2018年04月03日

No.302 株を持たないと取引してもらえないのはおかしい!というご意見

 村上ファンド創業メンバーの一人である丸木氏が設立したストラテジックキャピタルが行った株主提案の一つに以下のようなものがあります。

 持ち合い株を売却させるために定款変更するよう株主提案をしました。ストラテジックキャピタルは提案の理由を政策保有株式の目的が『安定的・長期的な取引係の構築』等であるとしても、取引先の株式を保有していると何故に取引係の構築等ができるのか、その因果係が不明です。これでは、株主になれば取引という利益が供与されるとの疑義が生じます。そもそも、取引先との係構築等は、株式保有にるものではなく、社の提供する役務等の品質向上によるべきです。」としています。

 この方々、営業したことないんじゃないですか?株を持ったから取引関係の構築ができる訳ではありません。取引を獲得するためには、皆さん営業します。提案書を持っていきます。当然、競合他社も同じようなことをしているでしょう。だから、営業マンは顧客を接待するでしょう。これも当然、競合他社も同じようなことをしているでしょう。だから営業マンは接待を工夫します。食品メーカーが接待先であれば、そのメーカーの商品を接待のテーブルに並べたり、アルミメーカーであれば瓶ビールではなく缶ビールを並べたり、社長の思い出のワインを揃えてみたり・・・と。競合他社が思いつかない接待を考えるでしょう。接待以外にも、社長の誕生日にお花を送ってみたり、商品の売り込み以外にもいろいろな情報提供をしたり、いろいろ工夫を凝らします。当然、商品の差別化もするでしょう。取引を獲得するためには、競合他社ができない・やらないことを徹底的にやります。

 株式保有もその一環ではないでしょうか?「株主になれば取引と言う利益が供与される」のではなく、自主的な営業の一環として提案している場合も多いと思います。品質向上だけで取引が取れれば、それに越したことはありません。でも、それだけで取引を取れる会社ってそんなにないでしょう。商品の差別化をしてはいるものの、それ以外の努力もしないと取引を獲得することは難しいと言えます。株を持つことで取引をとっているのではなく、株も持つことで取引を取っているのではないでしょうか?

 しかし皆さんの政策投資株式の保有目的はあまりにもあっさりとしています。「取引関係の維持・強化のため」 これだけだと「株がないと取引できないっておかしいじゃないか!」と言われてもしょうがないでしょう。私も反省しています。取引関係を維持・強化するために株を持っているのではなく、涙ぐましい営業努力の1つの方策として株も持っているということをきちんと伝えた方がよいと思います。営業努力は株を持つことだけではない、いろいろな営業努力をしているが、そのうちの1つが株式保有なんだ、と。商品の品質向上も行っているし、接待もしている、社長の誕生日も調べて贈り物を送っている・・・。そして場合によっては株式も保有している。

 これをうまいこと保有目的として記載する必要があるのでしょう。ほとんどの会社が説明し難い株式を保有していると思います。今までであれば「適当に書いておけばいい」「横並びの開示でいい」だったかもしれませんが、世の中変化しています。より丁寧な説明を求められることもあるでしょう。私は本音では「株主の理屈だけを押し付けるな」と考えていますが、そうも言っていられない状況になっています。だからこそ、取引関係の維持・強化だけではなく、皆さんがなぜ株式を保有しているのかをきちんと世の中に皆さんの言葉で訴えていただく必要があると思っています。株式を持つだけで取引を始めてくれる先などないですし、株式を保有する行為は営業政策の一つです。

・・・しかし、アクティビストがこう言ってきたらどうしますか?

 「だからM&Aをして競争力を高めろと言っているんだ!」

 「グゥ」としか言えません・・・。おっしゃるとおりです。「品質向上、差別化が難しいのであれば、同業他社とのM&Aを積極的に検討すべきである」 確かに・・・。アクティビストの言うことはエキセントリックな内容がある一方、まともなことも言います。そしてそれはマスコミ・世間に受け入れられやすいです。だからこそ、持ち合いや持ち合い開示を考えることが企業価値向上策を検討するきっかけになればよいと思うのです。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

さて、そろそろ有価証券報告書における株式の保有目的について改めて考える必要があるのではないでしょうか?「取引関係の強化」ではもうもたなくなってきていますので、保有目的の開示例をいくつか考えてみました。

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ