2017年10月25日

No.195 ますます高まる社外役員の重要性

昨日の商事法務ポータルに中村・角田・松本法律事務所の中村直人弁護士が出光の公募増資差止請求仮処分事件の地裁及び高裁の決定文に関する論点を指摘していますので、主な内容をご紹介します。私はとてもおもしろいと思いました。

・主要目的ルールでは、「不当な目的」による新株発行は「著しく不公正な方法」であるとされる。そして支配権獲得・確保目的は、不当な目的であるとされる。

・経営陣側は、特段の支配権を有しているわけではないし、それを獲得しようとして自分達のグループに割当をしたわけでもない。その意味では、支配権獲得争いではなく、事の本質は、昭和シェルとの統合をすべきかどうかという争いである。

・主要目的ルールは、適切な目的と不当な目的が同居する場合、どちらが主要な目的であるかによって、著しく不公正かを判別する。債権者側で、不当な目的が主要であることを疎明する。本件では、決定は、会社側が戦略投資として主張した10件の投資資金の使途について、いずれも必要性・合理性に疑問が残るとし、しかし昭和シェル株式取得のための借入金の一部を返済する目的については、これを認めた。

・ブリッジ・ローンを劣後ローンに切り替える予定であったものが、統合が不透明化したことによって調達に支障が出ていたという(一般的な財務体質の改善の必要性だけで調達目的を認めたわけではない)。そしてどちらが主要であるかについては、方法が公募増資であることや、直ちに株主総会を招集する可能性が高いとはいえないこと、借入金の返済期が迫っていることなどから、主要な目的が自らを有利な立場に置くことと断ずるに足りる証拠はないとした。

・主要目的ルールは、いつもこの問題に逢着する。どちらが「主要」であるかなど、本人が自白でもしない限り疎明できることはほとんどない。

・これらの判示は、今の時代にあっては、新しい問題を引き起こす可能性がある。主要な目的が本当は何であるか、社内の人間はもちろん知っている。このような場合、社外役員はどのような立ち位置にいるのであろうか。本件でも、創業家が統合に反対して以降、どうすればよいか社内でいろいろ検討したであろうし、社外役員もその内容を聞いていたかも知れない。社外役員は、どうすればよいのであろうか。

 私がおもしろいと思ったのは最後に示した部分です。どちらが主要な目的なのかは結局本人しかわからない、でも社外役員は議論の過程を知っていたよね?どうすんの?

どうするんでしょうか?本当はどっちが主要な目的なのかは、社内議論に参加してきた社外取締役は知っているはずです。取締役の善管注意義務・忠実義務上、どうすればよいのか?難しい問題ですね。

 「そうだね。でもうちの会社で出光興産と同じようなことは起きないよ」 ま、確かにそうです。出光興産のような株主構成は特殊かもしれませんし、発行差止請求がされることなんて、普通の会社ではまずないでしょう。でも、ちょっと話は変わりますが、株主提案がなされることは大いにあり得ます。今後、社外取締役の重要性が高まっていく中、社外取締役が自身の責任やリスクを考えて行動しだしたらどうなるでしょうか?貴社がアクティビストに大幅増配や自社株買いの株主提案をなされたとき、貴社としては反対のスタンスで「では全員一致で株主提案には反対ということで・・・」と取締役会を取り仕切ろうとしても、社外取締役が「いや、ちょっと待ってください。私はこの提案は株主にとってよい提案であると思います。皆さんが反対であっても私は賛成します。ですから、プレスリリースや招集通知には、私は株主提案に賛成した旨明記してください。」と言われたら?敵対的TOBだってどの会社にも起きうることです。そのときに「敵対的だからと言って反対してよいものでしょうか?そもそもこのTOBは株主にとってはメリットのあるものですし、前向きに考えるべきです」と言われてしまったら?

 今後、社外取締役の人選はますます重要になります。まともに機能するようになると考えればよいことなのかもしれませんが、会社が振り回されてしまうことだってあります。良いか悪いかは別として、社外取締役が経営者をクビにしてしまったケースも日本で発生しました。私はあの件に対してはネガティブな考え方です。社外取締役は本当に会社の実情をわかっていたのか?教科書的な意見を述べていないか?実績のある経営者の考えを否定してクビに追い込むようなことをしてよかったのか?と。

東芝については昨日のコラムで意見を書きましたが、東芝の社外取締役は本来、あの状態の東芝に対して「本当に東芝出身者が中心となって今回の件に対応できるのか?」と問題提起すべきだったと思っています(したのかもしれませんけど)。特に指名委員会の委員の方。粉飾決算(と書いていいのかどうかわかりませんがあえて書きます)をした東芝に対して、銀行は強硬姿勢でしょう。ウソをついていたのですから当然です。その強硬姿勢の銀行に対して、粉飾決算をした東芝の経営陣がまともに交渉できるでしょうか?本当は野村證券が提案したプランBがよいと思ったとしても、確かに銀行に一蹴されるでしょう。負い目がありますから、銀行のスタンスに従わざるを得ません。でも、今の東芝に外部の人材を取締役会長に据えて対応したらどうでしょうか?もっと違った結果になっていたかもしれません。東芝の社外取締役は「綱川社長、本当に今後の企業価値・株主価値の向上を考えて銀行やほかのステークホルダーと交渉できますか?現実的にはムリです。外部の方に会長になってもらい対応すべきです」と物申すべきだったのではないでしょうか。半導体部門だって売らずに済んだかもしれません。

社外取締役が本当に機能すべき場面は、会社のいろいろな有事においてであると私は考えます(当然有事にならないようにするのも社外取締役の仕事の一つですが)。本来、いろんな意味で社外取締役の責任は重いのです。社外取締役の仕事はアドバイザリーボードとは違うのですから。

 

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