2017年10月06日

No.183 これからはまともな反論が必要です

以下の図は、縦軸が時価総額、横軸が安定株主比率です。貴社は①~④のどこに位置付けられるでしょうか?

この図はコラムNo.39で使ったものです。今まで日本で敵対的TOBを仕掛けられた会社は、だいたい③か④に位置付けられる会社であると考えます。もしくは③と④の中間くらいに位置する会社と言った方が正しいかもしれません。では、敵対的TOBを仕掛けられたときの反論ポイントを検討しましょう。

 TOBを仕掛けられたときに最も重要な反論ポイントは何でしょうか?無論、TOB価格です。買収者は対象会社の取締役会に対して「合併しましょう」と提案しているのではないのです。合併しましょうという提案であれば、対象会社の取締役会を説得しないと実現しません。取締役会が納得しなければ、合併議案を総会にはかることはできませんから。しかし、TOBは対象会社の取締役会に提案している訳ではありません。対象会社の株主に対して提案しているのです。ですから、突き詰めれば、買収目的や買収者の属性など関係ないのです。特に100%買収であれば、株主は株式を売却してしまえば、会社との関係は全くなくなります。売却後に会社がどうなろうと知ったことではないです。ですから、「いったいいくらで買ってくれるんだ?」という点が最も重要なのです。

 にも関わらず、ソレキアは以下のような反論をし、TOB価格が高いのか安いのかについて一切言及しませんでした。※ソレキアの場合、買取株数に上限が付いていましたので、買収後のシナジーなどに関して反論することも重要ですが、それにしても、TOB価格に対して言及がないというのはおかしいです。

 佐々木ベジは当社の事業内容をよくわかっていないし、経営施策は短期的視点だし、オレ達に何も言わずにいきなり敵対的TOBを仕掛けてくるような無礼者だから、TOBには反対します!と言っています。これって、株主の心に響きますかね?響く訳がありませんね。本来なら、佐々木ベジのTOB価格は市場株価にはプレミアムが付されているものの、当社の中長期的な企業価値と比べたら割安な水準であるし、当社は今後、●、▲、■などの経営施策を実行し、さらに価値を高めていくつもりである、だから、佐々木ベジのTOBに応募することは中長期的に考えたら損である、と主張しなくてはなりません。しかも、TOB価格に言及しない反論は、安定株主にとっても迷惑な話なのです。皆さんが株を持っている先に敵対的TOBが仕掛けられ、このような価格に言及しない感情的な反論をされたらどうでしょうか?もちろん、安定株主だから敵対的TOBには応募しないという前提です。皆さんの株主構成と株主総会を想像してみてください。外国人株主からIRの場で「貴社はもちろん応募したのでしょうね?まさかあのような反対意見に納得して応募しなかった訳ではないですよね?」と聞かれたら?株主総会の場で「あんなに高いTOB価格なのに応募しなかったのか?」と指摘されたら?これが、対象会社の経営陣がきちんと「TOB価格は安い」と主張してくれていたら、「対象会社の経営陣も安いと主張している」と反論できます。感情的な反対意見だけ述べられると、皆さんにとってもいい迷惑なのです。

 でも、どうしてこのような感情的な反論をしてしまい、TOB価格に言及しないのでしょうか?TOB価格に言及しない理由として、「TOB価格に争点が集中すると、TOB価格を引き上げられると反論し難くなるから」という点があります。また、今まで株価を割安な状態に放置していた取締役の責任を問われるから、というのもあるでしょう。また、安定株主比率が高いから感情的な反論をしても許される、安定株主比率が高いから所詮敵対的TOBなど成功しない、と考えているからでしょう。

 しかし、このような反論は安定株主比率が低く、外国人株主比率が高い①に位置付けられる会社はできません。①に位置付けられる会社に対しては、今後何年かしたら敵対的TOBを仕掛けられ、成功してしまうケースが出てくると思います。そもそも敵対的TOBなんて誰もやりたくありません。デューディリして買収価格を決める訳でもなく、敵対的TOBだからプレミアムを高めにつけるでしょう。アドバイザリーフィーも高いです。敵対的TOBってコストがかかるんですよ。だから、本当は規模の小さい会社をターゲットにしても、割に合わないのです。やるんだったらデカい先じゃないと。海外の会社が日本の会社をターゲットにする場合、当然、規模の大きい先になるでしょう。規模の大きい①の会社は、当然ですがTOB価格が安いのか高いのかをはっきりさせないと、株主にそっぽを向かれ、敵対的TOBに応募されてしまいます。

 ちなみに④の会社も、これからはTOB価格に言及しないで感情的に反論する戦法は取れなくなります。なぜなら、安定株主比率が相当高くないと買われてしまうということがソレキアのおかげでわかったからです。

 貴社のことを本当に知ってもらい、いざ有事になったときに株式を売却しないでいてもらうためには、IRも重要になってきます。表面的なIRではなく、戦略的IRです。「上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである」(コーポレートガバナンス・コード基本原則5) 言われなくてもわかっとる!という内容ですね。貴社の誰を機関投資家の誰に合わせて、どういう話をさせるか?市場価格に●%のプレミアムを付したTOBを仕掛けられた場合であっても「あの会社を●円で買収?安すぎるだろ?」と投資家に思ってもらうためには、普段からどう行動しておくかもとても重要になってきます。単に会社の財務や今後の計画を伝えるだけであれば、財務部や経営企画部が行えば十分です。IRという専属部隊を設置している会社も最近では多いと思います。IR部隊の仕事は個人投資家向け説明会や社長の海外IRを設定することが仕事ではありません。会社の真の価値を伝えるために普段からどう動くか?これこそ、IR部隊の腕の見せ所なのです。いっそのこと「うちに敵対的TOBが仕掛けられたとして、いくらなら適正価格だと思うか?」と聞いてみるのもおもしろいかもしれません。答えてくれるかどうかはわかりませんが、きっとディスカッションが盛り上がることでしょう。本当は貴社のことをどう見ているのか把握することができるかもしれませんね。

 ただし、普段のIR活動だけで会社の真の価値を伝えるには限界があるでしょう。であれば、有事において貴社の真の価値を知ってもらうための時間と情報を確保するための買収防衛策もやはり必要だということです。買収防衛策とは、むやみやたらに時間と情報を経営陣のために確保する術ではありません。なるべく安く買おうとする買収者に対して、本当の価値はそんなもんじゃないと株主に知ってもらい、買収価格を交渉したり、TOB価格を引き上げたりするための術でもあるのです。

こう考えると買収防衛策は経営者の保身ではなく株主のための施策ですよね。日本で考案された事前警告型買収防衛策は会社規模の大小を問わずに必要であると私は考えます。米国企業だって導入すればよいのに・・・。

 

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