2017年07月13日

No.129 出光興産の件~差止めよりも気になるのは募集方法です~

 争点は「本件公募増資が創業家の持株比率を引き下げることを目的に行われるものか否か」であると考えます。そう考えると、公募増資は差し止められないと考えます。なぜならば、当然、本件により創業家の持株比率が引き下げられてしまい、出光経営陣と創業家でもめている昭和シェルとの経営統合議案の賛否に影響を与えることは一目瞭然であり、出光経営陣が創業家の影響力を低下させることを目的として本件を実施したことは完全には否定できないものの、出光興産の財務体質を勘案すると、創業家の影響力を低下させることのみが本件の目的ではないと考えられるからです。つまり、確かに出光経営陣は創業家の持株比率を引き下げたかったのだろうけれど、公募増資の目的はそれだけではなく、出光興産の財務体質を考えると、借入金を返済し財務体質を強化すると言う目的は一定の合理性があると判断されると考えます。

 本件は、昭和シェルとの合併議案を通すことが目的ではない、などと言っても誰も信じないでしょう。当然、透けて見えます。透け透けです。ただし、本件は確かに目的が透けて見えるのですが、創業家の持株比率を下げることだけが目的ではありません。出光興産の財務体質を考えれば、公募増資を選択することは経営判断として十分合理的だと考えます。そもそも出光興産が上場したのは有利子負債の多さに耐えきれなくなったからとも言われています。裁判所の判断は「昭和シェル石油との合併を巡り、創業家と対立する状況における公募増資の選択に関しては、創業家の影響力を低下させることが目的の一部であると推察できる。しかし、出光興産の財務の状況を考えれば、有利子負債を削減したいという経営陣の判断は十分合理的であると判断できる。」であると考えます。どこかの弁護士さんが「経営陣への賛成比率が高まったことは昭和シェルとの合併を多くの株主が支持した証左だ」と言っているみたいですが、合併は特別決議ですので、昨年よりも多くの株主が支持したところで、特別決議が取れなければ意味がありません。創業家以外の株主は賛成している!という主張はナンセンスです。会社法は合併に特別決議を求めているのですから。出光側は昭和シェルの件は論点としてあげないでしょう。(透け透けだけど)全く無関係と主張するのではないでしょうか。

 しかし、今回の公募増資については、私は募集方法をミスしたのではないかと考えます。発行済株式総数の約3割に相当する4,800万株を発行する予定ですが、国内で3,360万株、海外で1,440万株を募集するそうです。これ、大丈夫でしょうか?大和とJPモルガンが争ったのでしょうか?私は、現在の安定株主が低下していく世の中であれば個人投資家を増やした方がよいと常にアドバイスしてきました。しかし出光興産は状況が違います。創業家の持株比率を低下させると言っても、33.92%が約26%程度に低下する程度です。今回の公募増資の募集は国内のほうが多いのですが、これって国内の個人投資家がメインになりますよね?個人投資家って議決権行使しませんよね?今年の株主総会の出光興産の議決権行使率は、90.5%でした。個人投資家が増えると議決権行使率は低下します。仮に80%に低下したとしたら、創業家の約26%の持分は行使率を勘案すると32.5%相当です。けっこう危なくないですか?今回は議決権行使をする可能性が非常に高い海外機関投資家や国内機関投資家を中心に販売した方がよいと思います。議決権行使をしない可能性の高い国内個人投資家はいっそのことゼロでも構わないと思います。議決権行使率が低下すると創業家の影響力がそれほど低下せず、合併議案に厳しい事態が発生することも想定されます。まあ極端にやってしてしまうと、差し止め請求に対する裁判所判断に影響を与えてしまいそうですが。

 

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