2019年11月25日

No.714 コクヨvsぺんてる どっちが勝つか?

コクヨがぺんてるに対して敵対的買収を仕掛けました。まず経緯は以下のとおりです。

・2018年3月 ぺんてるの創業家が投資会社マーキュリアインベストメントが運営するファンドに株式を売却

・2019年5月 コクヨ、ぺんてるの発行済株式の37%を持つマーキュリアのファンドを通じて間接的に所有

・2019年9月 コクヨ、直接出資に切り替え

・2019年11月  コクヨ、ぺんてる買収の意向発表 ぺんてるは反対を表明

・2019年11月21日 プラス、ぺんてる支援を表明 1株3,500円で最大33.4%の買取り キングジムやニチバンもぺんてるを支援すると報道

そして敵対的買収の条件は以下のとおりです。

・買付価格:普通株1株につき3,500円⇒11月20日に3,750円に修正

・買付価格の算定根拠:大和総研に株式価値算定を依頼。DCF法による算定。

・買付予定数:下限・上限なし

・買付期間:2019年11月15日(金)~2019年12月15日(日)

・買付代金:3,842百万円以上

・決済の開始日及び決済の方法:ぺんてる株主のからコクヨに送付した申込書類の先着順で受け付けを行い、順次速やかに株式売買契約書の締結及び買取実行・代金の支払い。

通常、37%もの株式を事前に取得されてしまった上で敵対的買収を仕掛けられたら、上場会社の場合はまあ負けでしょうね。現にデサントに対して伊藤忠が敵対的TOBを仕掛けた際、事前に持ち分を30%まで引き上げた上で実施し、結果成功しました。コクヨがあと10%も買えば、実質的に過半数を取ったも同然でしょう。しかしぺんてるは上場会社ではなく非上場会社であり、株主数は300名程度と言われています。おそらくぺんてるは自社の株主全員の顔と名前が一致しているでしょう。株主を完全に把握していると思われます。

ぺんてるの株主はぺんてるの従業員やOB、取引先と報道されていますが、コクヨが1株当たり3,750円で買い取ると表明しても、売却するでしょうか?私は、おそらくコクヨには売却しないと考えます。まず従業員株主ですが、これは間違いなく売却しないでしょうね。どういう形で持っているのかわかりませんが、従業員持株会のような形で保有している場合、株式を持株会から引き出さなくてはなりませんから、かなりの抵抗感があります。引き出す際に上司の印鑑などが必要ですよね?そのハードルを乗り越えて売却しようとする従業員はいないでしょう。また、持株会ではなく従業員が株式を持っているとしても同じでしょうね。たぶん、社内では「売るな!」という暗黙の指示が出ていることでしょうし、譲渡制限がかかっていますから、売却する場合には取締役会の承認が必要です。従業員株主がぺんてる株を売却する場合、取締役会に名前が知られてしまいます。ぺんてるで生きていこうと考えている従業員は絶対に売らないでしょう。

では取引先はどうでしょうか?これも売らないでしょう。取引先として困るのは、ぺんてるがコクヨに支配されてしまった後に取引がどうなるかという点かと思われますが、おそらく取引先としては「プラス、コクヨのどちらにも売却せず保有し続けます」というスタンスを取ると思われます。どちらが勝つかわからない状況でしょうから、どちらかにベットするのは危険です。ですから、どちらにもつかず、結果的に勝った側につくという戦略を取るでしょうね。

ではOBは?売るとしたらここでしょうね。過去日本で起きた敵対的TOB時においても、OB株主が株を売ったというケースを聞いたことがあります。でも重要なのは、このOB株主はTOBに応募した訳ではなく、市場で売ったのです。おそらくこのOBの理屈は「オレは買収者に株を売った訳ではない。高くなった株価で市場で売っただけだ!」でしょう。高い値段のTOBだけど、さすがに買収者に株を売るわけにはいかない。でも高い値段だし、これ以上の高値がつくことは今後ないだろう、売りたい、でもTOBには応募できない・・・市場で売ってしまおう、買収者に売るんじゃないんだ!高くなった株価で市場で売るだけだ!と自分に言い聞かせて市場で売ったことでしょう。ま、上場会社ですから、「たくさん株主がいるから、自分が売却したことは会社にはばれないだろう。ま、ばれたとしてももう会社辞めてるからいいだろ」と考えたのかもしれませんね。しかし、ぺんてるは非上場会社であり、市場株価はありません。今回の敵対的買収でOB株主が株を売却する方法は、コクヨとの相対取引しかありません。取締役会にも名前が知られてしまいます。売ろうとしたら、売らないように説得されるかもしれません。非常に面倒くさいです。仮に売ったとしたら?「あいつは売りやがった!裏切り者だ!」と言われます。言われるかどうかはわかりませんが、売ろうとしているOB株主は「売ったらみんなにばれちゃうんだろうな。裏切り者!って言われるんだろうな」と考えるでしょう。そして「OB会に行けなくなるなあ。さみしいなあ」と。だから大半のOB株主はコクヨに売りません。また、1株当たりの買付価格がコクヨ3,750円に対して、プラス3,500円であれば、おそらくプラスに売ります。買付価格がプラス3,500円に対して、コクヨ7,000円だったら、コクヨに売るOB株主もいるかもしれませんが、たった250円くらいの差だとしたら、ぺんてるやOB会に恨まれないようプラスに売ることを選択するでしょう。

コクヨは敵対的買収を見誤ったのではないかと私は思います。上場会社であれば株式を37%も取得したら買収者の勝ちですが、ぺんてるは非上場会社なのです。非上場会社の株主である従業員やOBは説明責任がありません。だから多少の買付価格の差であれば、ぺてるが望む行動をするはずです。

この勝負、コクヨの負けと私は読みます。「でもコクヨが37%も持っている状況だったら、今後の経営がやりにくいのでは?」 それは確かにそうです。でも上場会社ではないので議決権行使率を100%近くにできそうですし、特別決議が必要な議案さえなければどうとでもなるのではないでしょうか?コクヨもずっと保有し続ける訳にはいかないでしょうから。だってコクヨは上場会社ですから株主に対する説明責任があります。ま、コクヨが株を誰かに譲渡するときにまたもめるでしょうけどね。

 

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