2019年06月28日

No.619 LIXILのケースに思うこと(無料公開)

少し古い記事ですが、2019年6月11日の日経にガバナンス改革「形ばかり」 取締役協・宮内義彦会長 という記事がありました。宮内さんは以下のようにおっしゃっています。

「政府などから要請される格好でガバナンスの形は作ったが、中身がない。多くの企業がとりあえずガバナンスコードの基準をクリアしたことに安心しているように見受けられる」

「企業のトップにとって、お目付け役のような社外取締役の存在は疎ましいだろう。それが普通の反応だ。しかし、マネーが世界を駆け巡るなか、日本企業の経営も透明性を確保しなければならない」

「マーケットがガバナンスで問題がある企業にプレッシャーをかけ、改善を促す機能がもう少し働くと思っていた。しかし、日本ではその機能が効かない。機関投資家も投資先の企業にガバナンスを行使しない」

「社外取締役も勉強不足だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)ですら、経営者に問題があると判断したら社外取締役がトップを代える。米国ではむしろ社外取締役は重責で、成り手が少ない。しっかり経営を監督していないと株主から訴えられるからだ。日本のように最高経営責任者(CEO)の友達や知り合いに社外取締役を頼むといったなれ合いなどない」

私、そんなことないと思うのです。ここ10年で日本の会社は大きく変わりました。例えば、以下は東証のコーポレート・ガバナンス白書で公表されている独立社外取締役の平均人数です。

2016年と2018年の比較ですが、増えていますね。10年で比べたらもっと変化していると思います。日本の上場会社に対して敵対的TOBが実施されたのは2003年頃からです。買収防衛策を導入したり、持ち合いで対抗したりしたケースもありますが、皆さん、これを機会にコーポレート・ガバナンス体制も見直そうと真剣に議論されていたと思います。「形は作ったが中身がない」とおっしゃっていますが、まずは形から入るのは当たり前です。

宮内さんは「社外取締役も勉強不足だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)ですら、経営者に問題があると判断したら社外取締役がトップを代える。」ともおっしゃっていますが、これ、ちょっと違うんじゃないですか?そもそも米国の経営者は日本と異なり、超高額報酬を受け取っています。ですから、経営者に問題がある、株価が上がらないと判断されれば、即座にクビを切られるのは当たり前です。常識では考えられない高額報酬なのですから、短期的にも結果を出さないとダメなんです。でも、日本の経営者はそんな超高額報酬をもらっていません。報酬に見合った結果は出していると思いますし、余計なコストをかけて社外取締役を増やす意味が私にはよくわかりません。宮内さんが米国流の経営、ガバナンススタイルを日本企業に求めるのであれば、まず最初に日本の経営者の報酬をもっと引き上げようという提言をすべきと思います。

と、今までの私であればここでコラムを終えていたのですが、LIXILの結果を見て少し考え方が変わりました。私は、日本の会社は石橋を何度もたたくし、それは悪いことではないし、慎重であることはよいことだし、意思決定までに時間がかかるのもしょうがない、と考えていました。でも、皆さんの会社の株主構成はどうなっているでしょうか?安定株主が減り、外国人株主が増えました。今まではサイレントに近かった国内機関投資家も平気で株主提案に賛同するようになってきました。味方が大変少なくなってきています。「外国人投資家とは時間軸が違う!」と大きな声で主張しても、誰も耳を貸さなくなってきました。安定株主と物言わぬ国内機関投資家のおかげで、皆さんの会社の役員選任議案は可決されてきました。これからは違います。LIXILの株主構成は以下の通りです。

外部から見た安定株主比率は、法人株主5.0%、LXIL従業員持株会2.45%、第一生命2.26%に加えて、野村信託銀行(信託口)3.07%(潮田氏が委託した信託財産)の合計12.78%です。外国人株主比率も高いです。安定株主比率は低く、外国人株主比率が高い。このような会社はいくらでもあります。LIXILで起きたことは、LIXILの特殊要因ではありません。他の会社でも今後、確実に起きます。

私は常々、企業防衛体制、危機管理体制の整備をすべきと申し上げています。それは買収防衛策の整備だけではありません。もちろん、買収防衛策を整備しておくことは企業防衛体制の第一歩ですが(買収防衛策の導入だけではなく、買収防衛策の準備も含みます)、それだけやれば十分というものではありません。自社の役員体制を考えること、役員の報酬を考えること、従業員の給与を考えることも企業防衛体制整備の一環です。また、株主構成の検討、安定株主対策、株主還元に関する検討、ROEを引き上げることも企業防衛体制整備の一環です。M&Aもです。企業防衛体制、危機管理体制を考えるということは買収防衛策だけに留まるものではないのです。

今回のLIXILのケースを契機により真剣に考える必要があると私は思います。

 

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