2016年09月21日

No.1 長期保有株主など 7コラム

■長期保有株主
「短期売買の投資家ではなくて、長期保有の投資家に持ってもらいたい」という発言を経営者からよく聞きます。2016年8月26日の日経2面にも「企業は長期株主づくりへ毅然と経営語れ」という記事がありました。
なぜそんなに長期保有してもらいたいのでしょうか。短期であろうと、長期であろうと、必要があれば株主は経営者に株主総会やIRの場で、モノを申します。経営改善に必要なことを実行しろと迫ります。
ちなみに、アクティビストファンドは短期的な利益を追求する株主のように捉えられがちですが、エフィッシモなんて、銘柄によっては何年も保有し続けています。エフィッシモも長期保有です。では、経営者にエフィッシモに株式を持ってもらったらどうです?長期保有しますよ、と言ったら「冗談はやめてくれ」とおっしゃるでしょう。にも関わらず、経営者はなぜ長期保有してもらいたいのでしょうか?
たぶん、勘違いです。短期売買の投資家=アクティビストファンド・デイトレーダー、長期志向の投資家=グロース・経営者を支持する良心的な個人投資家、などといった図式が経営者の頭の中になんとなく浮かんでいるのではないでしょうか?短期=モノ言う株主、というイメージがあるからかもしれません。
誤解です。アクティビストファンドもけっこう長期保有します。逆に、よく証券会社の方がおっしゃる「優良な個人投資家」というのも、数%株価が上がったら、速攻で売却することがあります。長期保有する理由は、乱暴に言ってしまうと、2つあります。
1つ目は、その会社が長期的に成長していくだろう、どんどん配当を出し続けてくれるだろうと投資家が考える場合。手数料を払って売買して利益を出すより、持ち続けた方が得ですから。「毎年増配してくれる会社だ」などと思ってもらえれば、長期保有してくれるかもしれません。
2つ目は、売るに売れなくなってしまった場合。上がるだろうと思って1,000円で買った株が、その後、業績が悪化し、株価が下がっていったとき、投資家は売るに売れなくなります。もちろん、賢い投資家であれば見切りをつけて損切りするでしょうが、それをできない投資家がいます。この場合、悪い意味で長期保有することになります。損切りするにも額が大きくなってしまい、持ち続けざるを得なくなってしまった。つまり、「塩漬け状態」です。
長期保有してもらったところで、会社にメリットなんて特にありません。それよりも、どんどん売買してもらったほうがよいと思います。株価が上がったら売ってもうけてもらい、下がった時にはまた買ってもらう。ほら、結果的には継続して株式を保有はしないものの、下がった時には戻ってきてくれる株主になってくれます。ある意味、長期で貴社の株価を見続けてくれる株主ですね。投資家自身の「頭の中にあるポートフォリオ」にいつまでも組み入れてもらうことが重要です。

■長期投資家を探す企業へ???
「ゴールドマンサックス証券は最近、持ち合い解消後の株主候補として欧米の年金などを仲介する事業を始め、説明会も各地で開く」「外国人はこわもての物言う株主だけではないし、戦略に納得すれば味方にもなる」
日本経済新聞「揺れる企業統治㊦」に記載されている内容を少し抜粋しました。
まあ、外資系証券会社はそう言うでしょうね。国内証券会社であれば「個人投資家に持ってもらいましょう」と言います。真逆でおもしろいですね。
「外国人はこわもての物言う株主だけではないし、戦略に納得すれば味方にもなる」については、そりゃそうです。こわもての株主であっても、戦略に納得すれば味方になってくれますよ。
ようは証券会社としては持ち合い解消に絡んだビジネスで稼ぎたい、外資は個人顧客網が国内証券に比べて手薄だから外国人投資家に持ってもらいましょう、と言い、個人顧客網を構築している国内証券会社は個人投資家に持ってもらいましょう、と言う。どちらも、証券会社の利益になる方向に持っていこうとするのでしょう。
では、どっちがよいのか?株主総会運営を考えると、やっぱり、個人株主でしょうね。個人株主は議決権行使をしない、もしくは、したとしても白紙で返送してくれる株主が多いから、です。さらに言うと、外国人投資家は黙っていても安ければ買います。個人株主と違って、外国人投資家は「銘柄探索能力」を持っています。だって、プロですから。
だとすると、黙っていても外国人は安ければ買うのだから、持ち合い解消が避けられないのであれば、増やしにくい個人に持ってもらうほうが得策のように思います。
ただし、個人株主は株価が上がれば売却する、と考えておいたほうがよいです。よく「個人にファン株主になってもらいましょう。ファン株主は敵対的TOBがかかったときも売りませんよ」ということをおっしゃる証券マンがまだいます(私は言ったことありません)。個人株主=買収防衛、ということです。これ、違います。過去、スティールパートナーズに敵対的買収を仕掛けられたブルドックソースのケースでは、個人株主もほとんど応募しませんでした。このようなケースをもって、個人株主=買収防衛に役立つ、と思うのは間違っています。株価が上がれば基本的には売る株主です。個人株主比率は、株価上昇局面で低下し、下落局面で上昇します。
「じゃあ、株主構成なんて考えてもムダということ?」と思われるかもしれません。が、現時点の株主構成が何を意味しているのか、この株主構成だと株主総会でどういうことが起きるリスクがあるのか、買収リスクはどうなっているんだ、などということを考えるための重要な材料です。株主構成をコントロールするのはかなり難しいものの、株主構成から得られるインプリケーションを常に考えおくことが必要です。

■買収防衛策の必要性
やっぱり、必要なんじゃないでしょうか?と思う今日この頃です。なぜか???廃止しちゃうと20%以上買われちゃうんです。いや、当然、買収防衛策では、徹底的に買収提案を排除することはかなり難しいです。でも、やっぱり、あるのとないのとではハードルが違うんです。
20%程度の株式であれば、取得されたところで、さほど経営に大きな影響をおよぼしません。いや、大きいといえば大きい持分なのですが、日本の会社はある程度安定株主がまだいます。20%持たれてしまうと、かなりその株主を意識しないわけにはいかなくなるのですが、株主総会はまだ問題なくやり過ごせます。
これが、30%を超えてしまうと、かなりやっかいです。今年の株主総会を見ると、社長の選任議案の賛成率が50%台、という会社がいくつかありました。有名なところだと、今話題になっている出光興産です。昭和シェルとの経営統合を反対している創業家が社長の選任議案に反対した結果、出光興産の社長の賛成率は52%と、あわや否決!という水準でした。平時は安定株主であった創業家も、経営戦略でもめてしまうと、あっという間に非安定株主になってしまいます。
やっぱり、特定の安定株主がいるよりも、ちょっとずつ持ってくれる安定株主がたくさんいるほうがいいのでしょうね。話が少しそれました。買収防衛策って必要なんじゃないか?
川崎汽船さんって、去年、買収防衛策を廃止しちゃったんですねえ。いろんな背景や理由があっての廃止でしょう。本当は入れておきたいと思ってらっしゃったのかもしれませんが、そもそも外国人株主比率が高い会社ですし、ISSは防衛策に反対するでしょうし・・・もしかしたら、社長の選任議案にも悪影響を与えるかもしれないし・・・
でも、なんとかして入れ続けておいたほうがよかったのかも・・・少なくともエフィッシモに37%取得されることはなかったかもしれません。「株主総会で否決されたら継続できないだろ?」と言われるかもしれません。もしかしたら川崎汽船もいろんなアドバイザーに相談した結果、仕方なく廃止したのかもしれません。
しかし、そこはいろいろとアタマをひねれば策があるんです。
■持ち合い解消、1兆円超す
3月決算の上場企業が、2016/3期末までの1年間で持ち合い株式を1兆円強削減したそうです。2016/08/19日本経済新聞に掲載されています。三菱グループなどが積極的に持ち合い解消を行ったようです。
まあ、印象としては、三菱、三井、住友の中では特に三菱が持ち合いが多かったように思いますので、動きとしては三菱グループが大きくなってしまうのでしょう。
小野薬品の株式売出しも新聞に出ていました。日清食品HDや第一三共、愛知銀行が売出し人です。かつて、小野薬品はブランデスという機関投資家に株主提案をされ、日清食品HDはスティールパートナーズに株式を保有され、第一三共は三共と第一の統合時に村上ファンドが三共株式を保有していました。かつてアクティビストと呼ばれた投資家に株式を保有された企業ですら、持ち合い解消に動いています。
「よし!うちも経営の効率化をしなくてはならん!持ち合いなんて解消しないと、時代遅れの経営になってしまうぞ!」と考えて、持ち合い解消に拙速に動いてよいのでしょうか?ちょっと疑問があります。
ここからの話は想像ですが、三菱グループって、もともと、持ち合いが強固だった訳ですよね?他の財閥系に比べて、持ち合いが多かった、だから少しは解消しておかないと、というふうに考えたから、ある程度持ち合い解消をした、と捉えることはできないでしょうか?
また、上記企業が該当するというわけではありませんが、かつて、アクティビストに株式を保有され、株主提案などされた会社は、あくまで一般論としてですが、持ち合い強化に動いたということはないでしょうか?アクティビスト対策として、それまで以上に持ち合いを強化した、他のアクティビストに保有されている企業などと手を組みお互いの株式を持ち合い、それまで以上に安定株主を確保した、と・・・・これらの会社が持ち合い解消をするということは、有事に確保した緊急時の安定株主を、有事じゃなくなったから、平時の状態に戻した(解消した)、ということではないでしょうか?
となると、アクティビストに株式を保有されたことなどなく、普通に経営し、まあ、普通に持ち合いしてきた企業って、持ち合い解消を積極的に進めて大丈夫なのでしょうか?
自社の安定株主って考えたことありますか?経験に基づく推測にすぎませんが、普通の上場企業だと、25%~30%程度の安定株主を確保していると思います。それくらいの安定株主がいると、だいたい、普通決議は安心できます。まず否決されることはありません。特別決議になると、議案によりけりですが、まあ大丈夫でしょう。ただ、安定株主が20%前後になると、ちょっと厳しいです。例えば、買収防衛策を導入していた企業が、安定株主が減少したことで買収防衛策を廃止するケースでは、イメージとして安定株主が20%前後まで低下している場合が多い感じがします。
次善の策を講じずに拙速に持ち合い解消してしまうと、とんでもない事態が待ち受けているかもしれません。
 ■日本で敵対的TOBは成功しない?
よく言われることですが、「日本で敵対的TOBを成功させるのは難しい」ということ。本当にそうでしょうか?
「今まで、日本企業に対する敵対的TOBは成功したケースがない」
敵対的「TOB」は確かに成功したことはないです。ただ、敵対的「買収」は成功したケースはあります。もちろん、「敵対的!」とは報道されていませんし、買われた会社も「敵対的だ!」とは言っていません。ただ、冷静に見ると、「これって、敵対的買収じゃないの?」というケースはあります。
急激に市場で株式を取得され、ふたを開けてみたら40%も買われていたというケースです。40%も買われたときに気づいても、どうしようもないです。気付いたときに「これって敵対的買収なんです!うちはこの会社の傘下になんか入りたくないんです!」と言っても、ムダ。ムダというか、40%買われた時点でそんなこと言おうもんなら、買われた会社の役員さん、みんなクビになっちゃいますから。黙っているしかありません。
だから、本当は敵対的買収であったとしても、みんな「敵対的です!」などとは言えません。「いやいや、そんなの稀なケースでしょ?」と思うかもしれませんし、「そんなに急激に買ったのだったら、けっこう高くついたんじゃない?」と思うかもしれません。確かに、その会社の株価は倍くらいに跳ね上がりました。
「倍だしてまで買うなんて、経済合理性あんの?さすがにうちの会社を倍の値段で買おうなんていう会社やファンドはいないでしょ?」という意見があるかもしれません。
でも、今の日本の会社って、けっこうPBR1倍割れしてますよね?貴社の株価はどうですか?「この会社を傘下に欲しい」と本気で考えている買収者だったら、倍出しても構わない、と思うかもしれませんよ。
「まともな経営者はさすがに倍出して買おうなんて思わないでしょ?」という意見もあるかもしれません。2008年に東洋電機製造という会社に対して買収提案がなされました。買収防衛策を導入している会社なので、防衛策のルールに則って提案されたというケースです。提案価格は635円です。ちなみに、提案前の東洋電機製造の株価は305円でした。ほぼ倍の価格を提示しました。
その買収を提案したのは、日本電産です。永守社長。非常にまともで評価の高い経営者ですよね?結果的には、永守社長は東洋電機製造の買収を断念しました。ざっくり言うと、経営方針が合わないから、だそうです。その後、東洋電機製造は中国からの受注が増加したことなどにより、株価は900円程度まで上昇しました。株主の皆さんは635円で売らなくてよかったですね。また、東洋電機製造の経営陣は非常に賢明な対応をされましたよね。
ただ、なにより永守社長、見る目ありますねえ。倍出しても安いと思ったのは正しかったのですから。まともな経営者は会社の適切な価値を見抜きます。
ちなみに、敵対的「TOB」は成功したことないの?と思われるかもしれません。見方や切り口を変えると、実は敵対的「TOB」も成功しているのです。

■なぜ日本企業が買収防衛策を廃止するのか?
「TOB制度の改正で時間と情報が確保できるようになり、買収防衛策の必要性がなくなったから」としている会社が多いですね。
買収防衛策って、自社に対して買収提案を行う際には、あらかじめ定めたルールに則って行ってください、買収提案の詳細について情報開示してください、こちらから質問しますから答えてください、もらった情報を検討する時間をください、といったものです。
昔のTOB制度では、TOB期間は20日~60日でしたが、ルール改正により20営業日~60営業日になり、買収の対象となった会社から買収者に対して質問する権利が与えられました(ほかにも改正された点はありますが、ここでは説明を省きます)。
ちなみに、このTOBルールの改正は2006年12月だったと思います。けっこう前です。でも、買収防衛策を廃止した会社でおもしろいのが、2006年12月以降に買収防衛策を導入したにも関わらず、「TOBルールが改正されて~」という点を買収防衛策廃止の理由にしていることです。「ん?あなたの会社が買収防衛策を導入した時点で、すでにルールは改正されてましたよ!」ってことです。まあ、そういう理由にするしかないんでしょうね。
実際の理由はいくつかあると思います。例えば、安定株主を確保したので買収防衛策は必要なくなった。持ち合いなどにより安定株主をけっこう確保できたので、買収防衛策はいらなくなったから廃止してしまおう、という理由。あとは、逆に、買収防衛策に反対することが多い外国人株主が増えてしまい、継続を株主総会にはかっても否決されてしまう可能性が高くなり廃止したケース。やむなく廃止、ですね。また、「顧問弁護士に相談したら、廃止している会社も増えてますね、と言われたので廃止した」とか「そもそもなんで買収防衛策を導入したんだっけ?流行ってたからか?もういらないよね」とか。
買収防衛策を導入しているみなさん、廃止すべきかどうかは、「適切なアドバイザー」にご相談することをおすすめします。「株主総会で否決されるかもしれない」という相談に対して、「だとすると厳しいですね」「うーん、確かに票読みすると厳しいですね」程度の回答しかできないアドバイザーには相談しないほうがいいです。

■今さら買収防衛策って恥ずかしくない?
恥ずかしくないですよ。まあ、「今さら」と感じてしまうのは仕方がありませんよね。でも、今導入する会社って、私からすると「お、すごい会社だなあ」と思います。
去年の話ですが、カプコンさん。一度否決された買収防衛策を、翌年の株主総会で再度議案としてはかり、可決させた。ものすごい信念ですよね。普通、「ああ、外人増えすぎたから、防衛策は否決されるリスクが高いよねえ。廃止するか?」と考えて廃止する会社の方が圧倒的に多いです。その他、株主総会直前で議案を取り下げたり。
まあ、わからんでもないです。だって、否決されたら、それこそ責任問題ですもの。通常、株主総会議案が否決されるなんてあり得ませんからねえ。
考えてみてください。一昔前であれば、株主総会で議案が否決されるなんてあり得なかったんです。でも、今や否決される時代です。川崎汽船なんて、このままエフィッシモの持分比率が上昇していったら、過半数近くになってしまうこともあり得ますし。そうなると、社長選任議案が否決されるかもしれません。考えられない時代ですよね。
あれ?昔に比べて、どんどん株主総会議案を通すことが難しくなっているということですよね?なんでか?安定株主が減っているということですよね?
そうです。昔に比べて安定株主が減り、株主総会で議案が否決される時代になり、そして、買収されやすい株主構成になっている、ということです。
なんで買収防衛策入れないんですか?だって、昔に比べて、各段に買収リスク高まっているじゃないですか?ようやく買収防衛策の機能を発揮するときが来たわけです。
安定株主による企業防衛が立ち行かなくなった今こそ、買収防衛策を正々堂々と入れるべきですし、継続すべきです。
「継続したくても否決されるかもしれない。アドバイザーに票読みさせても、微妙です、としか答えてくれない。事務局としては責任もてない。」
そんなアドバイザーはアドバイザーではありません。票読みなんて、誰でもできます。票読み以上のアドバイスをすることにアドバイザーの存在意義があります。株主総会で否決されそうなのであれば・・・・違う方法を考えればよいだけです。

 

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