2017年07月24日

No.135 まだまだ危険な出光興産

 出光興産の公募増資に対する創業家の発行差止請求が却下されました。創業家は東京高裁に即時抗告するも棄却されました。出光創業家のホームページに地裁と高裁の決定書の「事実及び理由」を抜粋したものが掲載されています。http://idemitsu-rinen.jp/

 これを見ると、やはり裁判所は「支配権を巡る争いにおいて出光経営陣が自らを有利な立場におくとの目的が存すると一応認められるが、資金調達の必要性・合理性はあるものと一応認められる」と判断したようです。

 上記ホームページの決定書の抜粋を見ていただくとわかるのですが、創業家の代理人弁護士が決定書にマーカを引いています。まあ、創業家にとって有利な決定内容の部分に引いたものです。例えば、支配権争いにおいて経営陣が有利な立場に置くためのものである、といったところや、資金使途のうち説明が不十分なところ、などです。しかし、最も気になるマーカは裁判所の判断のうち「本件新株発行後,直ちに株主総会が開催され,昭和シェルとの合併が議題になることをうかがわせる疎明資料がないこと」というところです。裁判所が「公募増資後、即座に昭和シェルと合併することを計画している訳ではない」という点も考慮したことを強調しています。

 これは何を意味しているのでしょうか?私は、創業家と弁護士は何らかの対抗策を考えているのではないかと思っています。創業家の持株比率は33.92%から最大で26.09%まで低下するそうです。公募増資後においても33.92%を維持するためには、470億円の資金が必要だそうです。470億円ですか・・・いくら出光創業家がお金持ちであっても、なかなか個人で470億円を用意するのはしんどいですね。裁判所の決定書においても「債権者日章興産,同文化福祉財団及び同美術館の流動資産及び現預金は,公表されている資料によれば約98億円であり,これと上記約470億円の資金との差額を準備することは,個人にとっても法人にとっても通常困難又は不可能であること」という記載があります。

 470億円を個人で用意するのはしんどいですよねえ・・・個人では。さて、出光創業家の個人的な人脈を皆さんご存知でしょうか?私は知りません。皆さんも知らないのではないでしょうか?出光創業家に金を出す人はいるでしょうか?いるのではないでしょうか。イランとか・・・皆さん、日章丸事件はご存知ですよね。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%AB%A0%E4%B8%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6

1953年3月、出光は、石油を国有化し英国と抗争中のイランへ、日章丸二世を極秘裏に差し向け、日章丸は、ガソリン、軽油約2万2千キロℓを満載し、5月、川崎港に帰港。

イランは出光創業家に恩を感じているかもしれません。イランには「イラン海外投資会社(IFIC)」という政府系ファンドがあります。資産規模は5,500億円だそうです。

 創業家の弁護士は昭和シェルとの合併を即座に行うことに対して、かなりけん制しているように思います。それは対抗策を考え、実行するための時間を稼ぐためではないでしょうか?イランの政府系ファンドが創業家に金を出すでしょうか?創業家のパイプがどの程度なのかわかりませんが、そういう手段をとってくるリスクも出光経営陣は考えておく必要があります。

私は、今回の出光の公募増資は規模が中途半端だと思います。また、以前指摘したとおり、公募増資の販売先も国内のほうが多いのですが、議決権行使率を考えると海外の機関投資家を中心にしたほうがよいと思います。出光創業家に必要なのは資金です。しかし、逆に考えれば資金さえあれば、合併を阻止することができます。

 

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