2017年06月02日

No.99 第3話:第三の失敗~大切なことは戦わずして勝つ~

まずは本日のソレキア株価の状況です。以下は場が引ける少し前の時点の板です。

はい、ストップ高!昨日の終値は4,810円です。佐々木ベジ氏の市場での追加取得が思惑を呼んでいるのでしょうか?富士通は「5,000円を超えるTOB価格の引上げは投資判断として合理的限界を超えるものと判断」してTOB価格を引き上げませんでした。5,000円が合理的限界であれば「現在市場株価は5,500円を超えていますが、富士通さん、ソレキア株を売却しないのですか?」と株主に問われたときにどうするのでしょうか。

では、本編に入ります。

佐々木ベジ氏からの敵対的TOBに対して、なぜソレキアはホワイトナイトによる救済を選択したのでしょうか?私はコラムにおいて、佐々木ベジ氏に対してソレキアが質問権を行使した際に質問内容を見て「増配ではなくカウンターTOBを選択する可能性が高い」と申し上げました。佐々木ベジ氏のTOB価格についてソレキアが何ら質問をしなかったからです。「なるほど、カウンターTOBを仕掛けるけど、最悪、佐々木ベジに価格で競り負けることも想定し、TOB価格には言及せずに戦うのだろう」と読みました。ただし、富士通が登場することは「あり得ない」と考えていました。当然、重要な取引先、かつ、株主でもある富士通がもっともホワイトナイトにはふさわしいですが、私は「あり得ない」と考えました。

 なぜなら、この勝負はカウンターTOBでは勝てないからです。勝てない戦に富士通が出てくるはずがないと読んだからです。ですので、カウンターTOBを実施するのは、ソレキアの経営陣であろう、つまり、MBOを選択するのであろうと考えました。MBOを選択するであろうと考えたもう一つの理由は、ソレキアの主幹事が大和証券だからです。過去、スティールパートナーズに敵対的TOBを実施されたソトーという会社が、当初、スティールに対抗するために選択したのがMBOでした。大和証券系のファンドが金を出してMBOをしようとしましたが、スティールに価格で競り負け、結果、最終的には増配で対抗しました。「また同じことをやるつもりか?」と思いました。

 おそらくソレキアや富士通、大和証券は「大企業の富士通が佐々木ベジなどという個人に負ける訳がない!」と考えたのかもしれません。しかし、ここには大きな読み誤りがありました。1つ目は佐々木ベジ氏のことを読み誤りました。おそらく「佐々木ベジがいくら金を持っているかは知らんが、富士通に勝てるほどの金なんか持ってないよ」と考えてしまったのかもしれません。それが大きなミスです。佐々木ベジ氏の個人資産など誰も推測できません。当初の公開買付届出書に添付された残高証明は約17億円でしたが、「17億以上の金を突っ込んでくることなんてないだろ?」と考えてしまったのでしょうか。誰も推測できないことを安易に決めてしまってはダメです。むしろ「個人で敵対的TOBを仕掛けてきたのだから、いくらの個人資産があるのかわからん。資金力で勝てるなどと甘く考えない方がよい」と気を引き締めておいたほうがよかったのです。

 2つ目はなぜ佐々木ベジ氏が個人でTOBを仕掛けたのかを深く考えなかったことです。もともとソレキア株式については、佐々木ベジ氏個人ではなく、佐々木ベジ氏が会長をつとめるフリージア・マクロスが取得しました。普通に考えたら、フリージア・マクロスが仕掛けてきそうなもんです。でもあえて佐々木ベジ氏個人で仕掛けてきた。ここにも深い意味がありました。フリージア・マクロスは上場企業です。上場企業である以上、敵対的TOBを仕掛けても、一般株主に対して説明のつく範囲での価格にしなければなりません。でも、佐々木ベジ氏個人で仕掛けた敵対的TOBなら?そうです、いくらで仕掛けようが、いくらに価格を引上げようが、誰に対する説明責任もありません。

 一方、ホワイトナイトである富士通は?もちろん上場企業です。ですから「5,000円を超えるTOB価格の引上げは投資判断として合理的限界を超えるものと判断」せざるを得なかったのです。

 佐々木ベジ氏は最後にもう一度TOB価格を5,300円から5,450円に引き上げています。理由は「平成29年4月13日から平成29年4月21日までの期間において、市場株価が条件変更後の本公開買付価格(5,300円)を上回って推移していたことから、かかる期間に対象者株式を市場にて取得した対象者の株主の皆様からも、本公開買付けへの応募をいただける公開買付価格を提示する必要があると考えたため」です。これって本来は必要のない引上げですよね?でも、個人で仕掛けている敵対的TOBですからこういう引上げも可能です。

 この戦は戦わずして勝てた戦です。つまり、2,800円で敵対的TOBを仕掛けられた段階で、50円配を500円配に引き上げればよかったのです。「え、配当を10倍にするの?」と驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、有事の防衛戦において配当を10倍にすることなど普通です。スティールパートナーズに仕掛けられたユシロ化学は年間配当を11円から200円に引上げました。ちなみにMBOで対抗しようとしたソトーも結局、配当を13円から200円に引上げました。2,800円の株価の時に、500円配当!と打ち出せばどうなったでしょうか?また1期のみの大幅増配ではなく3年で総額1,500円の配当を実施すると公表したら?おそらく株価は2,800円を大きく超えるものと思われます。もっと低い増配でも対抗できたかもしれません。「佐々木ベジ氏の主張する内容に理解するところもあるので、今回配当を引上げることにしました」と公表するだけで勝てた戦です。にもかかわらずソレキアは軍隊を引き連れて佐々木ベジ氏と戦おうとしました。ところがどっこい、ホワイトナイトやソレキア軍の参謀たちは戦い方をまったく知らなかったのです。もちろん、佐々木ベジ氏がストラテジック・バイヤーだったらこの策は通じませんが。

 最大の敗因はソレキア経営陣が感情的になり過ぎたことではないでしょうか?ソレキア経営陣にお会いしたこともないですし、お話をしたこともないので、あくまで想像です。感情的になり過ぎたため「佐々木ベジを儲けさせるような行動は絶対にしない!!!」と考えてしまったのではないでしょうか?「40%買われたらどうするつもりですか?」と聞かれても、「そんなに買われる訳がないーーーー!安定株主がいるんだから売る訳ないだろ!!!買われたとしても戦うのみ!!」と。無益な戦でした。ソレキアや富士通は参謀であるフィナンシャル・アドバイザーにいくら支払ったのでしょうか。

 お客様とソレキアの件をディスカッションし上記の感情論について説明したところ「うちの会社も感情的に行動してしまうかもしれない」とおっしゃっていました。どこの会社もそうだと思います。なぜなら、敵対的TOBを経験したことがないからです。何度でも申し上げますが、アドバイザーの選定、平時からの経営陣の意識へのすりこみや避難訓練が非常に重要になってきます。

 

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