2017年12月05日

No.222 上場企業の買収防衛策が多様化してきた?いや、だいぶ前から多様化しています

2017年12月4日の日経11面に、デカデカと買収防衛策の特集記事が掲載されています。防衛策を維持する場合でも、あり方を見直す企業も相次いでおり、「多くは対抗措置を発動する際、それまで取締役会決定型・委員会設置型だった手続きを、株主意思確認のために株主総会を開催する折衷型に変更するとしている」とあります。この折衷型と言われているタイプに変更する企業が増えたのは、何も最近のことではありません。もう10年近く前から増えています。2007年にブルドックソースがスティール・パートナーズに対して、スティール・パートナーズが行使できない新株予約権の発行という対抗措置を発動した際、スティール・パートナーズは裁判所に新株予約権の発行差止請求を行いました。裁判所は「株主総会特別決議を経て発動していること」「スティール・パートナーズには現金を付与することで経済的損害を発生させていないこと」を主な理由に、スティール・パートナーズによる発行差止請求を却下しました。この裁判の結果、「買収防衛策を発動するには、取締役会決議や独立委員会の決定だけでは難しいのでは?やっぱり株主総会を開催して発動を決議する必要があるのでは?」と弁護士やアドバイザーが考え始め、導入企業が更新する際に折衷型にするようアドバイスし始めました。ですから、このような折衷型の採用は最近始まったことではありません。この記事は「なんで今さらこんなことを書いているのだろうか?」というレベルです。

 この記事でおもしろいのは、買収防衛策を廃止する会社が増える一方で、新たに導入している会社もある、という点です。以前ご紹介しましたが2015年から2017年に新規導入した会社は以下のとおりです。

何かあったら買収防衛策を導入するということですね。廃止している会社は、株主総会で否決される可能性が高まったから廃止してしまおうと考えたのではないでしょうか。しかし、買収防衛策には、一定の効果があります。それは買収防衛策を導入している企業に対する買収提案がうまくいかなかったことが証明しています。一方、非難されることもあります。

皆さん、株主に賛同してもらうために、仕組み上のいろいろな工夫をしているように思いますが、私は「それでは方向性が違う」と思っています。いくら仕組みを工夫しても、投資家は賛成してくれないでしょう。だって、買収を防衛するための施策に賛成する投資家なんていませんよ。何度も言っていますが。私は、投資家の態度もかたくなだなあと思う反面、企業の開示の工夫も足りないと思っています。もうこれ以上、仕組みの工夫は必要ないと思います。大切なのは買収防衛策を導入する本音と建て前をいかにうまく開示するかです。

記事の中で「桜島埠頭は「行政の許認可が必要な港湾事業では買収にさらされることはまだある」と説明」しているそうです。これ、おかしいでしょ?買収にさらされることは、上場企業であればどこの会社でもあります。こんなのを投資家が見たら「やっぱり、何が何でも買収を阻止するために防衛策を導入するんだな」と思うことでしょう。こんなこと言っているから投資家が信用しないのです。また、「一方的な大量買い付けは株主の利益にならないなどとする導入の理由だが、既存株主からは防衛策の導入に批判的な声も依然として多い」とあります。買収なんて一方的なもんですよ。しかもTOBなんて、株主に対する提案ですよ。「あなたが保有する株式を〇〇〇円という魅力的な価格で買います」と株主に対して提案しているのがTOBです。それを「一方的だ!」などと批判して買収防衛策を導入しようとするから、投資家が信用しないのです。株主のための買収防衛策であることをアピールする必要があります。

投資家に賛成してもらうことも重要なのですが、開示を工夫しなくてはならない理由はもう一つあります。12月4日の日経11面にはもう一つ重要な記事があります。「機関投資家 姿勢は二分」という記事です。内容を見ると「買収防衛策に対する機関投資家の姿勢は必ずしも一枚岩ではない。東京大学社会科学研究所が2012年に実施した調査によると、銀行・生損保では買収防衛策について約6割が賛成する方が多いとしたのに対し、信託銀行・投資運用業者では約6割が反対する方が多い。」とあります。機関投資家が反対するのはまあ通常ですが、銀行・生損保まで反対されると厳しくなります。買収防衛策の開示をこれまでどおり何ら変えずに行っていたら、いずれ銀行や生損保も「もう支えきれない。我々も反対しないともたない」という姿勢に変わってくるかもしれません。というか、一部の生保はすでに反対しているかもしれません。

記事の最後のほうに「問題は使い方」とあります。私もかつてはそう考えていました。「買収防衛策を濫用的に使ったら反対すればいいじゃないか。なにも導入時点で、絶対に濫用するに違いないなどと決めつけて反対するのはいかがなものか」と。しかし、そうも言っていられない時代です。濫用的に使わないのは当たり前であり、濫用的に使わないという姿勢を示すことも非常に重要です。買収防衛策について味方してくれている投資家を助ける意味でも、買収防衛策の開示を工夫しなくてはならない時代になったということではないでしょうか?

なお、買収防衛策の仕組みに知恵を絞り過ぎると、投資家は逆に「買収防衛策を何とか発動しようしている」と捉えると思います。買収防衛策を発動できる場面はほとんどありません。世の中が許してくれません。あまり工夫し過ぎると、逆に投資家からは反発されると思います。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ