」として削減されるものだけではなく、慣れない仕事に追いやられ、自然に退職していく人員のことも含みます。

敵対的買収ってそういうもんでしょ?いや、もっと言うなら買収ってそういうもんですよ。割を食うのは会社に尽くしてきた従業員です。皆さんは自分の部下をやめさせたいですか?朝から顔を合わせ、ランチをともにし、酒も酌み交わし、会社の将来について熱く語り合ってきた仲間にリストラを言い渡したいですか?そういうことをさせないようにするための交渉ツールとしての買収防衛策なのですよ。

買収防衛策を導入できるのにしないのは経営者の保身です。「保身だ!」と言われることをおそれて、つまり経営者が批判されることをおそれて保身に走っているということです。従業員はそんな経営者の背中を見ています。

それと、そもそも買収防衛策を導入する経営者を批判するのって誰ですか?株主と投資家と一部のマスコミです。一流の経営者は買収防衛策を導入したらおそらく称賛します。「このご時世にたいした決断をする経営者だ」と評価するでしょう。

東芝の会社分割議案(に対する株主の意見確認)が否決されたことで、これは東芝に限ったことではなく、皆さんにもいずれ降りかかってくることだと思い、連載しました。今一度、買収防衛策とは何なのか?自社が東芝のようにならないと考えるならその根拠は?東芝状態にしないためにはどうしておいたらいいのか?を考えるきっかけにしていただけたらと考えます。

それにしても東芝の優秀な従業員の方があまりにかわいそうだ・・・。それもこれも、すべて東芝の経営陣の責任ですよ。経営者の誤った判断が従業員を路頭に迷わせることにつながってしまうのです。

 

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