2017年02月05日

No.53 買収防衛策の効果は買収者も認めています~肉食系なベジさん~ など2コラム

■買収防衛策の効果は買収者も認めています~肉食系なベジさん~

 ベジという名前の割には、敵対的TOBというけっこう肉食系な行動を起こす佐々木ベジ氏ですが、ソレキアに対する公開買付けの届出書を見ると、おもしろいことが書いてあります。

 まず、ソレキアに対してTOBを実施した理由ですが、簡単に言うと、「株価が割安でPBRがずっと1倍割れ。ROEを重視しながらPBRの向上を目指す経営を実現させる。株式を追加取得し、株主が重視する株価指標を意識したROE経営を実施することで、ソレキアの業績が改善されれば、上場企業としてあるべき水準の株価になるだろう」ということだそうです。ソレキアの株式については、平成27年4月以降に、佐々木ベジ氏が取締役会長をつとめるフリージア・マクロスが、純投資として市場内取引で取得しています。ちなみに、フリージア・マクロスの社長が佐々木ベジ氏の弟である奥山一寸法師氏です。

現時点でフリージア・マクロスはソレキア株式の6.75%保有しています。なお、今回TOBをかけたのはフリージア・マクロスではなく佐々木ベジ氏個人です。理由は「本公開買付けの目的を対象者の全役員及び全従業員や株主に説明する場面においては、個人としてリスクを取った意思・意見である方が、明確かつ責任感のある内容として伝わると公開買付者は考える点や、本件は公開買付者自身の過去の経営改善実績を活かす趣旨でもあるためです。」だそうです。

 今回のTOBで、フリージア・マクロスと佐々木ベジ氏の合計保有割合は50%を超えない範囲に設定されています。48.77%におさえたそうです。なぜなら、今回のTOBの目的は過半数を取得することではないから、だそうです。まあ、実質過半数を握るも同然ですが。

 フリージア・マクロスはソレキア経営陣と会ったことがないそうです。フリージア・マクロスはソレキアからフリージア・マクロスに対し、何らかの手段により対話促進のための働き掛けが図られることを期待しておりました。また、フリージア・マクロスは、平成28年12月7日まで追加的に対象者株式の取得を実施しておりましたが、対象者より本書提出日まで一度もコンタクトを受けておりません。」と届出書に書いてあります。

 「会いにいけばよかったじゃん」と思ってしまいます。また、「TOBかける直前に1回くらいは会うよねえ」と思ったりもします。しかし、フリージア・マクロスはソレキアに会いに行きませんでした。なぜでしょう?届出書には以下のことが書いてあります。

「フリージア・マクロス又は公開買付者から対象者に対してコンタクトを行うことも検討いたしましたが、上述のとおり、対象者からフリージア・マクロスへのコンタクトがなされない中、本公開買付けの開始に先立って対象者と事前に協議を行う場合、対象者側の全部或いは一部の役員が本公開買付け前に動くことにより、何らかの買収防衛策が導入される可能性や、かかる行為により情報漏洩等が万が一生じた場合、会社の業績や実態と関係なく株価が一時的に大きく変動し、対象者の株主や対象者の潜在投資家の投資判断に影響を与えてしまう可能性に鑑み、本書提出日まで、公開買付者及びフリージア・マクロスは、対象者役員と面談の機会を持っておりません。よって、公開買付者は、本書提出日現在、対象者が本公開買付けに賛同するかどうかは確認できておりませんが、今後、対象者との間で真摯に協議をすることを想定しており、対象者役員においては、本公開買付けの目的であるROE経営の導入並びにストック・オプションの付与等に係る各種施策が対象者の業績向上に寄与することを十分にご理解いただけるものと考えております。従いまして、公開買付者は、対象者において本公開買付けにご賛同いただけるものと考えております。」

 ここに書いてあるとおり、事前に接触はしていないのです。だから佐々木ベジ氏は「ソレキアがTOBに賛同するかどうか確認できていないけど、ROE経営の導入、ストック・オプションの不要などの施策はソレキアの業績向上に寄与すると理解してもらえるだろうから、今回のTOBにソレキア経営陣は賛同してくれるでしょう」という趣旨の内容を書いています。事前に何も打診していないけど、ちゃんと説明すれば納得してくれるだろう、ということです。だから、本件は現時点において敵対的TOBなのです。最終的に賛成するか反対するか、ではないのです。いろんな定義があるかもしれませんが、事前に経営陣に対してなんら打診がない、もしくは、打診があったとしても経営陣が賛同していないTOBは敵対的TOBなのです。海外の敵対的TOBのケースでは、当初経営陣が反対しているものの、最終的には賛成して成立するケースが多いです。

 また、事前に打診しなかった理由として「何らかの買収防衛策が導入される可能性」をあげています。やっぱり買収者は買収防衛策があると「やっかいだ!」と思っているということです。さらに言うと、本件、買収防衛策が導入されていないから実施したとも言えます。買収防衛策が導入されていると、TOBルールでは質問権は1回のみですが、何度でも質問できます。時間もかせげます。延々と時間をかけることも可能なんです。もちろん、株主やマスコミから批判されるリスクはあります。

 だから買収者は買収防衛策がイヤなんです。だから佐々木ベジ氏は事前に打診しなかったのです。事前に打診したら、速攻で買収防衛策を導入されるリスクがあるからです。ソレキアは買収防衛策を導入するタイミングがあったんです。それは、フリージア・マクロスに株式を持たれたときです。どうして導入しなかったのでしょうか?たぶん、「大丈夫だろう。敵対的買収なんてしてこないよ」と軽く考えていたからでしょう。

 「うちは大丈夫だろう。敵対的買収なんてしてこないよ」

その根拠は?と問われて回答できるでしょうか?

■今回、どういう防衛手法があるのでしょうか?

いろいろと防衛手法はあります。今回、買収防衛策が導入されていれば、事前に情報と時間を確保することができました。ちなみに、ソレキアの時価総額は23億円です。規模は小さいです。だから買いやすい、という考え方ができる一方で、「時価総額が小さいから、取り得る防衛手法もある」という考え方もできます。しかし、如何せん、時間がありません。買収防衛策があれば、35営業日ではなく、もっと時間が確保できるのでいろんな施策を検討することできます。

ソレキアはオーナー系企業なので、オーナーがMBOを実施することも検討できますが、対抗できるでしょうか?一昔前、スティールパートナーズに敵対的TOBを実施された会社がMBOで対抗しようとしましたが、買収価格の引き上げ合戦になってしまいました。MBOで対抗するのは結構難しいんです。なぜなら、合理的・倫理的に考えるとMBOで対抗する場合、1度しか価格提示をできないからです。あくまで合理的・倫理的に考えた場合です。法律的には何度でも買収価格を引き上げても構いません。

しかし、「経営の中身を知っている現経営者が株主に対して買収価格を提示する場合において、何度も価格を引き上げるのはいかがなものか。」という考え方があります。

つまり「なぜ買収価格を引き上げるんだ?最初の買収価格はどういうことだ?経営の内情を知っている経営陣が不当に安く株主から買い取ろうとしたということか?」と捉えられてしまうおそれがあるからです。

ちなみに、スティールパートナーズにMBOで対抗しようとした会社は、最終的には大幅増配を選択して買収をまぬがれました。ソレキアの連結財務諸表を見ると、2016年3月末の現預金は32億円です。単体でも31億円あるので、大幅増配は可能でしょうね。それが狙いだったりして?まあ、佐々木ベジ氏本人も公開買付届出書において「ROE重視の経営をさせるんだ!」とおっしゃってますから、ソレキアが株主を重視した還元策を対抗策としてとったとしたら、佐々木ベジ氏の思惑通りかもしれませんね。

ちなみに、MBOや大幅増配以外にも取り得る防衛手法はあります。いろいろと議論があったり、それはいかがなものかと言われたりする手法なので、ここでは控えさせていただきます。

 

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