2017年10月16日

No.188 持ち合い解消137兆円 受け皿の外国人、持株比率3割に

 10月14日(土)の日経に掲載された記事です。「持ち合い解消は、企業が外国人を意識して日本型経営を変革する中で進んだ。」 当たっていません。中には外国人投資家の意見を尊重して持ち合い解消を一部行った会社もあるかもしれませんが、ほとんどは違います。まず、持ち合い解消の大部分は金融機関によるものです。銀行の自己資本比率規制は、自己資本(分子)のリスク・アセット(分母)に対する割合を一定以上に維持することを定めています。だから銀行は株式を減らしておきたいという強いニーズを持っています。持ち合い解消の大部分がこれによる影響と考えてよいでしょう。

 事業会社による持ち合い解消について、記事には「顕著なのが三菱グループだ。キリンホールディングスは過去10年で保有株を簿価ベースで4割削減。」とあります。以下はキリンホールディングスのHPです。

https://www.kirinholdings.co.jp/irinfo/private/global.html

キリンホールディングスって、積極的な海外M&Aをここ10年くらいで展開していますよね?キリンホールディングスの保有株削減は外国人を意識したものではなく、M&A資金のねん出のためと考えた方がしっくりくるのではないでしょうか。なんでもかんでも「外国人を意識!」「ガバナンス改革!」という話ではありません。

 金融機関による持ち合い解消は単に自己資本規制への対応です。事業会社による持ち合い解消は、いろんな背景があります。中には本当に外国人投資家を意識したものもあるのかもしれませんが、大部分が違うと思います。現に記事にも「06年 ライブドア事件。国内で株式持ち合いが一部復活」とあります。いざというときは、事業会社は外国人のことなど意識せずに持ち合いを復活させます。なぜなら会社を守るためだからです。保身ではありません。

 新聞記事はときに経営者の判断を惑わせることがあります。2016年8月18日の日経に「持ち合い解消1兆円、株安でも売却進む 5割の企業が保有削減」という記事があり、その中で「17日には日清食品ホールディングスなど3社が持ち合い関係にある小野薬品工業株の一部を売り出すと発表している。「持ち合い縮小は統治指針に沿った判断で、資本効率の向上につながる」(日清食HD)」とあります。これよく読んでみてください。「持ち合い縮小」ですよね?解消じゃないんです。ちなみに、小野薬品って、米国の投資家ブランデスに株主提案されたことがあります。日清食品HDはスティールパートナーズに株式を保有されていました。両社とも有事を経験した会社と言ってよいでしょう。その会社が持ち合い縮小に動きました。これって、つまりは「過去、有事対応のために増やした持ち合いを縮小する」ということですよね?平時の持ち合い状態に戻す、ということではないでしょうか?両社の株主構成や政策保有株式の状況を調べた上で申し上げている訳ではなく、あくまで推測です。

 機関投資家と面談すれば「持ち合い株をどうするつもりだ?」と聞かれることもあるでしょう。機関投資家がうるさいから売った方がよいのでしょうか?貴社が必要と考えているなら、売る必要などまったくありません。「保有する意味のない持ち合い株など処分すべきだ!」 意味のない株などない。何かしらの目的があるはずです。「いやー、本当に持ち合いで持っただけだから、説明つかんのだわ・・・」 頭をひねれば何か理由が見つかるはずです。そもそも何らかの関係があったから株式を持ち合うまでになったのでしょうから。しかし、いくら考えても理由が見つからないのであれば、それは売りましょう。売って別の意味のある先と持ち合いしましょう。意味のない持ち合いなどありませんし、それは本来してはいけません。新日鐵と住金のような持ち合いなら、ぜひすべきです。

 

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