2016年12月08日

No.31 出光・昭シェル相互出資 2割前後、合併へ先行など2コラム

■出光・昭シェル相互出資 2割前後、合併へ先行

 2016年12月7日(水)の日経1面記事です。記事によると、合併を目指す出光興産と昭和シェルは、先行して資本・業務提携する調整に入ったそうです。33.92%の出光株を保有する創業家は合併に対して反対の姿勢ですが、事業提携で実績を上げながら説得を続けるようです。本日12月8日(木)日経13面にも記事があります。大手金融機関も準備を始めたそうです。

 出光興産はロイヤルダッチシェルから33.24%の昭シェル株を取得し、うち8%超を信託銀行に預託し議決権ベースの出資比率を25%未満におさえ、一方昭シェルは2割程度の出光株を取得する予定です。取得方法などは今後検討するそうです。

 どういう取得方法があるのでしょうか?

 市場取得があります。市場から出光株をコツコツと取得していく方法です。でもこれだと時間はかかりますし、株価が上がってしまい、コストの想定がし難いですね。

 では、他に方法はないでしょうか?ありますね。出光興産が第三者割当増資を行い、昭シェルが引き受ければよいのです。これだとコストは想定できます。ただし、出光株にはダイリューションが発生します。お、ダイリューションが発生する?創業家の持分比率が低下するということですね。

 これで、出光創業家の持分が相当程度低下し、株主総会における拒否権を確保できなくなり、合併に反対する株主の影響が低くなりますので、めでたく合併できる!

 というのは時期尚早ですね。どういうリスクがあるでしょうか。そうです。発行差止請求です。発行差止請求とは、株主が「法令または定款に違反する場合」「著しく不公正な方法により行われる場合」で、「株主が不利益を受けるおそれがあるとき」に株式の発行をやめるよう請求する株主の権利です。

 ポイントになるのは、「不公正発行」と「有利発行」です。基本的には、有利発行に該当しないように第三者割当増資の価格を決定すると思いますので、もし今回出光興産が第三者割当増資を行うとしても、有利発行が争点にはならないと思います。というか、少なくとも有利発行が争点になるような発行価格にはしないでしょう。仮に今回、第三者割当増資が行われ差止め請求がなされた場合のポイントは「著しく不公正な発行か否か」であると考えます。つまり、今回の増資の目的、いわゆる「主要目的ルール」が争点となるでしょう。企業の支配権の争奪の局面で第三者割当増資が行われた場合、それが、「資金調達等の正当な事業目的を達成するために行われたのか」「経営者の支配権維持等の不当な目的を実現するために行われたのか」などを裁判所は検討します。

 法律専門家ではないのでこれ以上の言及は避けたいところですが、現実の資金需要が存在するのかどうかがポイントですが、今回はどうなんでしょうか。参考になるのはベルシステム24が2004年に行った第三者割当増資かなと思います。CSKが発行差止請求を行いましたが、却下されました。その際、裁判所は、ベルシステム24の経営陣が支配権維持の意図を有していたことなどは否定できないとした上で、事業目的や事業計画、それに起因する資金需要には一応の合理性が認められると判断しました。

 特定の株主の影響力を低下させることが目的ではないと主張できるかがポイントでしょうか。さらに突っ込んでいうと、特定の株主の影響力を低下させること「だけ」が目的ではない、と主張できるかがポイント、かもしれませんね。昭和シェルとの協業による効果を訴えることも重要になりそうです。

ちなみに、創業家はホームページ(http://www.1ch-law.com/report1207.pdf)にて、12月7日に以下を公表しています。すんなりとはいきそうにありません。

3. 昭和シェル石油への資について

合併という社の根幹にかかわる事項にし、見解が異なる況下での資は、株主の反により株主総会で決議できない合併議案を、取締役らが合併に同する者にし議決を付与して合併議案を通そうというものであって、到底承服できません。そのような資をする場合は、行差止のための法的措置を講じます

■今年の漢字は・・・

 個人投資家の2016年は「乱」の1年。スパークス・アセット・マネジメントが個人投資家594人を対象に日本株相場を表す今年の漢字を聞いたところ、トップは「乱」だったそうです。

 マーケットは年明けから波乱の幕開けでした。6月には英国のEU離脱決定や米国大統領選におけるトランプ氏の勝利。

 誰も想定していなかったことが起き、マーケットは乱高下しました。だから「乱」なんでしょう。他、上位には「迷」「変」「忍」があがったそうです。情勢が大きく「変わった」1年だったと言えます。

 マーケットは乱れ、変化した1年であったように、上場企業を取り巻く情勢も大きく変わったように思います。例えば、出光興産。昭和シェルとの友好的な経営統合が大株主である創業家の反対により雲行きが怪しくなっています。コラムでも数多く取り上げましたが、特定の投資家に約38%もの株式を取得されてしまった川崎汽船。来年の役員選任議案はどうなってしまうのでしょうか。他にもいろいろとあった1年だと思います。

 しかし、よく考えてみると、このような株主のアクティビズムはこの1年で大きく変わったことではありません。出光興産と昭和シェルのケースは大きく取り上げられていますが、何年か前に同じようなことがありました。キリンとサントリーの経営統合ですね。川崎汽船と同じようなケースはあったでしょうか?規模は違いますが、アデランスですね。株主総会で役員選任議案が否決されました。少々昔の話です。

 よく考えると、10年前に起きていたことが最近になってまた起きている、ということかと思います。株主のアクティビズムがなくなることはありません。10年前は「敵対的買収!」と大騒ぎになりました。10年前と変わらない出来事が起きており、10年前と違い静かに動いています。

 来年のマーケットはどうなるでしょうか?トランプ相場が続くでしょうか?また、株主によるアクティビズムはどうなるでしょうか?マーケットが大きく動くとき、アクティビストも活発に動いていくると思います。なお、年末までコラムは続けます。

 

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