2016年12月22日

No.37 海賊とよばれた男など2コラム

■海賊とよばれた男

 だいぶ前に小説を読みました。映画になったんですね。12月10日(土)から上映されています。ホームページを見ると「石油メジャーvsたった一人の日本人」とありました。

出光興産はロイヤルダッチシェルから昭和シェル石油株式を12月19日に取得したそうです。1株あたり1,350円で、議決権ベースで31.3%の株式を取得しました。

「海賊とよばれた男」皆さん、読みましたか?けっこうおもしろいですよね。出光興産と昭和シェルの経営統合に関しては様々な意見があります。では、直近の出光興産の株主構成を見てみましょう。

創業家で33.92%保有していると報道されていますから、創業家が合併に反対している状況においては、出光興産の株主総会で特別決議を取ることができません。報道によると、昭和シェルに出光興産株を20%保有してもらう方向のようですが、実際に第三者割当増資をしたら創業家の保有割合はどう変化するでしょう。

第三者割当増資後に昭和シェルが出光興産株式の20%を保有するとして単純に計算すると、33.92%がおよそ27%程度に低下します。この状況で出光興産が昭和シェルとの合併を株主総会にかけたら?

おそらく外国人を中心とした機関投資家は合併に賛成するのでしょう。しかし、個人株主はどうでしょうか?普通に考えたら合併に賛成しそうですし、また、個人株主は議決権を白紙で投票してくれる人が多いので合併への賛成票が増えそうです。しかし、映画を見た個人株主はどうでしょう?結構、情に流される株主もいると思います。

上記の株主構成を見ると個人株主比率は16.47%となっています。この中には出光創業家の方も含まれていますが、創業家や会社とは関係のない純粋個人株主もいます。これらの個人株主をいかに味方にするかが合併を可決できるかどうかのポイントになりそうです。

また、株主総会における議決権行使率も考慮する必要があります。出光興産の2016年6月株主総会における議決権行使率は約87%でした。同程度の議決権行使率だと、第三者割当増資を実行できたとしても、まだ創業家の影響力はけっこうあります。個人株主の投票行動にかかってくると言っても過言ではありません。

一方、昭和シェルに対する第三者割当増資が仮に実行されても、創業家は発行差止めをしてくると思われます。もし発行差止めされたら?昭和シェルへの第三者割当増資が実行されず、創業家の持分に変化はありませんので、合併は株主総会で承認されないでしょう。それどころか、役員選任議案が否決されるリスクがあります。今年の6月総会における出光興産社長の賛成率は52.3%です。プロキシーファイトなどが実施されたわけではないのです。もし創業家が大々的にネガティブキャンペーンを実施した場合、個人株主の投票行動にどういう影響が出るでしょうか?

映画を見た個人株主が「やっぱり出光佐三の志を継ぐ人に経営をまかせるべきではないか!」などと思ってしまうと、現役員に反対票を投じしてしまうかもしれません。

有事の票読みは、このようなことを検討しながら行う必要があります。

■買収防衛策を導入するタイミング

買収防衛策は本来株主総会の議案にはなりませんが、多くの会社は取締役会決議で買収防衛策を公表・導入し、その後、株主総会にはかり承認を得ています。本来は株主総会議案にしなくてもよいのですが、実務的には株主総会にかける会社の方が多いです。

 買収防衛策って、どのタイミングで導入するのが一般的でしょうか?3月決算の会社の場合ですが、多くの会社は決算発表と同じタイミングで買収防衛策導入を公表します。そして、株主総会の承認を得ることが多いです。基本的には株主総会にかけることを前提にしているから、公表は株主総会前・招集通知発送前になる、そして、「ま、決算発表と同じタイミングがいいでしょう」という流れですね。

 では、次のタイミングですが、株主構成です。これは、どういうスケジュールで買収防衛策を導入するか、というよりは、買収防衛策をどういう状況で検討し導入することを決断するかというタイミングとお考えいただいたほうがよいかもしれません。

例えば、外国人株主比率が高いとき。「株主総会で否決されそうだな。やめとくか」と考えてしまいませんか?だとすると、本末転倒です。外国人株主比率が高い状況は、安定株主比率が低い状況です。安定株主比率が低い=買収されやすい株主構成、ということですから、本来は買収防衛策を導入しておくべきです。株主総会をとおすための工夫を考えるのではなく、「株主総会にかけずに、かつ、社長選任議案の賛成率低下を食い止める」ための工夫を考えるべきです(ISSは買収防衛策を株主総会にかけないと、経営トップの選任議案に反対推奨する方針です)。

 一方で、安定株主比率を高めてから導入するか?という考え方もあります。安定株主比率を大幅に上昇させることは難しいが、株主総会の普通決議を通せる程度の安定株主を確保してから導入するという考え方です。これもアリだとは思いますが、安定株主比率を上昇させるのって結構難しいです。それに、株主総会の普通決議を通せるかどうか心配な企業の時価総額って、けっこう大きいんです。それなりの金額を自社でも投資する必要があるので現実的な方法かどうかよく考える必要があります。

 逆に安定株主比率が現時点で高い会社の場合。好きな方法で導入してください。でも、ちょっと待ってください。「なぜ安定株主比率が高いのに買収防衛策を検討しているのですか?」ということです。おそらく、安定株主比率が今後低下していくことが想定されるから、今の段階で買収防衛策を導入しておこう、ということではないでしょうか?

買収防衛策の導入は数年後の自社の株主構成を想像した上で方法を検討すべきです。数年後も安心して株主総会をとおすことができるか?どうでしょうか。確かに取締役会決議のみで買収防衛策を導入している企業は少ないですが、あのパナソニックは取締役会決議で導入しています。

こういうことを書くと「でも株主総会で承認を得ていない買収防衛策だからルールを守る必要はない、と考える買収者がいないだろうか?」とおっしゃる方がいます。そのリスクはあります。でも、私が買収者側のアドバイザーだったら「これは株主総会で承認を得ていないから守る必要はありません!」などとアドバイスいたしません。

 だって、怖いですから。株主総会で買収防衛策の承認を得ている会社が多いのは事実ですが、取締役会決議で導入してはダメというものではありません。ルールを無視して買収防衛策を発動されることのほうが怖いです。

 「じゃあ、買収者側のアドバイザーだったとして、買収者にはどういうアドバイスをするの?」

 すみません。それは内緒です。買収防衛策や敵対的買収を分析し続けてきた我が社のノウハウです。まあ、株主総会で買収防衛策をとおしていようがいまいが、同じアドバイスをします。

 

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東洋経済オンラインに興味深い記事が掲載されています。なお余談ですが、コスモがMoMをやめて普通決議での発動にしたのは指針が理由ではないと思います。単に普通決議で戦えると判断したからです。

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