2017年03月19日

No.70 富士通VS佐々木ベジ~普通に考えると富士通が勝利しそうですが~

佐々木ベジ氏に敵対的TOBを実施されたソレキアに対して、富士通がホワイトナイトとして登場し、3,500円でカウンターTOBを実施しました。それについては先日のコラムで述べたとおりです。さて、今後、どういうシナリオが想定されるでしょうか?

 佐々木ベジ氏は1株当たり2,800円で最大で発行済みの約48%まで買うという条件です。一方、富士通は1株当たり3,500円で発行済みのすべてを買う、ただし、応募が2/3以上ないと成立しません、という条件です。この条件のままであれば、価格の高い富士通のTOBに応募が集まり成功するでしょう。佐々木ベジ氏はどういう行動に出るでしょうか?私が佐々木ベジ氏のアドバイザーならどうアドバイスするかという観点から考えてみました。

まず、佐々木ベジ氏がソレキア買収のために用意している資金は、公表資料でわかる範囲では約17億円です。佐々木ベジ氏は発行済みの48%までは買うとしていますが、株数ベースでは364,700株です。用意している資金を株数で割ると、約4,708円です。4,700円くらいまではTOB価格を引き上げられます。更に資金を準備していれば、もっと引き上げられます。

 私は以下のような流れを想定します。

佐々木ベジ氏がTOB価格を4,500円に引き上げる

        ↓

富士通がTOB価格を5,000円に引き上げる。

        ↓

佐々木ベジ氏が5,500円に引き上げる。

        ↓

富士通は5,500円より上にTOB価格を引き上げられるか???

 

 富士通はどうするでしょうか?富士通が提出した公開買付届出書を見ると、富士通はフィナンシャルアドバイザーとしてSMBC日興証券を雇っています。公開買付届出書の「(4)買付け等の価格の算定根拠等①算定の基礎」には次のように記載しています。

DCFによる算定だと、3,281円~5,769円という範囲です。では、佐々木ベジ氏が5,500円に引き上げてきたとして、富士通はいくらで対抗するでしょうか?5,700円でしょうか?

では、更に佐々木ベジ氏が5,800円で対抗したらどうするのでしょうか?フィナンシャルアドバイザーが算定した上限を超えてしまいます。

佐々木ベジ氏が5,800円にTOB価格を引き上げられるかという資金的問題はありますが、TOB価格を5,800円に引き上げたとしても、TOBの上限さえ変えなければ必要な資金は約21億円です。17億円の資金を準備できる人ですから、あと4億円くらい簡単に準備できそうな気がします。

富士通は上限を超えてカウンターTOBを実施することを、株主に説明できるでしょうか?もちろん、DCFによる算定はあくまでソレキア単独での事業計画をベースにしており、富士通とのシナジーを加味すればもっと価格は出せるのかもしれません。しかし富士通の株主からは「なんていう高い買い物をするんだ!」と批判の声が出ないでしょうか?ソレキアと違い、富士通の外国人株主比率は高いです。2016/3期末の外国人株主比率は39.33%です。外国人株主に対して説明できるでしょうか。

 佐々木ベジ氏が富士通に勝つ可能性があります。佐々木ベジ氏がTOBのために準備している資金が17億円ではないかもしれないからです。では、富士通がもうこれ以上の価格を出すことはできない、となったら?ソレキアは独自で防衛する必要があります。どうやって?

 増配です。現在、50円の配当を1,000円にしたらどうなるでしょうか?株価がTOB価格を上回ってしまえば、市場株価よりも安いTOBに応募する人はいませんから、防衛成功です。「配当を20倍にするのか?」と思われるかもしれませんが、実際にそれくらいの増配をして対抗した例があります。スティールパートナーズに敵対的TOBを仕掛けられたソトーやユシロ化学のケースです。ただ、今回はTOB価格がけっこう上になってくると配当では対抗しきれないかもしれませんね。当初からやっておけばよかったということになります。焦土化作戦的に。

 佐々木ベジ氏は名実ともに勝利することになります。「佐々木ベジ氏という個人が巨大企業である富士通に勝った」と称賛されるかもしれません。また、ソレキアが増配を実施すれば「佐々木ベジ氏が主張していたROE経営、PBR重視の経営をソレキア自身がある意味で認めたことになる」という声が出てくるかもしれません。

 佐々木ベジ氏は「ソレキアは増配を実施し、株価が上昇しPBRも上昇しました。私が想定していたよりも短期間でPBR1倍を超えました。増配という経営・財務施策を実施したソレキア経営陣の英断を支持します」と主張するかもしれません。私が佐々木ベジ氏のアドバイザーなら、これを狙いに行きます。大幅増配という果実と富士通に勝利したという名声を。

 買収者の狙いや属性を見極めないと、カウンターTOBには思わぬ落とし穴があるかもしれないのです。

 

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