2017年08月22日

No.151 鉄道会社の安定株主比率は???

 前回のコラムで指摘しましたとおり、鉄道会社の株主構成の特徴は個人株主比率の高さです。では、安定株主比率はどうなっているのでしょうか?分析しやすいように賛成率、外国人、個人、安定株主を並べました。赤枠内が安定株主比率の内訳です。法人株主比率に上位株主として登場する銀行や生損保、従持会などの安定株主と思われる株主の持分比率を足したものです。ちなみに、時価総額上位100社の安定株主比率の平均値は15.69%です。高い企業もあれば、低い企業もあります。

JR東日本やJR東海は時価総額が大きい割に、安定株主比率が高いですね。銀行や生保がまだけっこう持っているようです。JR東海は法人株主比率も高いですね。

JR東日本の株主総会議案の最低賛成率は74%です。安定株主比率は23.69%です。賛成率が低い議案のある会社で、JR東日本よりも安定株主比率が低い会社は以下のとおりです。

東急の安定株主比率はJR東日本とほぼ同水準ですね。しかし、他の会社はJR東日本よりも安定株主比率が大幅に低いです。名鉄に至っては9.29%と10%を割っています。にも関わらず、JR東日本よりも議案の賛成率は高いのです。もちろん、議案の中身の違いはあるでしょう。しかし、東武鉄道や京阪、南海などはJR東日本よりも賛成率が10%も高いです。こんなに安定株主比率が低いのに。一般的に見てもかなり低い水準です。個人株主比率が低かったら、賛成率は60%台になっていたかもしれません。B to Cだから持ち合いがしにくいのでしょうか。

この賛成率を見ると、株主総会議案が否決されてしまうかもしれない時代における個人株主の重要性をあらためて認識しますね。しかし、この恵まれた株主構成なのに、近鉄はなぜ買収防衛策を廃止してしまったのでしょうか。安定株主比率は12.55%です。公募増資をしたから、安定株主比率も低下し、外国人株主比率が上昇したから、「買収防衛策は否決されるかもしれない」と考えてしまったのでしょうか。だとすると、公募増資を引き受けた証券会社の説明不足でしょう。もしくは自信を持って説明できなかったかです。公募増資をする際に、どの会社も安定株主比率の低下については検討すると思われます。当然、近鉄だって意識したでしょう。でも、なぜ廃止したのか?公募増資の際に外国人投資家から「買収防衛策を廃止しろ」と言われたのかもしれません。ただ、本当に必要なら廃止しません。総会で否決されるかもしれないと考えてしまったのかもしれませんが、川崎汽船とは異なり近鉄の株主構成なら絶対に否決されません。

なぜ近鉄の買収防衛策廃止に対して批判するかと言うと、買収されるかもしれない業界だからです。現に阪神は買収されました。そして阪急と経営統合しました。阪神が望んでいたのかどうかはわかりませんが、阪神は阪急に頭を下げたのではないでしょうか?「村上ファンドに買われて困っています。どうか当社を助けていただきたい」と。そういう状況においては阪神にとって統合交渉は不利です。なぜなら阪急に助けてもらうからです。「わかりました。助けましょう。ただし、こちらの都合を聞いてもらいますからね」と。

いざ、というときに買収防衛策があるのとないのとでは大違いです。あれば大量に株式を取得されることはなかったでしょうし(阪神のときはまだ買収防衛策が普及していなかったと思われますが)、ある程度買われて第三者に助けを求める場合でも、足元を見られることは少なくなるかもしれませんし。そういう意味でも買収防衛策は交渉ツールになり得るのです。

ところで近鉄はアクティビスト・ファンドに狙われる可能性はないのでしょうか?それはわかりません。上場している以上、そのリスクは等しくあるでしょう。では、近鉄の上場子会社の近畿車輛の大株主を見てみましょう。

 ゴールドマンサックスインターナショナル、立花証券、ロイヤバンクオブカナダ・・・エフィッシモに買われていますね。大量保有報告書を見ると、エフィッシモが9.7%取得しています。

近鉄さん自身は大丈夫でしょうか。個人株主比率は高いけど、安定株主比率は低いので大量に買われる可能性があります。近鉄の時価総額は7,988億円です。大きいでしょうか?小さいでしょうか?評価はいろいろあるでしょうが、間違いなくエフィッシモの投資対象になり得ます。買収防衛策を廃止してしまいましたから、防衛手段は限られます。近鉄の株を買って「近鉄さん、なんで近畿車輛を完全子会社化しないのですか?」と迫ってくることも考えられますね。いずれにしろ、エフィッシモの頭の中に近鉄はいるはずです。

株主総会を通せるかどうかは、単純に安定株主比率の高低だけで決まるものではありません。会社ごとに株主構成は特徴があります。安定株主比率が低くても可決させられるケースもありますし、一方で、そこそこの安定株主比率を確保しているのに否決されるケースもあります。その読みを誤ってしまうと、とんでもない経営判断をしてしまうことがあります。近鉄の株主にエフィッシモが現れたらどうでしょうか?「買収防衛策を廃止するんじゃなかった。うちの株主構成なら可決できていたのに・・・」です。自社の株主構成をきちんと分析していないと、取り返しのつかないことになるリスクもあるのです。

 

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