2017年08月02日

No.142 大切なことは買収防衛策を導入することではない

 散々コラムで「買収防衛策は必要です。ないとソレキアみたいになってしまいます」と申し上げていますので、コラムを読んでいただいている皆さんの中には「やっぱり必要だな」「廃止はできないな」と思ってくださっている方もいらっしゃると思います。しかし、大切なことは買収防衛策を導入することではありません。もちろん、企業防衛を考える上での第一歩は買収防衛策を導入・継続することです。企業防衛を専業とする私からすると、買収防衛策の導入は当たり前のことです。

 買収防衛策を導入するという前提で、最も重要なことは「自社の魅力」と「想定バイヤー」を考えることです。これは切っても切り離せないことです。自社の魅力を考える上で、魅力だけを単体で考えることはないはずです。誰にとっての魅力かを考えるからです。

 貴社の魅力は何でしょうか?それは誰にとっての魅力でしょうか?特徴的な技術がある場合、それは同業などの事業会社にとっての魅力となるでしょう。財務体質が良好である場合、それはアクティビスト・ファンドなどフィナンシャル・バイヤーにとっての魅力となるでしょう。それらの魅力に、株主構成が加わるとどうなるでしょうか?ここからは魅力ある貴社をどうやって買収するかという戦術が加わってきます。

 例えば、貴社の安定株主比率が低い場合、想定バイヤーはどう考えるでしょうか?事業会社であれば素直に「これは買えるかもしれないぞ」と考えるでしょう。本当に敵対的TOBを実行するかもしれません。一方でアクティビスト・ファンドだったら「お、敵対的TOBをかければ、対象会社は買われてしまうと考えて、ホワイトナイトに助けを求めるだろう。手持ちの株を高値で売れるぞ」と考えるかもしれません。

 一方で安定株主比率が高い場合はどうでしょうか?事業会社であれば素直に「これは買えないな」と考えるでしょう。アクティビスト・ファンドは「安定株主比率が高いからホワイトナイトは出てこないだろう。でもオレたちにたくさんの株式を持たれたくはないだろうから、増配で対抗してくるだろう。高値で売り抜けられるぞ」と考えるかもしれません。

 大切なことは貴社の魅力と想定バイヤーを常に考えることであると思います。なぜ常になのかというと、魅力と想定バイヤーは日々変化するからです。それは貴社の事業内容や財務体質が変化するという意味でもありますし、想定バイヤーという登場人物も日々変化するという意味でもあります。残酷な言い方をすると、上場している以上、敵対的TOBというリスクから逃れることはできません。また、株主提案というリスクからもです。常にあります。ただし、だからと言って私はMBOを勧める訳ではありません。私はMBOには否定的です。会社は上場していてこそナンボですから。上場会社が少なくなることは、日本経済にも中長期的には悪影響を及ぼすと考えます。

 魅力と想定バイヤーを考えるということは、貴社の企業価値向上策を考えるということと同義です。敵対的TOBリスクを考えるとなるとなんだか後ろ向きなイメージがありますが、敵対的TOBリスクを低減させるということは企業価値を高めるということです。

 なお、会社の魅力を事業と財務の観点で指摘しましたが、株主構成そのものが魅力になる場合もあります。例えばエフィッシモは親会社や資本上位会社が存在する会社を狙っていました。親会社による完全子会社化や資本上位会社による買取りなどを期待しているのかもしれません。事実、エフィッシモに狙われた会社で、資本上位会社がTOBをして買い取ったり、MBOをしたりした事例があります。安定株主の存在自体が魅力になってしまうということです。アクティビスト・ファンドは、安定株主がたくさんいる会社=危機に弱い会社・プレッシャーに弱い会社・ガバナンスが弱い会社と見るリスクがあります。

 

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