2016年10月24日

No.13 本日の日経5面「話せば分かるは通じない~上場10年、出光の宿題」など3コラム

■本日の日経5面「話せば分かるは通じない~上場10年、出光の宿題」

 おっしゃるとおりです。出光興産の経営陣が出光創業家を説得しようとしても、難しいでしょう。出光創業家は、昭和シェルとの経営統合をやめさせるために、資金を投下して昭和シェル株式を取得するという実力行使にまで出てきたのですから。

 ただ、話せば分かるは通じない、は正しいと思いますが、この記事はいくつか誤解があると思います。創業家と経営陣の対立について触れていますが、出光とセブン&アイ、大戸屋を1つの記事でまとめて論じるのはどうかと。そもそも、各社が抱えた問題は異なるものです。出光は創業家で1/3を超える株式を保有しており、経営陣が創業家に逆らえば昭和シェルとの経営統合が成立しないのです。セブン&アイは、大株主の意向を読み誤ったのでしょうか?これはどうも違うような気がします。大戸屋は読み誤ったというよりは、むしろ読み通りとも取れます。

 そして、最も気になるのは、フォードについてです。創業一族と経営陣のキーマンはどんなときでも「フォード第一」。互いの役回りを忠実に果たしたそうです。米国の経営者ですから、いわゆる「プロ経営者」でしょう。この記事に出てくるアラン・ムラーリーさんもボーイング出身です。フォード一族に嫌われて追い出されても、どこにでも就職できるのでしょうし、もうお金に困ることもないレベルでしょう。

 ただ、1つ気になるのは、本当に創業家と経営者が、ここに書いているような理由で協力しあったのでしょうか?フォード一族は本当に経営者を全面支援したのでしょうか?フォードは、フォード一族で議決権の40%を保有しています。ほぼ、経営を支配していると言っても過言ではありません。フォードと出光や大戸屋、セブンを比べるのは少し違和感があります。

 創業家がある程度の株式を保有している企業のケースは、一見、「うちとは関係がない」と思われるかもしれません。しかし、創業家=経営に影響をおよぼす程度の株式を持つ株主、と捉えれば、どの会社にも当てはまることです。10%程度の株式を持たれても、気にはなりますが、それほど意識する必要はないでしょう。ただ、買い増してくるというリスクはあります。20%程度を持たれたら?役員選任議案に悪影響をおよぼすレベルではありません。ただ、かなりその株主を意識します。1/3持たれたら?役員選任議案に与える影響はけっこうあります。株主構成次第では否決もあり得なくはないです。

 お家騒動と言われるケースは、決して他人事ではありません。保有された株式のレベルごとに、かなり参考になるケースであると思います。「話せば分かるは通じない」は、創業家というよりは、株主と位置付けた方がよいのかもしれません。いくらIRやSRを行っても、「いくら話を聞いたところで、経営施策や財務施策を実行しない限り株主な納得しない」です。株主構成は常に変化します。

■自社株買いはM&A?

2016/10/19(水)の日経1面によると「上場企業による自社株買いの実施額が1~9月に4兆3500億円と過去最高を記録した。企業統治強化の流れのなか、資本圧縮で経営効率を高めようとの機運が強まっているためだ。一方、新株発行による資金調達は7000億円程度と低い水準にとどまった。内外経済の成長鈍化で設備投資などの資金ニーズが鈍っているほか、金利低下が追い風となって社債で必要な資金を調達しやすくなっていることも影響している。」とありました。 

昔、ある会社の社長がある機関投資家を訪問し、個別ミーティングを行いました。そこでの会話が面白かったので、以下、対話形式で記載します。

 

ある投資家          貴社は余剰キャッシュをどうするつもりなのか?

ある社長              そうですね、設備投資とか。

ある投資家          具体的な内容を教えてほしい。

ある社長              まだ具体的には決まっていない。ただ、他にも将来的なM&Aに備えている。余剰という認識はしていない。

ある投資家          将来的なM&A?いったいどこの会社を買うんですか?

ある社長              それは言えないですよ。まだ具体的に決まっていないですし。

ある投資家          では、私が決めてあげましょう。

ある社長              は???

ある投資家          (同業他社の株価とPER、PBRを提示して)貴社と同業を比べてみましょう。どの会社が一番割安ですか?どの指標を見ても貴社が一番割安ですよ。M&Aをするなら貴社を対象にしたらどうですか?

ある社長              ???

ある投資家          自社株買いをしなさいということですよ!

なるほど!自社株買いは、配当と同様に株主還元です。しかし、見方を変えると、自社を対象にしたM&Aと捉えることができます。おもしろい言い方をする投資家です。

もちろん、アクティビストです。

数多くの会社がIRやSRをやっていらっしゃると思います。「意外と物わかりのよい投資家だったよ」とおっしゃるかもしれません。当然です。投資家と経営者は、企業価値・株主価値を向上させるという目線は同じなのです。ただ、唯一違うのは、時間軸です。投資家が求める時間軸は経営者が考えるよりももっと早いのです。

■2016/10/19(水)日経3面「きょうのことば 自社株買い 1株あたりの利益増やす」

 書いている内容はほぼほぼ正しいと思うのですが、少し気になる点があります。

 例えば、「自社株は株式交換によるM&Aなどに備えた金庫株として利用され、当面の用途が見当たらなければ償却するのが一般的だ」という箇所。このような記述が経営者に誤解を与えてしまうと思います。自社株買いはあくまで株主還元です。自社株買いは実行した時点で終了です。株主還元の結果として、たまたま金庫株として計上されているだけです。「金庫株の利用方法を考えなくては」という発想になってしまいがちですが、利用方法を考える必要はありません。M&Aや資金調達をする際に、もし金庫株があればそれを利用するだけです。はっきり申し上げて、消却してしまって問題ないと思います。

 もう1点。「自社株は消却するしないにかかわらず発行済み株式総数から差し引き、1株あたり利益や自己資本利益率を底上げする」と書いている点。これは正しいのですが、少々訂正したい点があります。おそらく、会社が指標を出す際には自己株式をマイナスして指標を算出していると思います。しかし、すべての情報ベンダーがそうとは限りません。クイックやブルームバーグなど、また、各証券会社が提供している株価関連の情報など、すべて自己株式をマイナスした適切な指標を提供しているとは限らないのです。

 中には自己株式をマイナスせずにEPSやROEを算出しているベンダーもあります。というのも、すべての企業の情報を精査するほどの人員がいないようなのです。

 消却した場合のEPSやROEなどの指標は、きちんと会社側から修正した数値を公表して、ベンダーが修正しやすくしてあげたほうがよいかもしれません。

 

 

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