2024年04月11日

No.1735 機関投資家はイオンの買収防衛策あらため買収への対応方針に賛成すべきだ!

イオンが買収防衛策あらため「買収への対応方針」の継続を公表しました。マスコミのみなさん!みなさんは敵対的買収のことを「同意なき買収」と報じているのですから、買収防衛策のこともこれからは「買収への対応方針」と報道してくださいね。

これまで当社は繰り返し「日本企業が導入している買収防衛策は買収防衛策などではなく、情報と時間を確保したり、買収者と条件交渉をしたりするためのツールである。買収提案の実現を阻害するようなルールではない」と主張してきました。経済産業省の「企業買収における行動指針」において、日本企業が導入しているルールを買収防衛策ではなく「買収への対応方針」と定められました。

https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003-a.pdf

そして以下、イオンが継続を公表した「買収への対応方針」です。タイトルに(買収への対応方針)というのが入っています。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8267/tdnet/2419885/00.pdf

ちなみに2021年4月の継続時のプレスです。タイトルには(買収防衛策)というのが入っています。ここが変わったんです。これ、大きな変化なんですよ。

少し話は変わりますが、昨今、経済産業省の指針を受けて敵対的・同意なきTOBが増えています。ニデック⇒TAKISAWA、ブラザー工業⇒ローランドDG、AZ-COM丸和HD⇒C&FロジHD。

買収者は買収提案の中で「公開買付者による本取引に係る提案は、その具体性・目的の正当性・実現可能性に照らして、経済産業省が2023年8月31日に公表した「企業買収における行動指針」における「真摯な買収提案」(同指針3.1.2)に該当するもの」といった主張をし、対象会社も指針に則った「真摯な対応」をしています。TAKISAWAはニデックの敵対的・同意なきTOBを受け入れました。

指針は企業買収時における対象会社の行動についてのみ言及しているわけではなく、買収防衛策あらため買収への対応方針についても言及しています。以下です。P30~が「第5章 買収への対応方針・対抗措置」についてまとめられた箇所ですが、とりあえず以下のみ抜粋します。抜粋+私のコメントです。

機関投資家のみなさん、上場会社が指針を受け入れ、真摯に買収提案に対応している以上、みなさんも真摯に買収防衛策=買収への対応方針に対して検討していただく必要があると私は思いますが、いかがでしょうか?少なくともイオンの買収防衛策継続議案に反対はできないと私は考えます。

https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003-a.pdf

我が国においてはこれまで、業績が低迷するなど経営を改善する余地が大きく、買収の経済的意義が発揮されやすい企業において対応方針が導入されやすい傾向があったことには、留意する必要がある。このような会社において買収への対応方針が導入され、これが経営陣の保身のために設計・運用されることとなれば、望ましい買収提案の躊躇や、買収を通じた規律付けの低下、買収提案に対する真摯な検討の阻害を生む結果となりかねない。

⇒そういう傾向があったのは事実でしょうし、私の経験からも「おっしゃるとおりです」と申し上げます。こうなった以上、私はすべての会社の買収防衛策に賛成してくれとは言いませんが、ではイオンはどうでしょうか?イオンのPBRは2.8倍です。業績も低迷していません。そして取締役7名中4名が独立した社外取締役ですよ。

したがって、会社としては、対応方針の導入を検討するのであれば、まずもって平時から企業価値を高めるための合理的な努力を貫徹するとともに、それが時価総額に反映されるよう取り組むことが求められる(「第 3 章 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範」冒頭参照)。

⇒イオンはやっていますよ。

このような取組みを行いつつも、会社が平時から対応方針を導入しておく必要があると判断する場合もあり得る。もっとも、対応方針を平時に導入し開示する場合、株主総会で導入について決議するか、仮にそうではない場合でも取締役の選解任等を通じて株主の意思が反映されるため、たとえ適法性が認められうる対応方針であったとしても、機関投資家等をはじめとする資本市場の関係者の理解と納得を得られなければ、実際には導入することが困難である。

⇒イオンは企業価値を高める合理的な努力をしつつ、イオンの買収防衛策プレスによると「お客さまでもある株主の皆さまにイオンの基本理 念・経営方針をご理解いただきながら、地域に住む皆さまの声をお店やサービス、そして 経営に生かすことができるからこそ、お客さまのより良い暮らしの実現につながり、当社の企業価値を向上させることができるものと強く確信」しており、「基本理念に基づく長期的な視点での地域や社会と共生する経営、広範かつ複合的な事業展開が、グループ全体の企業価値向上に資するとの考え方を基本としており、基本理念に賛同し、その具現化に向けた経営を志向する真摯な提案であれば、歓迎します。一方で、基本理念にそぐわない経営方針への変更は、グループへ与える影響が大きく、同時に地域社会への影響も懸念され慎重な対応が求め」られることなどから買収防衛策=買収への対応方針が必要だとしています。

個々の会社の規模や状況等によって、対応方針の要否や求められる方策は異なりうるため、中長期的な企業価値の向上の観点から、対象会社と機関投資家との間で建設的な対話がされることが、本来望ましい姿である。対象会社は、対応方針の導入が一つの経営戦略として必要だと考える場合には、その理由について丁寧に対話や情報開示を行うとともに、取締役会の構成の独立性を高めていく(例えば社外取締役の比率を過半数とする)ことや、社外取締役を主体とする特別委員会の判断を最大限尊重することで公正さを担保すべきである。

⇒既述の通り、イオンは取締役7名中4名が独立した社外取締役です。なお5月総会をもって取締役9名中5名が独立した社外取締役であり、女性もいれば外国人(3名)もいます。独立委員会は5名の独立した社外取締役のみによって構成されています。

そのような場合に対応方針が買収に関する透明性を高める可能性があることからすれば、機関投資家や議決権行使助言会社は、費用対効果の視点も含めて考慮しつつも、基準をもって形式的に判断するのではなく、対象会社の状況や当該会社との対話の内容、対応方針の内容等を踏まえた上で、対応方針の導入や対抗措置の発動に対する賛否を判断することが望ましい(有事において対応方針が用いられる場合でも同様である。)。

⇒まさにここです。イオンは業績・株価も向上させ、取締役の過半が独立した社外取締役である以上、イオンの買収防衛策=買収への対応方針の継続議案に対して機関投資家や議決権行使助言会社は「基準をもって形式的」に判断してはいけないのです。

繰り返しですが、日本の上場会社は指針をある意味やりすぎなくらいまじめにとらえており(かなり誤解があると思いますが)、会社によっては「指針がある以上買収提案にはさからえない」と誤解に近い認識のもと、買収者に身を差し出しています。指針を非常にまじめにとらえています。

一方の機関投資家はどうでしょうか?今年の3月総会の買収防衛策導入・継続議案、1社でも賛成したケース、ありましたか?ないでしょ?それはイオンのような会社がなかったからかもしれませんが、あったとしてもどうだったでしょうか?これまでと同様、杓子定規に基準をもって反対していたのではないでしょうか?

上場会社がまじめに指針と向き合っている以上、機関投資家もまじめに向き合うべきです。少なくとも業績向上・株価向上に邁進し、独立した社外取締役のみで構成される独立委員会を設置している会社については、買収防衛策=買収への対応方針の導入・継続を認めてあげるべき時期に来ていると思います。

なお、こういうイオンとか株価・業績絶好調で買収防衛策を継続している上場会社は買収防衛策=買収への大砲方針が「情報と時間を確保するためのツール」であり、それ以上のものではないことを十分認識しています。有事になっても「うちの会社は発動ありきで対応してはいけない」こともよくわかっています。だから買収防衛策=買収への対応方針を導入しているからと言ってそれに胡坐をかくことなく、企業価値・株主価値の向上に日々邁進しているのです。

機関投資家のみなさん、これまでは「買収防衛策」とタイトルに書いてある以上、議案に賛成しにくかったという側面があるかもしれませんが、これからは買収防衛策ではなく「買収への対応方針」であり、単なるルールを定めたものですので、賛成しやすくなったはずです。

イオンをはじめとした企業価値・株主価値向上に邁進している会社の買収防衛策継続・導入に関してはぜひ賛成してあげてください。そうすることで上場会社との対話が今まで以上にしやすくなると思います。上場会社も「あの投資家はわからず屋じゃなくて、ちゃんと話を聞いて理解してくれる投資家だ」ととらえ、今まで以上に企業価値・株主価値向上に貢献してくれるでしょう。株主還元だって「あの人たちのために」と今まで以上に前向きに、積極的に考えてくれるようになると思いますよ。「株主は会社の重要なステークホルダーである」と真剣に見てくれるようになると思いますし、何より会社の経営陣・社員から愛される機関投資家になると思います。

なお、本当は機関投資家のみなさんはイオンの買収防衛策=買収への対応方針に反対できないんですよ。その理由はここでは明かしません。イオンさん、私にはわかります。イオンさんは言わないと思いますが。えらそうなこと言って、外れているかもしれませんが。

最後に、イオンさん、買収防衛策を継続してくれてありがとうございます。イオンさんの企業規模・時価総額ではなかなか継続を判断するのは難しかったかもしれませんが、素晴らしい経営判断だと思います。

 

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