2016年10月14日

No.10 「そこまではやらないでしょう」とお考えの皆様

出光興産と昭和シェル石油の合併が延期されました。大変ですね・・・としか申し上げられません。業界のことはよく知りませんが、合従連衡をしていかないと石油業界はやっていけない、という出光経営陣の理屈はなんとなくわかる気がします。

一方、「海賊と呼ばれた男」を読みましたが、世界のメジャーと戦ってきた出光佐三が作った出光興産の理念と合わない、と言われると、「うーん、わからんでもない」とも思ってしまいます。「海賊と呼ばれた男」、けっこうおもしろかったので。

しかし、創業家はいろんな手を打ってきますね。昭和シェルとの合併に関しては反対するぞ、と言っていたので、当初は合併反対を主張することで出光経営陣に昭和シェルとの統合をあきらめさせるのかと思っていました。ところが、出光昭介氏が昭和シェルの株式を買い増しました。出光家は、出光興産にとって特別関係者に該当してしまうので、相対で昭和シェル株式をロイヤルダッチシェルから買えなくなってしまう(1/3を超えてしまうから)。

なるほど。実力行使にも出たんですね。「じゃあTOBして全株買うか?」という手段も出光興産にはあるわけですが、出光昭介氏は「ワシがもっている昭和シェル株の株数は教えない!」と言われました。そうすると、TOBするにも届出書に記載しなくてはならない特別関係者の持分がわからない、届出書書けない!となってしまう。

 ここまでやってしまうと、いろいろな記事やブログなどに、「出光創業家もなぜ反対するのか説明責任を果たすべき」という意見が出てきているようです。株主に説明責任はあるのでしょうか?

 株主に説明責任はないでしょ、が答えだと思います。

 経営統合に反対なら反対でいいんです。説明の必要なんてありません。「イヤなもんはイヤだ」です。そもそも、1/3の株式を持っているということは株主総会の拒否権を持っているということです。当たり前の話です。どういう経緯があったのかはわかりませんが、出光創業家をきちんと説得できなかった経営陣の落ち度だと思います。

 一方で、「反対するのは株主の自由だけど、出光興産による昭和シェル株式の取得を妨害するような行為まで行うのはいかがなものか」という意見があると思います。私も当初は、「いくらなんでも、そこまではやらないでしょう?」と思いました。でも、はたしてそうでしょうか?出光創業家は昭和シェル石油との統合に反対しているのです。であれば、できることを徹底的にやるのは当然です。

 それに対して出光興産はどうでしょうか。私には、対応が中途半端に見えてしまいます。「経営統合の期限を設けていないのは創業家に対するメッセージ」「十分な議論を通じ心底理解してもらうことが重要だ」「大家族の一員である販売店から厳しさを訴える声が届いている」と今日の日経に一問一答形式で書いてあります。この期に及んで・・・・創業家はある意味、実力行使に出た、喧嘩をうった、のです。これに対して、まだ「議論を通じて理解してもらう」とおっしゃっています。大丈夫でしょうか?向こうが徹底的にやる以上、こちらも徹底的にやらないと負けます。

 これは、何も出光興産に限った事象ではありません。今回のテーマは「そこまではやらないでしょう」としましたが、逆に「徹底的にやられたら本当に大丈夫か?」です。出光興産は大丈夫じゃなくなりました。

・エフィッシモなどの投資ファンドに株式を保有されている会社の皆様

「これ以上は買わないだろう」と思っていませんか?川崎汽船は37%も買われました。仮に5~10%持たれているとしましょうか。「まあ、まだ5~10%だしね」「うちの規模だとこれ以上は買えないんじゃないの」と思っていませんか?ファンドは「10%」とは思っていないかもしれません。「●●社には●●●億円も投資している」と思っているのではないでしょうか。ファンドにとっては巨額の投資です。簡単には引き下がりません。虎視眈々と次の戦略を考え続けているはずです。必要であれば訴訟も起こすファンドです。ちなみに、もし、エフィッシモが川崎汽船の株式を売却できたらどうなりますか?彼らが川崎汽船に投下している資金は9月時点で847億円です。売却できたら、847億円以上のキャッシュがエフィッシモの懐に入ってくる可能性があります。売却の仕方次第では1,000億円を超えることだってあり得ます。彼らがキャッシュを寝かしておきますか?そんな訳ありませんよね。次に投下する先はもう決めているかもしれません。

 ・うちの外国人投資家はエフィッシモみたいな過激な投資家ではないと思っている会社の皆様

「うちはIR、SRをきちんとやっているし、投資家からは一定の評価をもらっている。過激な行動はとってこないよ」と思っていませんか?ISSが議案に反対推奨をしたら、一定の評価をしてくれている投資家は貴社に賛成してくれますか?ISSの言うとおりの議決権行使をするのではないでしょうか。誰かが大幅増配の株主提案をしたら?その提案を支持するのではないでしょうか。川崎汽船も外国人株主比率の高い会社でした。去年まではエフィッシモに買われるとは、そして、買われたとしても37%まで買われるとは思っていなかったのではないでしょうか。「いや、うちの株主は中長期的に保有する株主だから」と思っていませんか?川崎汽船もそう思っていたのではないでしょうか。明日、貴社の株価に30%プレミアムを付したTOBがかかったらどうなるでしょうか?きっと、中長期的に持つと言っていた株主はTOBに応募するのではないでしょうか。

 ・一度はファンドに持たれたが、株価が上がって出ていった会社の皆様

「一度ファンドに買われたことはあるけど、株価が上がって出て行った。また買うことはないだろう」と思っていませんか?「喉元過ぎれば熱さを忘れる」です。ところで、ファンドはなぜ出て行ったのでしょうか。株価が上がったから、ですね。でも、貴社の財務体質はその時点と比べてよい意味で変化していますか?現預金がさらに積み上がって魅力が増していませんか?財務と株価のバランスは取れていますか?

 ・外国人株主比率が高い会社の皆様

 「うちは外国人株主比率が高いから、きちんとROEを上げる施策をとっている。株主還元も強化している」という会社様、そのとおりです。でも、「うちは外国人株主比率が高い。そこそこ配当も出しているつもりだけど、過激な投資家がやってきたら心配」と思っていらっしゃる会社のほうが多いのではないでしょうか。ご心配のとおりです。株主は入れ替わります。いつ川崎汽船のような状態になっても不思議はありません。

 

今回の見出しは「そこまではやらないでしょう」にしました。出光興産の経営陣も「まさか創業家はそこまでやらないでしょう」と思っていたのではないでしょうか。「説明すればなんとかなるよ」とか。説明はしたのでしょう。でも納得しなかった。だから反対したし、徹底的に阻止した。

投資ファンドの目的は「儲けること」です。特にアクティビストファンドは「儲けるための仕掛け、施策」を徹底的に考えています。経営者にとってはある意味、「いやがらせじゃないか」と思われるような施策もあります。でも、それをやるのが彼らの仕事なんです。しかも、その施策を徹底的にやります。「そこまではやらないでしょう」は通用しません。そこまで以上の仕掛け、施策を考え抜いて実行します。川崎汽船も去年のこの時期は「まあ、買っても20%はいかないんじゃないか」と思っていたのかもしれません。結果、37%です。あくまで想像ですが、持分比率が40%を超えるのも、そう遠くない日ではないでしょうか。来年の株主総会、とても心配です。

あ、ちなみに、出光興産ですが、打つ手がない訳ではないと思います。ハードルはかなり高いですが、できなくはないです。第三者割当増資?違います。答えを知りたい方は個別にお願いします。

 

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