2017年06月09日

No.103 第4話:第四の失敗~ホワイトナイトへの固執~など2コラム

■第4話:第四の失敗~ホワイトナイトへの固執~

 ちょっと間が空いてしまいましたが、第4話をお送りします。ちなみに、第1話から3話をちょっと振り返ります。

 第1話は「第一の失敗~安定株主に胡坐をかいて安心していたこと~」です。創業家がまだ健在であることや富士通が株主であることから、ソレキアの安定株主比率は相当高いです。おそらくそれに安心して、常日頃から安定株主対策など意識したこともなかったでしょうし、買収防衛策や敵対的TOBについて勉強したこともなかったのでしょう。第2話「第二の失敗~敵艦見ユ、ナレドモ買収防衛策導入セズ~」では、フリージア・マクロスが株主として登場した時点で、なぜ事前警告型の買収防衛策を導入しなかったのか?について言及しました。ソレキアは買収防衛策さえ導入しておけば、こんなことにはなりませんでした。フリージア・マクロスが株式を取得したのはソレキアだけではありません。他の企業は買収防衛策を導入しました。ここが大きな違いです。そして、第3話「第三の失敗~大切なことは戦わずして勝つ~」では、今回の防衛戦においてホワイトナイトを選択したことが間違いであったと指摘しました。佐々木ベジといういくら資産をもっているかわからない個人に対して、株主に対して説明責任のある富士通では敵わないのです。増配を選択し、戦わずして勝つ戦略を実行すべきでした(一方、佐々木ベジがフィナンシャル・バイヤーではなくストラテジック・バイヤーの場合、この方法では負けます)。

 そして、今回の第4話ですが、ソレキアは富士通によるホワイトナイトを選んだ後でも、まだ戦略を修正することができたのです。というよりも、富士通が「うちは5,000円までしか出せません」と言った段階で、フィナンシャルアドバイザーとともに別の戦略を準備しておくべきでした。つまり、佐々木ベジ氏がTOB価格を5,000円以上に引き上げた段階で、ホワイトナイト戦略を捨て、増配戦略に打って出るべきでした(当然、効果は限定的なので、当初から増配で対抗しておいたほうがよかったでしょう)。当然、私はフィナンシャルアドバイザーはこの戦略を実行するようアドバイスすると思っていました。アドバイスしたのにソレキアが実行しなかったのかもしれませんが、いずれにせよ、アドバイザーがソレキアを説得できなかったことに違いはありません。

 なぜ私は、フィナンシャルアドバイザーは当然増配戦略に変更するようアドバイスをする、と考えたのでしょうか?簡単です。過去、当該アドバイザーがそういうアドバイスをしたからです。ときは、約14年前にさかのぼります。何度か例に上げましたが、2003年、日本で本格的な敵対的TOBが開始されました。アクティビストファンドであるスティール・パートナーズの登場です。最初に狙われたのは、ユシロ化学工業とソトーでした。両社に対してスティール・パートナーズは2003年12月19日~2004年1月26日までの期間で、価格を1,150円とした敵対的TOBを実施しました。両社、同条件です。変なTOBですね。TOBで会社を買いたいというものではなく、TOBを仕掛けることによって、ホワイトナイトが登場することを期待、もしくは、会社が対抗策を打ち出すことによって株価が上がることを期待してのTOB実施だったのでしょうか。

 ユシロ化学がとった対抗策は増配でした。2004年1月15日に2004/3月期にかかる期末配当を従来予想11円から192円(中間配とあわせて200円)に大幅増配すること、また、今後は原則として税引き後の利益をすべて配当として株主に還元することを公表しました。株価はTOB価格である1,150円を大きく超え、2,000円近くまで上昇しました。当然、スティール・パートナーズのTOBへの応募はゼロです。スティール・パートナーズも増配に対して歓迎とのコメントを公表しました。

 一方のソトーは違いました。ソトーが取った施策はMBOでした。大和証券系のエヌアイエフベンチャーズとソトー経営陣が1,250円でカウンターTOBを実施することを2004年1月15日に公表。TOB代理人は大和証券です。しかし、スティール・パートナーズは黙っていませんでした。1月26日、スティール・パートナーズはTOB価格を1,400円に引き上げました。負けじとNIFサイドも、2月6日、TOB価格を1,470円に引き上げました。スティール・パートナーズは引き下がりません。2月12日、TOB価格を1,550円に引き上げました。すると、NIFサイドは・・・な、なんと・・・引き下がってしまいました。TOB価格の引き上げを行わなかったのです。するとソトーは2004/3期末の配当予想の修正を行いました。従来予想の13円を200円に引き上げました。ソトーは結局、ユシロ化学と同じ、大幅増配で対抗しました。だったら最初から増配にしておけばよかったじゃないか!という話ですね。TOB代理人に支払った手数料はもったいなかったですね。

 といった過去の経緯があるので、当然、当該アドバイザーは把握しているでしょうし、同じミスはしないだろうと私は考えました。そのため、「まさかホワイトナイトを連れてきて、最後の最後には増配に戦略を変えるなんて、ソトーのときと同じミスをすることはないだろう」と考えたので、ソレキアは当然、今回の佐々木ベジ氏への対抗策として最初から増配を打ち出してくると考えていました。2月の段階では佐々木ベジ氏のTOB価格は2,800円でしたから「50円配を500円配くらいに引き上げるだろう。」と考えていました。ところが、ソレキアが行使した質問権の内容などを見ていると、「どうも、カウンターTOBの実施を考えているフシがある」と見てとれました。

 私は、富士通によるホワイトナイト戦略には当然限界があると読んでいましたし、そうすれば、次善の策として増配をするしかないだろうと考えていました。そうしないと、佐々木ベジ氏に実質支配されるからです。そのため、富士通がTOB価格を5,000円より上に引き上げないと決めた時点で、増配を打ち出すのだろうと考えていました。まあ、すでにTOB価格が5,000円ですから、相当な増配をしないと対抗しきれなかったでしょう。

 ところが、ソレキア側はなんの策も打ち出さずに、単に「佐々木ベジのTOBには反対です!(TOB価格は安いけど)富士通のTOBに応募してください」とだけ株主に呼びかけました。ある意味「特攻」を選びました。なぜ増配を選択しなかったのか理解できません。助かったのに・・・

 ソトーのケースを経験している大和証券がフィナンシャルアドバイザーですから、ソトーの二の舞にならないよう、当然、最初から増配を選択するだろうと思いました。もちろん、佐々木ベジ氏がストラテジックバイヤーである場合、増配をしても意味がありません。配当の基準日後にまたTOBをかければよいだけですから。でも私は、佐々木ベジ氏は限りなくフィナンシャルバイヤーに近いと考えました。彼の言う経営施策は株価を上げることですから。なぜ大和証券がソレキアにホワイトナイト戦略をアドバイスしたのか、私には到底理解できません。また、最悪、ホワイトナイト戦略を実行するにしても、なぜ最後の最後に増配戦略に変更しなかったのか?なぜソレキア経営陣を説得できなかったのか?たしかにホワイトナイト戦略から増配戦略に変更することはあまりよろしくはないのですが、変更しないことには佐々木ベジ氏にソレキアは実質支配されてしまうのですから。あまりよろしくないなんて言ってられません。会社存亡の危機でもあるのです。

過去のソトーなどのケースを経験している大和証券がなぜ同じミス、いや、ソトーのときよりも最悪とも言えるミスをしたのか理解できません。今後開催される株主総会で一発逆転の方法を考えているのでしょうか?過去のケースを知っている人が大和証券の社内にはいないのでしょうか。だとしたら、大手証券会社には敵対的TOBに対応できる人材がいないということではないでしょうか。

■株主総会の分散化は本当に必要なのか?

 2017年6月8日の日経2面に「株主総会の分散さらに進めよ」という社説がありました。株主総会シーズンですので、このような社説や記事が最近多いです。株主総会の集中日は6月29日で3月決算企業の約3割が開催するそうです。ただし、特定の日に総会が集中する度合いは過去最低のようです。コーポレートガバナンス改革により株主総会の集中開催への批判が強まっているので、総会の分散化が進んでいます。社説では「企業が株主との対話を通じて企業価値を高める機会を増やす。この流れをさらに進めていきたい」とあります。また、「総会の7月開催とは別に、一部企業が始めている総会の週末開催も注目すべき動きだ。個人株主が総会の会場に足を運びやすくするための取り組みだ」ともあります。

 私は株主総会の分散化とか個人株主に来やすくしてもらうための動きに対して、「本気か?」と思っています。本当は皆さんもそう思っているのではないでしょうか?

 皆さんのお気持ちを代弁すると「レベルの低い質問しかできない個人株主を本気で相手にしてどうするの???」ではないでしょうか?過激で、かつ、世の中の流れに逆らう意見ですみません。皆さん、個人株主のことを本当に株主であると認識していますか?皆さんの会社の株価はいくらですか?株価×100株、これが個人株主が皆さんの会社に投資した金額だとしましょう。では私の古巣の野村證券で計算すると、最近の株価は680円くらいです。1単元100株ですから、野村證券の株を買うには68,000円必要です。

 68,000円???たったそれだけで野村證券の株主になり、株主総会に出席できます。68,000円の株主が「議長!今後の日経平均はいくらになると思いますか?」「議長!野村の●●支店の窓口の対応がなっていなーい!」「議長!なんで野村の総会は土産がないんだ!」と質問します。新聞読めば?営業相談窓口に連絡してくれ!土産?ふざけるな!

個人株主が全員、このレベルであるとは言いませんが、どんぐりの背比べではないでしょうか?これが株主との対話でしょうか?株主総会なんて、シャンシャンが一番です。一時期、名古屋で勤務していましたが、名古屋の会社の株主総会はすばらしい!いまだに30分くらいで終わります。もちろん、もっと時間がかかっているところもあります。いやー、株主総会なんて30分で終わらせてナンボじゃないですか?だって、事前に総会議案の賛否なんて決まっているじゃないですか。とは言っても、このご時世なので「うちはちゃんと株主総会をしてますよ!」というアピールは重要です。世の中から見て「あの会社はちゃんとした会社だな」と見えるよう体裁を整えておく必要はあります。

あと、電力会社の株主総会もです。原発の是非に関する議論をするつもりはありませんが、少なくとも電力会社の定款に原発を廃止するという条項を定めるのはナンセンスです。上場会社がそんな条項を入れられる訳がありません。株主総会ではなくどこか別の場所で議論してくれ、という話です。株主総会はいろんな考えを持つ方々に利用される側面があります。

本当に個人株主を重視したいのであれば、株主総会ではなく個人投資家向け説明会の開催頻度を上げた方がよいと思います。日経の社説は教科書に書いてあることに過ぎません。

 

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