2017年01月18日

No.48 買収防衛策を導入している会社としていない会社の有事対応の違いなど2コラム

■買収防衛策を導入している会社としていない会社の有事対応の違い

 買収防衛策を導入している会社と導入していない会社では大きく異なります。どこが違うかというと、以下のとおりです。

 ざっくり書くとこんな感じです。買収防衛策を導入している企業は①と②の時間が確保できます。買収防衛策を導入していない会社は、極端な話ですが、突然③のTOBが実施される可能性があるということです。もちろん、買収防衛策のルールに従わない買収者がいる可能性はありますが、ここでは省略します。

 では、買収防衛策を導入している場合、①と②でどの程度の時間を確保できるでしょうか?短い会社だと、①の期間を30日、②の期間を60日or90日、と設定しています。長い会社だと、①の期間を無期限、②の期間を60日or90日(ただし延長する場合あり)、と設定しています。①の期間を無期限に設定している場合は、延々と情報提供を要請し時間を引き延ばすことは可能です。日本電産に買収提案をされた東洋電機製造は、情報提供の要請で約3か月かけました。「時間をかけ過ぎだ」という批判がありました。しかし、私はこの批判は的外れだと思います。3か月などという期間は、敵対的買収という特殊な状況においては、はっきり言って非常に短い期間であり、情報提供を要請するために要する期間として合理的な範囲内であると考えます。少なくとも、敵対的TOBが成立したことのない現状の日本においては。

敵対的買収をそもそも3か月で成功させようなどと虫のよすぎる話です。米国では1年以上かかったケースがあります。オラクルによるピープルソフトに対する敵対的買収です。2003年6月にオラクルがピープルソフトに対するTOBを公表、ピープルソフトは反対を表明。最終的にピープルソフトはTOBに合意しましたが、合意を公表したのは2005年12月です。当初のTOB価格は1株当たり16ドル(2003年6月5日の株価に対して5.9%のプレミアム)でしたが、価格を5回引き上げました。最終的なTOB価格は26.50ドルです(2003年6月5日の株価に対して75.4%のプレミアム)。買収成功までおよそ1年半かかりました。ちなみにピープルソフトはポイズン・ピルやゴールデンパラシュートなどの防衛策を導入していました。

皆さん、敵対的買収の経験はないと思いますが、友好的な買収の経験はあるのではないでしょうか?どれくらいの時間がかかりましたか?当然、規模にもよりけりでしょうが、友好的なケースでも、交渉開始からクロージングまでで3か月で終了する買収なんて、あまりないのではないでしょうか。

 しかし、最近、この①の期間を限定してしまう企業が増えています。なぜかと言うと、この情報提供要請期間を無期限に設定すると、会社が時間稼ぎをするに違いないと機関投資家が危惧し、買収防衛策に反対する可能性があるからです。事例を見ると、①の期間を30日に設定しているケースが見られます。短すぎる!それに、初めから交渉期間を自ら明言した上で買収提案を検討するなど、買収者の言いなりになってしまうリスクがあります。自ら交渉期間を区切ってしまっているのですから、買収者がまともな情報提供などするはずがありません。買収者は「自分から情報提供要請期間を区切ってるんでしょ?適当に回答しておけばいいじゃん」と考えるでしょう。

 機関投資家の意見に耳を貸すことは重要ですが、すべてに従う必要はありません。機関投資家に対しては「我々はあくまで自社に対して買収提案を行う場合のルールを設定しているのであって、買収を防衛するためのルールを設定している訳ではない。買収者との交渉ツールである」と堂々と主張しましょう。

■投資家が納得する買収防衛策とは?

 はっきり言って、会社にとっては機能しない買収防衛策です。

 よくアドバイザーが「買収防衛策のこの部分を変更しないと、投資家が納得しないし賛成しません」と言います。先ほど例示したような、情報提供要請期間を無期限に設定している場合などは、投資家が反対するリスクがあります。では、投資家が納得する買収防衛策にするにはどうすればよいのでしょうか?

 答えは、取締役の保身が入る余地のある部分をなくしてしまうことです。投資家が懸念するのは、時間を引き延ばして買収提案をあきらめさせることを目的としているのではないか、という点です。情報提供要請期間を30日に限定したり、取締役会評価期間を60日に限定すれば、投資家の納得性は高まります。そうすれば投資家は買収防衛策の導入・継続に賛成してくれる可能性があります。更に「買収防衛策は導入するが、対抗措置の発動はしない」と明言してしまえば、投資家は大いに納得してくれ、賛成してくれます。

 しかし、一方で失われてしまうこともあります。買収防衛策の効果です。情報提供要請期間を30日に限定してしまえば、買収者は「しょせん30日で終わるんだよね」と考えます。貴社がいくら情報提供を要請しても、まともな情報は提供してもらえないでしょう。だって、30日で終了すると貴社は明言してしまっているのですから。情報提供要請期間30日、取締役会評価期間60日が終了すればTOBを開始できます。そんな買収防衛策は機能しません。交渉ツールにならないということです。

 また、「対抗措置の発動をしない」と明言することもあり得ます。そういうルールを導入したケースがいくつかあります。例えば、ダイワボウ情報システムという会社です。エフィッシモに株式を取得されている状況で、情報提供の要請と検討期間の確保を目的としたルールを設定しました。しかし、ルールを破った場合の対抗措置の発動はなし、という設計です。買収防衛策ではありませんね。このルール、エフィッシモはいったん従いましたが、途中で「ルールにはこれ以上従わない」と主張し、株式を買い増しました。そりゃそうですよね。ルールを破っても防衛策を発動されない仕組みなのですから。伝家の宝刀がない買収防衛策は買収防衛策ではありません。ですから、情報提供要請期間などを限定化してしまうことも伝家の宝刀を1つ捨てるということです。

 投資家が納得する買収防衛策とは、究極的には「買収防衛策を導入しないこと」です。更に言うと「株価を高くすること」です。株価を常に高くしておけば買収リスクは減るだろう、です。王道です。しかし、株価が常に企業の適正な価値を示しているとは限りません。割安に放置されていることが多いですし、それが必ずしも経営者の責任ではないこともあります。

 買収防衛策は経営者、株主にとって、会社の価値を適切に株価に反映させるための猶予期間を確保するツールと考えることができます。買収防衛策を投資家に説明するときに最も心に響くワードは「保身には絶対に使わない。オレを信じろ!」ではないかと思います。

 

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