2017年08月21日

No.150 ほのぼのする鉄道会社の株主総会?~鉄道会社を見れば個人株主の重要性がわかる~

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1707/14/news036.html

 こういう記事を見るとほのぼのする一方で、「本当に株主総会の分散化や質疑応答の充実などする必要があるのだろうか?」と考えてしまいます。オレンジ色がジャイアンツを連想させるから急行電車の色を変えるつもりはないか? ないでしょ、当然。なんでこんな質問をするのでしょうか。理解できません。株主総会を充実させることに何の意味があるのでしょうか?と思ってしまう質問です。

 さて、話を変えます。鉄道会社の株主構成は特徴的です。皆さんの株主構成との違いは一目瞭然、個人株主比率の高さですね。鉄道会社の株主はなぜ個人が多いのでしょうか?ご存じのとおり、株主優待です。インターネットで調べてみると、最も古い株主優待は東武鉄道だそうです。東武鉄道の社史には「明治32年(1899年)、優待株数300株以上、範囲は鉄道全線、優待株主数41名」とあるそうです。株主優待の歴史などは以下のリンクに書いてあります。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO82492670Y5A120C1000000

 個人株主比率が高いと、どういうメリットがあるのでしょうか?次のページから鉄道各社の株主構成、買収防衛策の有無、議決権行使率、株主総会における最低賛成率議案などを分析してみます。

 買収防衛策は「○」をつけた会社が導入している会社です。JR東・東海・西・九州、東急、西武、名鉄、近鉄以外は導入しています。近鉄は廃止しました。JRについては何となく「国鉄だったから導入しないのかな?」と納得してしまいます。西武はかつて、有価証券報告書の虚偽記載で上場廃止になっていますから、これも導入しにくいことに何となく納得してしまいます。東急と名鉄については、コーポレートガバナンス報告書を見たほうがよいです。両社は買収防衛策を導入していませんが、「買収防衛策の有無」の項目の「該当項目の補足説明」において株式の大量取得に関する基本方針や体制などをきちんと説明しています。

http://www2.tse.or.jp/disc/90050/140120170614406590.pdf

http://www2.tse.or.jp/disc/90480/140120170526484418.pdf

 鉄道会社はなぜ企業防衛に対して敏感なのでしょうか?答えは「狙われた業界」だからですね。誰に?

村上ファンドですね。村上氏の著書「生涯投資家」の第5章に話が掲載されています。細かい話は割愛しますが、村上ファンドが阪神の株式を大量に取得し、最終的には阪神と阪急が統合しました。阪神にとって本当にハッピーな経営統合だったのかどうかは私には評価できません。ただし、この村上ファンドの行動が鉄道各社の危機感を醸成させたことは間違ないと考えてよいと思います。また、当時は村上ファンド以外のファンドも鉄道会社の株式を大量に取得していました。

そのため鉄道会社は買収防衛策を導入したのでしょう。買収ターゲットになった業界だから、現在でも買収防衛策を継続している会社が多いと言えます。近鉄が買収防衛策を廃止した理由は、以前のコラムでまとめましたが、おそらく公募増資を実施し、外国人株主が増えてしまったことが影響していると思われます。ただし、近鉄の株主構成であれば、買収防衛策を簡単に継続できたと思われます。外国人株主比率が上昇したと言っても、所詮、14%ですし、個人株主比率は44%もあります。個人株主が白票を投じてくれるでしょうから、余裕で継続できたことでしょう。

 鉄道各社と言っても、JRと私鉄では株主構成が全く異なります。同じ業界でもこれほど違います。JRは外国人株主比率が高く、個人株主比率が低いです。私鉄はすべて個人株主比率が高いです。ほぼ30%を超えています。

 議案の賛成率欄には2017年総会における議案の中で、最も低い賛成率を記載しています。その隣が、最低賛成率の議案内容です。例えば、JR東日本の議案の最低賛成率は74%ですが、小田急や京急は80%以上の賛成率があります。これはやはり、個人株主比率の差と言ってよいでしょう。もちろん例外もあります。個人株主はそもそも議決権行使をしない、したとしても白紙で送付してくれるから、たとえ安定株主比率が低くても高い賛成率を確保できるということです。これこそが個人株主を確保する最大のメリットです。

 では、鉄道会社以外の会社が、個人株主比率をここまで上昇させることは可能でしょうか?大変難しいです。例えば、個人投資家向けIRで増やせるでしょうか?これは不可能です。もう少し丁寧な言い方をすると、増えるかもしれないが、微々たるもんだし、コストをかけた割には効果が見られないということです。証券会社の全国の支店での個人投資家向け説明会やIRマガジンなどでの会社紹介・・・何百人、何千人という方が説明を聞き、会社紹介を読むかもしれません。果たしてどれくらいの人が株を買うでしょうか?何人が何株買うでしょうか?微々たるもんですね。他の方法はあるでしょうか?例えば、株式分割をして、投資単位を引き下げて買いやすくしてはどうでしょうか?これは確実に増えます。個人株主の「数」がです。数は確実に増えます。膨大な数になるでしょう。しかし、個人株主「比率」はほとんど上昇しません。これだと意味がありませんね。同じように、株価が暴落すれば個人株主は膨大に増えます。しかし、これも意味がありません。

 一所懸命、個人株主を増やそうとがんばっても、増えたところで1~2%程度です。しかしそのための労力は並大抵ではありません。コスト・手間がかかる割には対して増えないのです。であれば、同じコストを安定株主対策に費やした方がよっぽど安定株主は増えます。証券会社やIRアドバイザーが「これからは個人株主を重視すべきです!個人投資家向けIRをやりましょう!」などというセールストークを言ってきたら、「そんなムダなことはやらん!そんなことより安定株主を紹介しろ!」と言ってあげるとよいです。よっぽど現実的な対策です。なぜなら、かけた労力と資金が安定株主比率の上昇に直結するからです。個人株主を増やすことを考えるよりも、「この相手なら株の持ち合いをやっても説明がつく」という先を考えた方が効率的です。

 皆さんの中で、個人株主を増やしたいと考えている会社様はいらっしゃるでしょうか?もしくは、社長から「個人株主を増やせ」という指示が出ている会社はいらっしゃるでしょうか?「何のために個人株主を増やしたいのか?」を冷静に考えてみてください。社長に聞いてみてください。カゴメのように個人株主=顧客と考えて、個人株主を増やしているのであれば理解できます。しかし、「安定株主に代わる準安定株主として期待したいから」であるなら、新たな安定株主を見つける方がたやすいです。個人株主比率を売出し以外の方法で増やすのは相当困難です。また、売出しで増やしたとしても、比率を維持するのも困難です。鉄道会社の株主構成は特殊なのです。うらやましい株主構成ですが、これを目指すのは相当難しいことですし、不可能ではないかと思います。理由のつく相手先との持ち合いの方がよっぽど簡単です。

 いかがでしょうか?鉄道会社の株主構成分析などあまりご覧になったことはないのではないかと思います。なお、気を付けていただきたいのは、個人株主比率が高いと、買収防衛策などの機関投資家が反対する議案を株主総会で通すのは簡単になるけれども、決して「買収されにくくなる」ということではありません。むしろ逆です。個人株主は株価が上がれば売る株主です。高い値段でTOBがかかれば、応募する株主と考えてください。現に阪神は村上ファンドに買われてしまったのですから。ちなみに、ソレキアも個人株主比率が高い会社でした。

鉄道会社の株主構成分析はけっこうおもしろいと思いますので、次回は鉄道会社の安定株主比率を分析したいと思います。鉄道会社分析はもう少し続けます。

 

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